02.焔に近付きすぎた鳥

「ああ、アッシュ。例の作戦、アクゼリュスのセフィロトを利用すれば行けそうです」

ティアとの話が済んだのか、姿を現したアッシュにジェイドが切り出す。
会議中席を外していた二人は何のことかと視線をジェイドとアッシュに向ける。

「タルタロスを外殻に持ち帰る」

「えっ、そんなこと出来るのか?」

「同時に喋るな!」

「?」

シブレットの疑問に何故かアッシュが怒鳴る。
彼の発言は現在意識を共有させているルークとシブレットの台詞が全く同じだったことに対してだったのだが、ルークの声など勿論聞こえていない他3名にはそれは知り得ぬことだった。

「アッシュ、疲れてるんじゃないのか?ちょっとは休めよ。顔色も悪いし。ああでも顔色悪いのはいつもだっ――」

同情の眼差しを向けるシブレットの頭を叩いて、アッシュはさっさと会議室に入る。
ジェイドとディルはやれやれといった様子で、頭をさするシブレットを引っ張って後に続いた。






市長に出発を伝え、未だ眠ったままのルークと、その看病に残ったティアを除いた全員が、タルタロスに集合する。
ディルはようやく回復したジョンと父親にも簡単に事情を説明した。

「にーちゃんが助けてくれたの?」

「俺だけじゃない、皆でだよ」

「そっか、ありがとう!」

力一杯抱き締めて曇りのない笑顔をくれた相手の頭を撫でてやると、ジョンは軽い足取りで他のメンバーにも礼を述べに回った。

艦の扱いを理解しているアッシュ、アニス、ガイの三人は窓際の操縦席に座り、他は艦の中央に固まって並ぶ。

「これだけの陸艦を、たった四人で動かせるのか」

「最低限の移動だけですがね」

「ねぇ、セフィロトって、あたしたちの外殻大地を支えてる柱なんだよね。それでどうやって上に上がるの?」

「セフィロトというのは星の音素が集中し、記憶粒子が吹き上げている場所です。この記憶粒子を人為的に強力にしたものがセフィロトツリー、つまり柱です。一時的にセフィロトを活性化し、吹き上げた記憶粒子をタルタロスの帆で受けます」

「要するに記憶粒子に押し上げられるんだな」

「無事に行くといいのですけれど」

「心配するな、始めろ!」

タルタロスがセフィロトの上に停止し、音素活性化装置が作動する。
すると狙い通り泥の海からかすかにわき出る記憶粒子が無数の枝を伸ばすように天へと吹き出し始め、その流れに乗ってタルタロスも上空へと浮き上がる。アクゼリュスがあった場所に空いた穴から外殻に飛び出し、豪快に着水した。

窓から見えたセフィロトツリーはその名の通り正に光の木のようだったが、やがて薄れて消えていった。

「うまく上がれたようですね」

「ここが空中にあるだなんて、信じられませんわね……」

「それで? タルタロスをどこへつけるんだ?」

アッシュ曰く、ヴァンがよく出入りしている研究所があるとのことで、ベルケンドに向かうことを提案する。
アニスはイオンと一緒にダアトに向かって欲しいと頼んだが、アッシュはベルケンドが先だと断った。

「こちらの用が済めば帰してやる。俺はタルタロスを動かす人間が欲しいだけだ」

「自分の部下を使えばいいだろうに」

「それはできない、俺の行動がヴァンに筒抜けになる」

「なら、シブレット謡手にやらせればいーじゃん!」

「俺はいーけど、代わるか?」

「やめろ、死人が出る」

「俺は安全運転してるつもりだったんだけどなー」

「お前に任せるくらいなら素人に任せた方がマシだ」

「いいじゃありませんのアニス、私たちだってヴァンの目的を知っておく必要があると思いますわ」

「ナタリアの言う通りです」

「……イオン様がそう言うなら協力しますけどぉ」

アニスはそれでもいまいち納得いかない様子で頬をふくらませてそっぽを向く。
船はそのまま四人の操縦で港へと入港した。

「……ちょっといいか?」

ディルは先を急ぐアッシュ達には続かず、少し考えてから皆を呼び止める。

「どうしました?」

「先にこの二人をエンゲーブまで送りたい、少しの間別行動を取らせてもらってもいいか?」

アクゼリュスからここまでの移動だけでも相当疲労がたまっているだろう親子は、見るからに辛そうだった。
この先いつエンゲーブに行けるか分からないし、その時まで連れまわすのは酷だろう。

「それは構いませんが……、エンゲーブまではどうやって?」

「定期船があるだろうし、乗り継いでいけば今日中には着くと思う」

「一人で大丈夫ですの?」

「街道沿いに行けば魔物も多くはないだろうし、なんとかやるよ。そっちもやることがあるだろうし」

「わかりました、気をつけて下さいね?」

「有難うございます。そちらもお気をつけて」

皆に一礼して、申し訳なさそうに謝るパイロープと無邪気なジョンを連れて港へと戻る。

「ディル、これを」

「? なんだ?」

三人分のチケットを買って船に乗り込もうとしたところで、ディルはジェイドに縦長の封筒を渡される。
何だろうかと開けようとすると、エンゲーブについてからにしてくださいと止められた。

「明日またここに迎えに来ます。それでは」

返事も待たずさっさとアッシュ達を追いかけていくジェイドに首を傾げつつ、ディルは出航の汽笛を聞いて慌てて親子の乗る船に駆け込んだ。






「あいついい奴だな〜」

「お人好しっていうんですよぅ」

三人が抜け、だからといって何が変わるでもない一行は、南にある街へと列を成して移動していた。
港からそれほど距離もないので、魔物に遭遇することも少ない。

「アニスだって懐いてたじゃねーか」

「別に懐いてませんよぅ!」

「大佐だって、なんか優しくしてたし」

「優しく……してたか……?」

先頭を歩くジェイドを見ながら、一緒にいたときの二人を思い返して、別に皆に接するのとまったく差異なかったように思うガイは苦笑する。

「はっ! そういや、同じ顔のやつに2人出会ったら死ぬって聞いたことが…、あいつで1人、あと1人で俺は……」

「まぁ! そんな恐ろしい話がありますの!? それは大変ですわ!!」

そんな話題に沸き立つ一行に、アッシュはナタリアが混ざっている手前罵声を飛ばすこともできず、1人黙々と足を動かした。






「何から何まで、本当に有難うございました」

夕暮れになって無事にエンゲーブに到着したディルは、何度も頭を下げるパイロープと笑顔で手を振るジョンを見届けて、ついでに実家にも顔を出してみた。

急な帰宅に喜んではくれたもののやはり前回と同じく風呂に投げ込まれ、デジャブを感じつつ泡立ちの悪いシャンプーを頭に直接のせる。
ティアやジェイドは髪綺麗だよなぁ、やっぱりそれなりの手入れはしてるんだろうなぁと思いつつ自分がそれを見習うつもりはさらさらなく、泡を洗い流して顔にかかる前髪をかき上げた。

「聞いたよ、アクゼリュスでパイロープさんを助けたんだってね。さっきお礼を言いにきてくれたよ。それにしても、よく無事に戻ってこれたねぇ、あんたは怪我しなかったのかい?」

「一緒にいた人のおかげでね」

「そういえば大佐たちはどうしたんだい?一緒じゃないのかい」

「今は別行動、すぐ戻るよ」

そういえばあの封筒をまだ開けてなかったなと、荷物の中から2つ折にしていた封筒を取り出して開封する。中には手紙ともう1つ。

「……チケット?」

普通のチケットとは少し違うそれは、全席指定席、カイツールの軍港からベルケンド港まで直通の客船のチケットだった。
自分の知る限り、今の自分の財布をひっくり返しても払える金額のものではない。

真っ青になりながら同封されていた手紙を開くと、この代金は今後の働きで返して下さいね≠ニ達筆で一言だけ書かれていた。

このチケット分の働きってどれだけこき使われたら返せるんだと、船代を払ってくれた相手に感謝する気にもなれずディルは頭を抱えた。
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