04.その情を何と呼ぶ

一年前の事故。死。

ターネットの口からそれを聞かされたアーストとルドガーは、信じられないといった顔で相手を見る。

「何かの冗談だろ……? だって、シンはついさっきまで一緒に……」

「だから、お前らが言ってる奴は、俺達のダチだったシンじゃねぇよ」

ターネットは混同するなと言いたげに吐き捨てた。
だがシンは彼らを友人だと言っていたのだ、ただの他人の空似という訳でも無い筈。

(……まさか、俺達の知るシンは、分史世界の存在なのか……?)

ミラという前例がある以上、シンがそうである可能性は十分にある。

しかしビズリーの言っていたことが本当なら、分史世界の存在が正史世界へ渡るにはクルスニクの鍵が必要となる筈だ。
ルドガーとシンが知り合ったのは正史世界なのだから、シンはそれ以前から正史世界に居た事になる。

「とにかく、何の用でエレンピオスを彷徨いてんのか知らねーけど、これ以上俺達に関わるなよ! シンを死なせたお前らが、アイツとダチだなんて二度と口にすんじゃねぇ!」

「ねぇ、それさっきも言っていたけれど、どうして私達が殺したと思うの? 全く身に覚えが無いのだけれど」

「……別にお前ら二人だけを指して言ってるわけじゃねぇよ。ただ、犯人は絶対にリーゼ・マクシア人の筈なんだ」

「絶対≠ノリーゼ・マクシア人の筈≠チて、随分あやふやな言い方するのね。その根拠は?」

「アイツが死んだ原因が、医療用の黒匣が届かなかったせいだからだよ!」

ターネットはシンの死がどのように引き起こされたのかを掻い摘んで話した。
アーストは、それが先日シンから聞いた事故の話と全く同じである事から、やはり互いの言うシンは同一人物なのだと確信。

「お前らリーゼ・マクシア人は黒匣が嫌いなんだろ? わざわざ研究所に乗り込んで片っ端から黒匣を破壊するような奴、リーゼ・マクシア人に決まってる!」

「いや、それだけで決めつけるのは流石にどうなんだ……? 研究所に何か恨みのある奴の犯行かもしれないだろ? そもそも、エレンピオスとリーゼ・マクシアが統合される前の話じゃないか」

と、何も知らないルドガーはアースト達を庇ったが、当の本人達はその横で、

「……それってもしかして、あの時の?」

「ああ」

と、小声で事実を確認し合っていた。

自分の推理が当たっている事には気が付かないまま、ターネットは舌打ちを残して去っていく。
押し黙るアーストを見て、ルドガーは謂れの無い誹謗中傷に参っているのかと勘違いしつつ、「災難だったな」と労いの言葉をかけた。

そして、タイミングが良いのか悪いのか、買い物から帰ってきたシンと鉢合わせてしまう。

「あ? 何だよお前ら、こんなとこで集まって何してんだ?」

「え? ああ、いや、その……」

さて、どうしたものか。

対応に困ったルドガーはアーストに視線を送った。ミュゼも今の話を聞いたアーストがどうするのか興味がある、といった顔で静観。

アーストはそれらに構わず、真っ直ぐにシンを見詰める。

「……何だよ? 黙ってねぇで何とか言えよ」

「……シン、お前は────」


本当は、もう死んでいるのだな。


たったそれだけの確認の言葉を、アーストは口に出す事が出来なかった。

お前は分史世界の存在なのか?
ならばどうして正史世界に居る?
聞きたいことは山ほどあるのに、どうしてか唇が動かない。

結局、アーストが何か言うより先に、ルドガーのGHSにクランスピア社からの着信が入った。
新たな分史世界が探知されたとの情報を、ルドガーとシンはGHSで他の仲間達にも知らせる。

「……ミュゼ、お前の目には、シンはどう見えている?」

それを見ながら、アーストはターネット達に遭遇する前にミュゼが言いかけて止めた言葉の続きを本人に問う。
ミュゼは哀れむような声色でそれに答えた。

「まるで、継ぎ接ぎのお人形さんみたい。違和感が少ない分、パズルみたいって言った方が、より近いかしら。無数のピースを繋ぎ合わせて、彼という存在を形作っている……パズルの外枠の部分が正史世界の彼だとするなら、填まっているピースは分史世界の彼、かしら?」

「……それはつまり、使い物にならなくなった正史世界の身体の代わりに、分史世界の身体を使っているという事か? パズルのピースと言うからには、丸ごとそのまま使っているという訳でも無いのだろうが」

「ええ。あちこちからパーツを掻き集めて作られたって感じね。でも、それらのパーツはまだ分史世界との繋がりが断ち切れていないわ。あれじゃあ、分史世界が消えた時に、パーツも一緒に消えちゃうんじゃないかしら」

「パーツも一緒に……」

と、アーストはミュゼの言葉ではたと気付く。

シンが事故の後遺症だと語っていたあの発作のようなものは、それに由来するものなのではないか?

彼はそれを知っていて、だからこそ、分史世界の破壊に反抗しているのではないか?

だとすれば、全ての分史世界を破壊してしまえば、彼は────

「おいアースト、カン・バルクって何処にあるか知ってるか?」

思考に耽っていたアーストは、シンのその言葉に顔を上げた。

「カン・バルクがどうした?」

「進入点がそこにあるらしいんだけどよ、俺もルドガーも聞き覚えねーから、多分リーゼ・マクシアのどっかじゃねぇかと思って。知ってんなら案内して欲しーんだけど」

「それは構わんが……」

よりにもよって、今このタイミングでカン・バルクとは。

未だシンに正体を明かす決心がついていないアーストは気乗りしなかったが、世界の命運が懸かっている以上そんな個人的な感傷で断る訳にもいかず、諸々の憂いを溜息に乗せて吐き出すしかなかった。
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