01.それは終局への幕開け

「ちょっとシンちゃん!? どこ行くの、危ないわよ!」

「外見てきます」

「まだテロリストが居るかもしれないし……」

「影からチラッと見るだけなんで、大丈夫っすよ」

誰も近寄ろうとしない店の出入り口に立って、静かにそっと扉を開ける。
煙のせいで視界は悪いが、人の気配はしなかった。

後ろ手で扉を閉めて、人気のない改札を飛び越えてホームに入る。
そこに特別列車はなく、代わりにいくつもの死体が転がっていた。

自分もリーゼ・マクシアとの和平には反対だった。反対といっても、それほど強く嫌がっていた訳ではないが。

けれどもこれは、あまりにも惨すぎる。
この中には巻き込まれたエレンピオス人も居るだろうにと、見た目ではどちらの人間か分からない死体を眺めて心の中で手を合わせて店に戻る。

「……どうだった? 外の様子は」

「騒ぎを起こした奴らはもう居ないと思いますよ、人の気配なかったんで。でも、100%安全とは言えないんで、もう少し様子見てもいいかもしれないっすね」

「そう……まあでも、一先ずは大丈夫そうね。お客様〜! ご安心下さい!」

落ち着きを取り戻しつつある店内、その時不意に、ズキィッと脳に痛みが走った。
痛みにふらついたが、それはすぐに治まる。

「どうしたんだ? 怪我でもしたのか」

「いや……ちょっと、眩暈がしただけっす」

寝不足か?と笑う先輩店員に、そうかもしれないと苦笑を返し、
その裏でシンは誰にも聞こえないほど小さく舌打ちをした。









『──次のニュースです。完成したばかりの自然工場アスコルドへ、暴走した列車が脱線衝突し、大破しました』

駅の騒動から数時間後。
客を無事に帰して、なんとか事が収まってから帰宅すると、早くも件のニュースがTVに流れていた。

疲れた体を簡素なソファに沈めて、シンは淹れたてのココアを啜りながらその画面を見る。

『被害規模と死傷者の数はつかめていませんが、当局はリーゼ・マクシアとの和平に反対するテロ組織、アルクノアによる要人殺害を狙った自爆テロという見方を強めています』

やはり皆考えることは同じだったようで、
ニュースを見ずともほとんどの人は今回の事件はアルクノアの仕業だろうと考えていた。
これでまた和平への道が伸びたわけだが、それを悲しむ者と喜ぶ者とではどちらが多いだろうか。

チャンネルを変えても放送されている内容はどれも同じで、しばらく娯楽番組は無理かと諦めて手を止めた。

『──たった今、新たな情報が入りましたので、続けてお伝えします。列車衝突による爆発で、アスコルドは全焼。列車の乗客と工場の人員、合わせて2000名以上が死傷しました』

スタジオを映していた画面が切り替わり、火柱を上げるアスコルドを映し出す。
可哀想にと思いつつ、空になったコップをシンクに置いて水を注いだ。

『被害額は100億ガルドを超え、最終的には500億ガルド以上に昇ると見られます。当局はテロ首謀者として、クランスピア社社員、ユリウス・ウィル・クルスニクを全国に指名手配しました』

「────!?」

キュッと水を占める音と、アナウンサーの声が重なる。
シンは慌ててテレビの前に戻り、喰らいつくように画面に表示されているテロップを見た。

『警察は複数の共犯者が居るとみて、関係各所を捜索中です』

「どうなってんだよ……ッ!」

もっと情報はないのかとチャンネルを回すが、それ以上のものはどこにもなく、苛立たしげにテレビの電源を切る。

あの事故が起きてからまだ半日も経っていない、ならばまだ近くに居る可能性はあるはず。
シンは朝と同じく学生鞄を手に部屋を飛び出した。

「ユリウスさんって……もしかして、そこのアパートに住んでる……?」

「あんな優しそうな人が……信じられないわね……」

「ホント、人は見かけによらないなあ」

住民たちのそんな会話を聞きながら、廊下を走り抜けて外に出る。
どこだ、とりあえず探すなら駅だろうか?犯人は現場に戻るとどこかで聞いたことがあるが……

(いやでも、流石にそんなに直ぐには戻らねーか。なら他の……近くの別の街か?)

夕暮れ時の公園で1人思考していると、ユリウスが住んでいると噂のアパートから、街にはそぐわぬ人物が出てきた。

顔を見て、考えていたことが消し飛ぶ。

「……おやおや、こんな所で会うとはな」

「……!!」

「ほう、そこがお前の住処か。これは思わぬ収穫だな」

デカい図体に朱色のコート、隠そうともしても隠しきれはしないだろうその存在感が周囲の人間を圧倒した。
エレンピオスで知らぬ者は居ない、誰からともなくその名が挙がる。

「ビズリー・カルシ・バクー……!」

大企業クランスピア社社長、今日の特別列車にも乗っていた著名人。
ざわつき始める人の輪の中で、シンは舌打ちを合図に背を向けて駆け出した。

「さて、それでは初仕事といってもらおうか、イバル君」

「了解です!」

ビズリーの背後に控えていた男が、敬礼して後を追ってくる。
人や建造物を使ってなんとか距離を広げながら、閑散としている駅へと逃げ込んだ。

「……ッ、しつけぇな……!」

数十メートル先からこちらへ向かって全力疾走してくる男を目で捉えて、学生鞄にぶら下げていた定期券を改札に叩きつける。

普通ならこれで撒けるが、どうにもあの男は改札を飛び越えて来そうな気がした。

『ドヴォール行き普通列車、まもなく発車します』

嫌な予感というのは当たるもので、予想通り改札をハードルのように飛び越えた男に駅員が怒鳴る。
列車を選んでいる余裕はない、すぐ近くに停車していた列車に乗り込んで、後ろを振り返った。

『ドアが閉まります、ご注意下さい』

「くぅぉおらぁぁァア! 待てえええええ!」

「だっから……」

鞄の中に手を突っ込んで、探り当てたものを取り出して列車内で振りかぶる。

「しつけーっつってんだよ!」

全力で投げたソレはステンレス製の水筒で、見事追っ手の顔面に直撃して地面に落ちた。

男がひっくり返って倒れるのを閉じたドア越しに見て、シンはふぅと息を吐いた。
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