02.破壊と救済

こちらが手を焼いている間にあちらはアスコルドを調べ終えてしまったようで、ルドガー達とは別行動を取っていた筈のジュードとレイアの声も聞こえてくる。

『ここに次元の避け目があったよな?』

『断界殻が消えた時に無くなっちゃった……?』

『元々存在しなかったのかもな。考えてみろよ、ここじゃジランドがエレンピオスで暮らしてたんだぜ?』

『……有り得るね。ここは、まだ断界殻があって、次元の裂け目が開いていない。つまり……』

『エレンピオスとリーゼ・マクシアが分かれたままの分史世界かもって事か!』

音だけでは彼らが今何処にいるのかは分からなかったが、雑踏が聞こえてこない事からして街中には居ないのだろう。
そしてその答えは、続くジュードの言葉で判明する。

『長い髪の精霊!?』

『……あちらもこうであれば、彼の地へ手出し出来ないのだが』

次いで聞こえてきたのはクロノスの声だった。つまり、彼らもシンと同じくヘリオボーグ先の荒野まで来たのだろう。
彼の地という単語に反応したエルの声が聞こえて、だがそれはすぐ悲鳴と轟音に変わった。

『きゃあああ!』

『ぐっ……!』

『ルドガー!』

『クルスニクの一族、飽きもせず鍵を求めて分史世界を探り回っているのか』

恐らくはクロノスが攻撃を仕掛けたのだろう。反撃と思しき銃声と共に、アルヴィンの声が聞こえてくる。

『何様だよ、お前?』

『我はカナンの地の番人、大精霊クロノス。貴様らも時空の狭間に飛ばしてやろう、人間に与する、あの女マクスウェルと同じようにな!』

『マクスウェル!?』

「マクスウェル?」

GHS越しのジュードの声とシンの声がシンクロした。
女マクスウェルと言えば、ついさっきまで喋っていたミラの事だと思うが、次元の狭間に飛ばしたというのはどういう事なのだろうか。

『今のは、どういうこと!?』

『落ち着いて、ジュード!』

『知っても無駄だ』

『それでも……答えてもらうよ!』

珍しく躍起になっているジュードの言葉を皮切りに、会話は聞こえなくなった。代わりに、激しい戦闘音がシンの鼓膜を揺らす。

(この世界のミラは今そこに居るしな……、もしかして、正史世界のミラ=マクスウェルの話か? 精霊界に帰ったって話だった筈だけど……、つーか、このリアクションだとジュード達の顔見知りか?)

次々に湧き上がる疑問を他所に、ルドガー達の戦闘は続く。剣や棍のぶつかる音、精霊術が荒れ狂う音、銃声。あまりの騒音に、シンはGHSから耳を離して顔を顰めた。

『はぁ……はぁ……』

『ジュード……』

『一人で飛ばしすぎだって』

『……ごめん』

『皆さん!』

それが収まったかと思うと、ずっと聞こえて来なかったローエンとエリーゼの声がした。どうやら別行動だったらしい、これで全員集合だ。

(……このままクロノスが上手いこと足止めしてくれりゃいいんだけどな)

ルドガー達の攻撃が全く効いていない様子のクロノスの声を聞きながら、シンはそんな期待を抱いていたが、残念なことにそれは叶わなかった。

『ユリウスさん!』

「……はぁ!?」

『ルドガー、お前の時計を!』

突然場に乱入して来たらしい男の名と声を聞いて、シンは絶句。

(ウッソだろ、あいつまで来てたのかよ!)

ルドガー達だけでも十分脅威だと言うのに、ユリウスまで居たのではこちらの勝算など無いに等しい。
更にはその声を最後に、突如音声が乱れ通信が切れてしまう。

一体何が起こっているのか分からずパニックに陥るシンは、

「痛って!」

「きゃあっ!」

「くっ!」

「おっと」

背後で上がったその声に驚き振り返った。
そこには、先程まで荒野に居たはずのアルヴィン、エル、ユリウス、ローエンの姿。

「な、な、な……」

「……おや、シンさんではありませんか」

地面に転がっている他の面々とは違い、優雅に着地を決めたローエンに言われ、シンはわなわなと震え出す。

「突然居なくなってしまわれたので心配しましたよ、連絡もつきませんし」

「おっ、お前ら、何でここに、どうやって」

「あーっ! シンみっけ!」

「お、ホントだ。つーか、ここってニ・アケリアじゃねーか」

続いてエル、アルヴィンも立ち上がり、各々の感想を漏らした。最後に、ユリウスが立ち上がってシンを見る。

「お前は……!」

「ちょちょちょ、待った、ちょっと一旦頭ん中整理させろ」

「あれ、ルドガー達は?」

「そう言えば、見当たりませんね」

頭を押さえて呻くシンとは裏腹に、エル達は至極落ち着いた様子で辺りを見渡す。
確かに、先程まで一緒だった筈のルドガー、ジュード、レイア、エリーゼの姿はない。

「ルルもいない! 探さなきゃ!」

「っておい、勝手に彷徨くなって、迷子になっちまうぞ」

ぱたぱたと駆けていくエルを追って、臨時の保護者であるアルヴィンもその場を離れる。
ローエンは、何やら頭の痛そうなシンと、今にも剣を抜きそうなユリウスを交互に見ながら、

「……お二人のご関係は詳しく存じませんが、一先ずはルドガーさん達と合流しませんか? お話はその後に」

そう提案した。

「合流には賛成だが、こいつは俺の……ルドガーの敵だ。連れていく訳にはいかない」

「正にその件に関して、我々はシンさんとお話がしたいと思っていたところです」

「……知り合いなのか?」

「ええ、つい先日まで行動を共にしていました」

「……まさかルドガーにまで手を回していたとはな」

「……別にてめぇの弟だって知ってて近付いた訳じゃねーっつの。俺はあんたらと話すことなんかねーよ」

「そう言われてしまいますと、今ここで戦うことになってしまうのですが、それをお望みですか?」

痛いところを突かれたシンは押し黙り、ローエンは穏やかに微笑む。

「見ての通り、今のシンさんに我々と敵対する意思はありません。その上で彼を排除しようとするのなら、貴方が我々の敵という事になってしまいますよ」

「……そう言われては、こちらも手出し出来ないな。わかった、この件は一旦保留にする」

「有難うございます。では、行きましょうか」

ローエンにそう促され、先に歩き出したユリウスに続き、主導権を奪われたシンも重い足取りで歩き始めた。
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