03.帰る場所を失くして

そうして案内された場所には、先に逃げていた学生達が集っていた。
転がり込んできたクラックを、壁に凭れていた赤髪の青年が安堵の表情で迎える。

「クラック、無事だったか!」

「へへ、まあな。この人たちのおかげさ」

と、紹介されたアースト達を、赤髪の青年は鋭い目付きで睨んだ。

「……何故連れて来た?」

「助けて貰ったんだ、いいだろ? そうだ、名前聞いてなかったよな」

「ミュゼよ。私、浮いているけど、それを言われると乙女心が傷付くわよ」

「あ、ああ。そうなんだ……言わないよ」

恐らく彼の心の中は疑問で溢れている事だろう。それでも素直に従ったクラックに、ミュゼは妖艶な笑みを湛える。

「俺は……アースト。こいつはルドガーだ」

「へえ、アーストにルドガーか。俺はクラック。あいつはリーダーのターネット、俺の親友だ。改めて宜しくな」

「ところで貴方達……何かのグループ?」

「一応は学生ってやつ。あんま学校行ってないけど。そんな奴らがつるんでるだけだよ。――なあ、暇あるか? 今度俺に戦い方を教えてくれよ」

興奮気味に迫ってくるクラックをはじめ、他の面々も尊敬の眼差しでアースト達を取り囲んだ。
だが一人、ターネットだけは、尚も眼光鋭く皆を睨みつけている。そして、声には出さず口だけを動かして、彼らを公園に呼び付けた。

「……だそうだけれど、どうする?」

「ルドガーに任せる」

「えっ俺!? えーっと、じゃあ……無視するのも何だし、行くだけ行ってみよう。この辺りに住んでるなら、後々何かあっても困るし……」

「わかった、ならば行くぞ」

適当な理由を付けて学生達の輪から逃れた三人は、指定された公園――ルドガーとシンの住むマンションの前へと向かう。

そこで一人待っていたターネットは、まるで親の仇でも見るような目で三人と対峙した。

「何か用か?」

「俺たちの前から消えてくんないかな? ハッキリ言って気に食わないんだよ」

「俺にはなかなか興味深い経験でな。出来ればこのまま交流を図りたいと思っている」

「あのさ、はっきり言って信用出来ねーんだわ。俺は気付いてんだよ、お前の正体!」

ビシっと人差し指をアーストに向けたターネットに、ミュゼは笑いルドガーは慌てる。
が、ターネットの口から出た答えは、三人の予想していたものとは違った。

「お前……リーゼ・マクシア人だろ? 隠してるんだろうけど、分かんだよ」

「……それが理由か?」

「俺、マジで嫌いなんだよ。エレンピオスから出てけよ!」

成程、シンはあれでまだマシな方だったらしい。
初めてシンと出逢った時の相手のリアクションを思い出して懐かしむアーストの隣で、ミュゼが嘆息する。

「それを言う為にこうやって一人でわざわざ呼び出したの? なんだ、少しがっかりね」

「勝手に勘違いすんなよな。リーゼ・マクシア嫌いって結構居てさ」

そのターネットの言葉で、路地や建物の陰から武器を持った人々がぞろぞろと湧いて出てきた。ルドガーは双剣を抜いて応戦の構えを取る。

「いいのか? 俺一人の問題だぞ?」

「先に助けて貰ったのは俺だからな。それに……こいつらの制服、シンと同じだろ」

「ああ。俺もその件で話が聞きたくてな」

「けっ、リーゼ・マクシア庇うなんて、マジで気持ち悪ぃ奴。虫唾が走んだよっ!」

そう言って、ターネットも武器を手に三人に襲いかかってくる。
が、彼も含めて他の者達も皆その道のプロには見えない。日頃からリーゼ・マクシアへの不平不満を抱えている一般市民なのだろうとアーストは冷静に分析した。

「ミュゼ」

「ええ、殺さない程度にしておくわ」

「……気絶しない程度で頼む」

「難しいけど、わかったわ」

かつてジュード達と死闘を繰り広げた時のような苛烈さこそ無いものの、日頃行動を共にしている仲間達の中でも頭一つ分抜けた実力を誇るアーストとミュゼは、一年のブランクを感じさせぬ見事な連携で、あっという間に敵を黙らせていった。

ルドガーに一騎打ちを挑んでいたターネットもあっさりと打ち負かされ、荒い呼吸で地面に尻餅を着く。

「なんだお前ら……バケモノかよ」

「そんな言い方しないで、傷つくじゃない」

という言葉とは裏腹に、ミュゼの身体には傷一つなかった。
怒りの収まらないターネットは、立ち上がってミュゼに武器を振り下ろそうとしたが、アーストによって封じられる。

「やめておけ」

「くそっ! ふざけやがって……! お前らのせいであいつは……シンは……!」

「……やはりお前達は、シンの事を知っているのだな」

ターネットは訝しげにアーストを見た。
アーストはルドガーと目を見合わせて頷く。

「俺達の知るシンは、お前達の事を友人だと言っていた。恐らくお前が今名を挙げた者と同一人物だろう。奴について、色々と聞きたいことがある」

「はぁ……? お前らが、あのシンの知り合いだって? ふざけたことぬかしてんじゃねぇ。そこのエレンピオス人はともかく、お前みたいなリーゼ・マクシア人と知り合いなわけねーだろ」

「だが事実だ。つい先日も、お前達が夜の街を彷徨いているのを、俺はシンと一緒に見ていたところだ」

それを聞いた途端、ターネットは乾いた笑いを零した。

「……ほらみろ、やっぱり嘘じゃねぇか」

「何を以てそう言い切れる?」

「そんなの決まってる。お前の言ってることは全部有り得ねーからだよ。だってあいつは――」


その瞬間、ターネットは表情を崩した。

怒り憎しみに満ち溢れていた顔に、それ以外の感情が混ざる。


とてつもなく嫌な予感がした。
アーストは無意識に耳を塞ごうとしたが、身体はその意思に反して微動だにしなかった。


そして、ターネットの口が真実を告げる。


「あいつは……一年前に事故に遭って、死んじまってるんだからよ」
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