02.焔に近付きすぎた鳥

「……すみません、俺がとやかくと言う事じゃないですよね……」

歳上の、それも大佐を相手に説教してどうする。

ルークの行いをどう受け止めるかなど、それこそ個々人の考えを尊重して然るべきものなのに、自分の考えを一方的にダラダラと喋り聞かせるなんて。

失態だと両手で顔を覆うディルに、気にした様子の無いジェイドが全く別の話題を持ちかける。

「ところで、どうして貴方は私にだけ敬語なのですか?」

「それは、俺より歳も地位も上ですし……」

「そうですか。どことなく疎外感を受けていたんですがねぇ、嫌われているのかと」

「そういう訳じゃありませんけど……」

「正直な話、敬語で話されるとどうしてもシブレットを連想してしまうのですが」

そう言えば確かに、あちらも敬語で話していたなと思い返して、ディルは言い方を改める。

「……分かったよ。これでいいんだな?」

かなり違和感が拭えないが、相手は満足したのか作業に戻った。
しばらくすると、前方に滝のようなものが見えてくる。他のメンバーもそれに気づいた様で、窓辺に集まっていた。

「外殻の海水が落ちて、大瀑布になっているの。街はその奥よ」

「タルタロスなんて、水圧で潰されるんじゃないか?」

「大丈夫よ、地面に近いところは水分が気化しているから」

「では入港しますよ」

滝の霧を抜けると、ドームに覆われた街が姿を現した。
接岸して降りると、長い通路と独特な形をした建物が出迎える。

「ふぇ……! これがユリアシティ?」

「ええ、奥に市長がいるわ。行きましょう」

建物の内部は二階建てになっていて、二階の中央にある会議室のような部屋にその人物は居た。

「おお、帰ったかティア」

何故か少し遅れて入ってきたティアを、市長が見知らぬ面々の中に見つける。

「只今戻りました」

「この者たちは……」

ジェイドとイオンが一歩前に出てティアに並び、身の上を証した上で事の説明を始める。

自分が話に加わらずとも済みそうだとディルは判断して、簡単な挨拶と自己の紹介をして部屋の隅に下がった。

「……あれ、そういえばルークは?」

「へ? ……ほんとだ、居なくなってる。でもいいじゃん、あんなヤツほっとけばー?」

さっきまで後ろをついてきていた筈のルークの不在に今更気付いて、ディルは話を続ける皆から静かに離れ来た道を戻る。

さっきの事もあるし心配だと広すぎる街中を探し回っていると、ちょうど赤髪が目に入った。

「ルーク! あまり一人で動かない方が……」

足を止めて振り返った男の鋭い目付きに、ディルはすぐにそれがルークでないと気づいた。

「悪いが人違いだ」

「……みたいですね」

ルークによく似た顔の青年は、間違えられたことに対して腹を立てるかと思いきや、慣れているといった風に無表情だった。

「……ルークを見ませんでしたか?」

「それを俺に聞くか? 似ているのは見た目だけだと聞いていたが、お前も大概神経が図太いな」

アッシュはそう言いながらも、後ろの建物を指差した。
お前も≠ニ比較させられた人物が誰なのかは聞かずとも分かって、ディルは少し苦い顔になる。

「……お前はあのレプリカとは出来が違う様だな」

「レプリカって……」

「お前が今探してるお坊っちゃんのことだよ」

踵を返してさっさと去ってしまうアッシュに溜め息をついて、ディルは示された建物の中に入る。
部屋には家具や生活用品が置かれていて、一目で民家だと分かった。

こんなところに勝手に入っていいものだろうかと入り口で惑っていると、二階に続いているのだろう階段から誰かが降りてきた。

家主かと思いルークの事を尋ねようとした口は、開いたまま固まった。

「なぁアッシュ、本人の指示とはいえ女の子の寝室に同年代の男を寝かせるのは……あれ?」

相手もこちらに気づいて、ここにさっきまで居た仲間に話していたつもりだった言葉を途切れさせる。

青色の髪に同色の瞳、青を基調とした団服に、やっぱりずり落ちそうになっている帽子。

一瞬まるでそこに鏡があるのかと錯覚してしまうほど似通った二人の青年は、互いを見て固まった。

相手は自分をしっかりと目視したのは初めてなのだろうと、バチカルから今までに数回見たことのあったおかげで比較的落ち着いていたディルは思う。

そして暫くお互い何も発さずに見つめあった後、シブレットが口を開いた。

「……あんたがアッシュたちの言ってた俺のそっくりさん?」

「……まあ多分」

「へぇ〜!」

階段を数段跳ばしてディルの目の前にやって来たシブレットは、興奮気味に身体中をべたべた触りだした。

「すげぇ! ほんとソックリだな! 客観的に見たら俺ってこんな感じなのかー、あいつらいっつも足蹴にするからそんな酷い面してんのかと思ってたけどなんだ案外男前……」

「ちょ、あの」

「あ、でもなんかあんた髪の毛傷んでるな。あと磯臭いんだけど漁師か何か? 肌も割と焼けて……」

「あの!」

服の中にまで手を入れてまさぐろうとする相手に、ディルは流石に腕を掴み止める。

「初対面です!!」

「……あ、そうか。顔が一緒だからそんな感じしなかったわ」

ごめんごめん、と手を離したシブレットに、ディルはようやく強張らせていた体の力を抜く。

「……その、気味悪くないんですか?」

「何が?」

「お互い知らない者同士なのに、ここまで似てると」

シブレットは不思議そうに首を横に倒して一言。

「別に?」

髪の傷みがよほど気になるのか珍しいのか、指を絡ませてくるくると巻くその表情からは、確かに嫌悪感は感じられなかった。アッシュやルークとは大した違いだ。

「あんたは俺が気味悪いか?」

「いや、そんな事はないですけど……」

「だろ? 生き別れた双子とかかもしんねーし、寧ろ興味あるよ。名前は?」

「……ディル。ディル・スエンテ」

「え、名前まで一緒? 俺もディル、ディル・シブレット」

並んでるとややこしそーだな! と笑いながら、シブレットは一度はディルに向けた視線をまた髪に戻す。

子供のように目を輝かせる相手を邪険にも出来ずされるがままになっていると、長との話が纏まったのかティアが顔を出した。

「「ティア」」

「え、ええと……」

事情を知っているとはいえ並ぶと混乱してしまうのか、同時に呼ばれたティアはあたふたと目線を左右に振る。

そしてすぐ服装の違いに気付いて、シブレットに一礼した。

「ルークは部屋に寝かせといたよ」

「お手を煩わせてすみません、有難う御座いました」

「運んだだけでそんな大袈裟な。それに、ぶちのめしたのはアッシュだし」

ぶちのめしたって、何があったんだ大丈夫なのかとティアを見ると、簡単に経緯を説明してくれた。

「同じソックリさん同士でも違うもんだなぁ、血の気が多いからか? 俺なら無理だなー、自分痛め付けてるみたいで嫌だし」

なあ? と同意を求めてくるシブレットに、ディルは苦笑を返すことしか出来ず、そんな二人に今度はティアが「なにがあったんだ」という顔になる。

「話はどうなった?」

「あ、はい! 結論から申し上げますと、ジェイド・カーティス大佐、及び導師イオンと導師守護役、他二名も外殻に戻ることになりました」

「それはいいが、どうやって戻るんだ?」

「ここにはユリアロードがありますので、外殻に戻ること自体は難しいことではありません。ただその場合、タルタロスは置いていくことに……」

「あー……ちょっと勿体ないなぁ。でもまあ大佐がそれで納得してるなら仕方ないか、教団のじゃないし」

「ではシブレット謡手も、ユリアロード経由でお戻りになられますか?」

「そうだな、そうするわ。お前は?」

いきなり話を振られて、全く先の行動を考えていなかったディルが沈黙する。

崩落に巻き込まれただけでも精神的打撃は大きかったので出来るなら家に帰りたい気もするが、まだジェイド達に1つも恩返しになるようなことは出来ていない。
そう悩んでいるとシブレットが提案。

「予定無いなら、一緒に来れば?」

「一緒にって?」

「俺はこれからしばらく大佐についていくつもりだし、あんた元々大佐たちと行動してたんだろ?」

「まあ、そうですけど……」

一般人の自分がこのまま旅を続けていいものか、煮えきらないでいるとアッシュがやって来てティアを呼んだ。

「どっちにしろ外殻には帰るんだし、とりあえず大佐たちと合流しようぜ」

ディルはシブレットに腕を引かれ、ティアに何かを相談するアッシュの横を通って広場に戻る。
仲間たちは帰るまで自由行動になった様で、あちこちで暇を持て余していた。

「あ、ディルだ。どこ行ってたの? もしかしなくてもルーク探してたとか? お人好しだなぁ」

「いいじゃないか、お前も見習え」

「はぅわ! ディルが二人!?」

「名前的には間違ってないが、上官に対しての礼儀がなってないぞ〜」

「もー、並ぶと余計ぐるぐるするからやめてくださいよぅ! アッシュとルークだけでもややこしいのに〜」

「そりゃ悪かったな、お詫びに四六時中並んどいてやるよ。ジェイド大佐は?」

「上に居るんじゃないですかぁ? イオン様ぁ〜謡手が苛めてきます〜!」

わざとらしくイオンに泣き付くアニスから逃げてさっさと上に昇ると、会議室の前でジェイドが佇んでいた。

「おや、いつの間に仲良くなったんですか?」

「ついさっきですよ、俺に似て男前で安心しました」

「だそうですよ、良かったですね」

今のはただの自画自賛だろうに何がどう良かったのか。
無言になるディルの隣でシブレットが姿勢を正し頭を下げた。

「大佐、今まで数々の非礼申し訳ありませんでした。罪滅ぼしという訳ではありませんが、今後は俺も同行させて下さい。少しでもお力になれるよう尽力致します」

「……貴方がヴァンの遣わせたスパイではないという証明が出来るのであれば、許可しましょう」

「大佐が死ねと命じるなら今ここで自害します」

とんでもないことを言ってのけたシブレットの目は真剣そのもので、ディルは自分には到底真似出来ないとある意味で尊敬した。

「……まあ、いいでしょう。アクゼリュスの件といい、ヴァンの目論見を知っている訳では無かったようですしね。貴方はどうしますか?」

「俺は……」

目を伏せるディルの答えを、二人がじっと待つ。暫くして、顔が上がった。

「……迷惑じゃないなら」

差し出された手に意味を理解したジェイドが「勿論歓迎しますよ」と笑んで握り返す。

そんな二人を見て、ディルの同行に喜んでいたシブレットはどこかつまらなさそうにそっぽを向いた。
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