01.それは終局への幕開け

「ふっ、いいところに来てしまったようだな」

見事着地を決めたその男は、つけていたサングラスを放り投げてキメ顔。
そしてそれを見た瞬間、シンが「あ」と声を漏らした。

そう、それは、トリグラフのマンション前で出会ったビズリーの部下。
改札を飛び越えてまで自分を追いかけてきたあの男だった。

「ん? ──あぁあぁあ!? お前は……!!」

「あれ、知り合い?」

「貴様ぁ! あの時はよくも人の顔に物を投げつけてくれたな!」

「しつこく追っかけてくるてめーが悪いんだろ、このストーカー野朗!!」

「……ストーカー?」

「何やってんだよ巫子殿……」

「ち、違うぞっ! 俺は社長の命でだな……! ──とにかく! お前を見つけたら捕まえろとのご命令だ! 大人しく……」

「ちょっと待ってイバル、他に何か用があったんじゃないの?」

ジュードに言われ、武器に手をかけたイバルがハッとする。
そのままの姿勢でしばらく思考した後、何もせず武器から手を離した。

「……確かに今は、先にやるべきことがある。──おいお前! 後で捕まえてやるから、逃げずにそこで待っていろ!」

イバルは懐から何かを取り出す。
それは二丁の拳銃で、安全装置をかけていなかったのか、握った弾みで弾が打ち出された。
格好のつかないその動作に皆が呆れる。

「み、見ての通り危険な武器だ。扱いには十分気をつけろ」

「言いながら銃口をこっちに向けんじゃねーよ馬鹿」

「さぁ構えろ! 使い方を叩き込んでやる」

そう言って戦い始めた二人だが、ルドガーは教えてもらうまでもなく、直ぐに銃を使いこなしてみせた。
そしてそのまま完膚なきまでにイバルを叩きのめす。

「……あいつ意外とサドなんだな。見てて清々しいけどよ」

「サド?」

「えっと……意地悪が好きな人って意味、かな……?」

そんな会話をしている内に戦闘は終わったようで、ルドガーにボコボコにされたイバルがふらつきながらも立ち上がった。

「容赦なくやってくれたな……俺じゃなきゃ死んでるところだ!」

「大丈夫、イバル?」

「ふん……妙な気を遣う誰かよりよっぽとマシだがな。さて、次はお前──と、言いたいところだが……今日のところは見逃してやる……」

「だろうな」

その体では自分を捕まえることは不可能だろうと、シンはほんの少し同情の目を向ける。
よろよろと傷だらけの体をひきずって去って行くイバルに、相変わらずだなとアルヴィンが苦笑した。

「あれも友達かよ?」

「まぁ、そんなとこ。それにしても、シンはどうしてイバルに追われてるの?」

「さぁな。俺があいつらの仕事邪魔してっからじゃね」

「なんで、んな事してんだよ」

「あんたらには関係ねー話。先行こうぜ」

物言いたげなジュードを無視して、再び塔目指して歩き出す。

「……ま、事情は人それぞれだな」

「……うん、そうだね」

「言ってくれてもいいのに、隠し事ばっかり!」

「大人ってのはそういうもんだよ」

「アルヴィンも?」

「ははっ、そうかもな。……でも俺は、もう嘘や隠し事は辞めにしたいと思ってるよ」

「アルヴィン……」

「ほら、早く追いかけねーと見失っちまうぞ」

ジュードの背中を叩いて、アルヴィンも歩き出す。
1年前とは違う、確かに変わろうとしているアルヴィンに、ジュードは微笑んだ。









標識も何もなく、適当に走っていると迷ってしまいそうな道を慎重に進んでいく。
塔まではあと少し。だが、度重なる戦闘に疲労も溜まってきていた。

「変なの来た!」

ここに来てまた新しいタイプのロボットの出現にうんざりしつつ体勢を整える。
だが敵は横から来た衝撃破により、自分たちの目の前で吹き飛ばされた。

「ふぅ……もういませんね?」

「エリーゼ!」

エレンピオスでいう学生服のようなものに身を包んだ少女に、皆が警戒を解く。
またもジュードの知り合いらしいその少女の傍らには謎のぬいぐるみが浮かんでいて、それだけでも奇怪な光景だというのに、あろうことかソレは人の言葉を話した。

「ジュード!」

「アルヴィンもいるー!」

「……どういう仕掛けだアレ」

「まさか、リーゼ・マクシアの親善使節って……」

「はい、私たちの学校が選ばれたんです」

自分と同じく「誰だこの子」状態になっているルドガーに、ジュードが少女とぬいぐるみの名前を教える。

「エリーゼとティポだよ。エリーゼ、こっちはルドガーとシン」

「お2人とも、ジュードのお友達ですか?」

「ああ」

「いや、俺は……」

「はじめましてー!」

俺は違う、と言いかけたところで、シンの視界が突然闇に覆われる。
一瞬、何が起こったのか理解できなかった。

「!?!?!?」

「だめだよティポ。それ、結構息苦しいんだから」

「経験者語る、だな」

頭をすっぽりと覆っているそれがティポであることを把握し、剥がそうとその体を掴んで思い切り引っ張る。
やたらの伸縮性のあるそれはまるでお餅だ。

「なんっなんだよそいつ!?」

「ティポっていうんですよ、仲良くして下さいね」

「中身どーなってんだ!」

「それは……僕らにも、ちょっとよく分からないや」

「……変なの」

バッサリと言い放ったエルに、エリーゼが肩を落とす。
今回ばかりは自分もエルに同意だ。

「エリーゼ、友達も一緒だったんだろ?」

「はい、ティポを持ってて助かりました」

「学校の皆は、エリーゼが安全な部屋へ避難させたよー」

「バランって人も?」

「バランさんは、私たちを逃がすために囮になって……」

「開発塔の上の方に残ったんだー」

「だから、助けを呼びに来たんです」

子供にしては懸命な判断だなと、見た目には歳相応の少女にしか思えないエリーゼに感心する。

と、その時、頭上の空が光って雷鳴が轟いた。
びくりと肩を跳ねさせたエルに、エリーゼが怖いのかと聞くが、エルは「べ、別に!」とそっぽを向く。

だがその強がりは、次に来た一際大きな雷鳴に崩れ去った。

「きゃああああああああ!!」

堪えかねたエルが、絶叫してその場にしゃがみ込む。

その瞬間、歪んだ世界に、シンは目を見開いた。
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