03.空を翔けるは銀の翼

「やれやれ、大仕事ですよ。1つの街の住人を全員避難させるというのは」

「大佐、陛下と仲が良いんですね……」

「まあ、長い付き合いですから。それより、話はちゃんと聞いていましたか?」

「どうすればいい? 俺、何をしたらいいんだろう」

「陛下のお話にもありましたが、アクゼリュス消滅の二の舞を恐れて軍が街に入るのをためらっています。まずは我々がセントビナーへ入り、マクガヴァン元帥にお力をお借りしましょう」

城を出て宿に戻ると、マルクト兵が解呪が成功したと教えてくれた。
まだ少し不安そうな顔のルークが、表情に反して足早に宿へと入る。

室内にはイオンとアニス、そしてベッドの上であぐらをかくガイの姿があった。

「ガイ! ごめん……」

「……ルーク?」

「俺、きっとおまえに嫌な思いさせてたんだろ。だから……」

突然の謝罪にガイは「なんだそれ」と笑う。
顔つきも口調もいつものように穏やかなものだった。

「おまえのせいじゃないよ。俺がおまえのことを殺したいほど憎んでたのは、おまえのせいじゃない。俺は……マルクトの人間なんだ」

「え? ガイってそうなの?」

「俺はホド生まれなんだよ。で、俺が五歳の誕生日にさ、屋敷に親戚が集まったんだ。んで、預言士が俺の預言を詠もうとした時、戦争が始まった」

「ホド戦争……」

「ホドを攻めたのは、確かファブレ公爵ですわ……」

「そう、俺の家族は公爵に殺された。家族だけじゃねぇ、使用人も親戚も。あいつは……俺の大事なものを笑いながら踏み躙ったんだ。だから俺は、公爵に俺と同じ思いを味わわせてやるつもりだった」

ガイの過去を知って静かになる室内で、ただ一人、ジェイドが口を開く。

「あなたが公爵家に入り込んだのは、復讐のため、ですか? ガルディオス伯爵家、ガイラルディア・ガラン」

「うぉっと、ご存知だったって訳か」

「ちょっと気になったので調べさせてもらいました。あなたの剣術はホド独特の盾を持たない剣術、アルバート流でしたからね」

「よくそんな細かいところまで見てますね……」

「……なら、やっぱガイは俺の傍なんて嫌なんじゃねぇか? 俺はレプリカとはいえ、ファブレ家の……」

「そんなことねーよ。そりゃ、全くわだかまりがないと言えば嘘になるがな」

「だ、だけどよ」

「おまえが俺についてこられるのが嫌だってんなら、すっぱり離れるさ。そうでないなら、もう少し一緒に旅させてもらえないか? まだ、確認したいことがあるんだ」

「……わかった、ガイを信じる。いや……、ガイ、信じてくれ……かな」

「はは、いいじゃねえか、どっちだって」

笑い合う二人に、見守っていた皆が安心して息を吐く。

ディルはガイの確認したいこと、というのが何なのか気になったが、誰も問わないので彼が自発的に言ってくれるようになるまで待つことにした。
きっと旅を続ければ、そのうち話してくれるだろう。

「…………」

そういえば、自分はどこまで彼らについていくのだろうか?

元々はアクゼリュスまでと言っていたはずなのに、気が付けばこんなところまでやって来てしまっている。
今も当たり前のように作戦の頭数に入れられてしまっているが、世界規模の問題を前に、一市民でしかない自分がこのまま同行し続けていいのだろうか。

「さて、いい感じに落ち着いたようですし、そろそろセントビナーへ向かいましょうか」

「……あの」

「ああ、使者の方から聞きました、セントビナーへ行くって。でもイオン様はカースロットを解いてお疲れだし、危険だから私とここに残ります」

言いだそうとした言葉はアニスによって遮られ、その声をキャッチしたジェイドだけが不思議そうにディルを見る。

「アニス、僕なら大丈夫です。それに僕が皆さんと一緒に行けば、お役に立てるかもしれません」

「イオン様!?」

「アニス、それに皆さん、僕も連れて行ってください。お願いします」

「師匠がイオンを狙ってんなら、どこに居ても危険だと思う。いいだろ、みんな」

「目が届くだけ、身近の方がマシということですか。仕方ないですね」

アニスは納得がいかないようだが、結局イオンも連れて行くことに決まった。
すっかり発言の機会を奪われてしまったディルは意気消沈して黙り込む。

まぁ、とりあえず、セントビナーまではいいか。
なんとなくで行動する自分に嫌気がさしたが、名前を呼ばれてはついて行くしかなかった。
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