02.破壊と救済
「お待たせー二人とも、バランさん見つかったよ!」それから暫くして、レイアを筆頭にバランを連れたルドガー達が戻って来た。
上手く逃げ隠れていたようで、バランは怪我もなく無事だったようだ。だが、結局彼もユリウスの居場所については知らなかったらしい。
「でも、代わりにクランスピア社から連絡があってな、イラート海停で目撃情報があったんだと」
「イラート海停? 聞いたことねぇな」
「リーゼ・マクシアにある港ですよ」
「皆さん今からそちらへ?」
「うん、アルヴィンとエリーゼも手伝ってくれるって」
「次から次へとよくもまあ……、全員がユリウスに用って訳じゃねーんだろ、リーゼ・マクシア人ってのは厄介事に首突っ込むのが趣味なのかよ?」
「そう言うおたくはどーすんだ? さっきルドガーと揉めてたけど」
忘れてた。
アルヴィンの言葉でそれを思い出したシンは、素知らぬ顔をしてやり過ごそうとしていたルドガーを睨みつける。
が、問いただそうとしたところで、突然流れ出した軽快な音楽に邪魔をされてしまった。
音の出処はルドガーのGHSからで、受話ボタンを押した途端に明朗な女性の声が聞こえてくる。
『ここで新着情報! イラート海停までの移動許可が出たよー。返済をこなせばほかの海停の制限もどんどん解除されるから、男なら海を目指せ! ……なーんて、これ差別だよねー? 女だって海を目指すべき!』
いつもの事なのか、ルドガーは生返事でそのハイテンションを受け流していたが、シンは聞こえてきた「返済」というワードに片眉を上げる。
「あいつ何か借金でも背負ってんのか?」
「前に列車テロに巻き込まれた時、ルドガー達も怪我しちゃってね。クランスピア社のリドウさんって人に治療して貰ったんだけど、その治療費にとんでもない額を請求されてるんだ」
「……とことん運がねーな。つーかまたクランスピア社かよ、もしかしてマッチポンプなんじゃねぇの?」
「どうだろ。流石にそんな詐欺紛いの事をする為だけに、あんな大事件を起こすとは思えないけど……」
電話を終えたルドガーは、悲壮感たっぷりに溜息を吐いて肩を落とした。
その様に尋問の気を削がれたシンも、盛大な溜息を吐く。
「で、シンはどーすんだ?」
「元々こっちはユリウスの野郎に用があって来てんだ、行くに決まってんだろ」
「んじゃ、とっとと行くとするか」
「こうして皆で居ると、一年前のこと思い出すね〜」
「一人足りねーけどな」
一人足りない、という発言にジュードは悲しげな表情で俯いたが、彼らの事情を知らないシンにその理由は分からなかった。
「あらら! みんな無事で!?」
イラート海停に到着するなり、一行にそう声をかけてきたのは情報屋のジョウだった。
ルドガー達とシンとジョウは、それぞれに知り合いだったのかという顔付きになる。
「いやぁ、その節はどーも失礼しました」
「その節って?」
「前にドヴォールでユリウスさんの情報を買ったんだけどね、結局人違いだったんだ」
「お前それ情報屋としてどうなんだよ……」
「人間誰しも間違うことはあるものよ。そうそう、クラン社のエージェントは宿屋に居るわよ、じゃねー」
「流石、なんでもお見通し」
ヒラヒラと手を振って去っていくジョウに、レイアが感心したように呟く。
色々と言いたいことはあるが、今はユリウスが先だ。宿屋に向かう皆について行こうとしたシンは、しかし途中で足を止めた。
(あっぶね、迂闊にエージェントの前に姿晒すとこだった)
今のユリウス程ではないにしろ、自分もクランスピア社にとっては指名手配犯のようなものだ。ルドガー達と共に居るとはいえ、これまでの行いを考えれば見逃される保証も無い。
「シン? どうしたの?」
「俺ここで待ってるわ、エージェントと顔合わせると面倒な事になるんでな」
「そう言えば、イバルにも追われてたんだっけ」
「そ。つーわけで、ユリウスの情報が聞けたら後で教えてくれ」
とは言え、彼らが自分にそれをする義理も無い。
帰って来ねーかもな、と思いつつ港で大人しく待っていたシンは、律儀に戻って来たルドガー達を見て微妙な顔になる。
「ほんっとお人好しだな……」
「? 何か言ったか?」
「なんも。んで、ユリウスは何処だって?」
「それが、兄さんはもう既に居なくなってて。代わりにエージェントの人がこれを、クランスピア社に至急届けてくれって」
言いながら、ルドガーはシンに掌大のディスクのようなものを見せた。
「何だそれ」
「兄さんから奪い取った物らしいけど……、分史世界データのコピー? とか何とか。道標がどうとかも言ってたけど、俺にはよく分からなかった。シンは何か知ってるか?」
「……さーな。でも、それがクランスピア社にとって大事なもんだって事は分かった」
そう言って、シンはルドガーの手からそれを掠め取った。
盗られたルドガーは、突然の事に目を点にする。
「何するんだよ?」
「これは俺が預かる。クランスピア社の奴らにこれ以上好き勝手されると困るんでな、脅しの材料にでも使わせて貰う」
「いやでも、俺はそれを届けるように言われてるし、困るんだけど……」
「途中襲撃に遭って奪われましたっつっとけ」
「それで納得して貰えるとは思えないんだけど……」
「もしお前がやべー事になりそうだったら、そん時は返してやるよ。とりあえず一旦手ぶらで帰れ、んでビズリーの野郎に、"返して欲しけりゃこれ以上分史世界に手ぇ出すな"って伝えとけ」
シンは徐にルドガーのネクタイを引っ張って、そこにバッジのようなものを取り付けた。
「これは?」
「餞別。ディスクと交換な」
ルドガーは納得がいかない様子だったが、戦ってまで取り返す気は無いのか、とぼとぼと足取り重くエレンピオスの方へと歩いて行った。
一連のやり取りを見ていた仲間たちは、その姿に同情を寄せる。
「そういや、エリーゼとローエンは?」
「二人は負傷したエージェントの人達の治療の為に残ってくれてるんだ。僕達はルドガーについて行くけど、シンは……」
「敵の膝元にホイホイ行くわけねーだろ」
「なら、出来ればここに残って二人を手伝ってあげて」
そう言われても、エージェントの前に出ていく訳にも行かないのだが。
そんなシンの心を知ってか知らずか、ジュード達はさっさとルドガーを追いかけていった。去り際に、エルがあっかんべーを残していく。
(……しゃーねぇ、取り敢えずあいつらが宿から出てくるのを待つか)
とは言えただ待つだけというのも暇なので、シンは港に居た仕事の仲介人から適当な依頼を引き受けて時間を潰す事にした。
これまでは駅食堂のアルバイトで事足りていたが、当分出勤出来なくなった今、金を稼ぐに越したことはない。
(つっても今ここから離れる訳にもいかねーし、港の中だけで完結する仕事ってなると猫探しくらいしかねーな……)
それでも多少の足しにはなる。シンはその依頼を引き受けて早速迷子の猫探しを始めた。