01.種は撒かれた

「あまり1人で先走るなよ」

体はただひたすら前を目指し、顔だけをきょろきょろと動かしてロックガガンを探す。
後ろからついてきているアスベル達はさっきよりも更にペースダウンしており、ルーカスは自分の後に続くマリクにそれらを振り返って言う。

「1人でいいんだけど。そもそも一緒に行くとは言ってないし」

「ふっ、まだそんなことを言っているのか」

「おっさんさぁ、なんで俺につっかかってくんの?」

「この歳になると、若者を弄りたくなるもんでな」

「若者ならあんたの後ろにいっぱい居るけど」

「あっちはこの暑さで会話すら億劫になっているからな」

「じゃあ俺もしんどい。疲れた。もう喋ることも出来ない」

言うのはいいが姿勢を正したまま大股で進んでいくその姿には全く説得力はなかった。
そして急な震動が一行の体を揺さぶる。地震かと誰もが思ったが、それだけでなく砂嵐までもが襲い掛かってきた。

「うぷ……何、この砂嵐……」

「みんな、向こうを見て!」

岩肌の向こうから、山のように巨大な魔物が顔を出す。
遠目ではそのあたりの岩と見分けがつかないようなゴツゴツとした体表と、自分たちなど踏み潰してしまいそうなその巨体に、その姿を始めて見たアスベル達は驚いた。

「う〜ん、あの大きさはさすがに予想外だな〜。て、こっち来るよ!」

「アスベル、ルーカスが……」

逃げるどころかその魔物に突進していく自分を見てソフィがアスベルの服を引っ張る。
もしかして何か策があるのかと期待したアスベルだったが、残念ながらルーカスには攻撃する気など微塵もなかった。

「……"痛い"? やっぱりどこか具合が……」

「ルーカス!」

このままでは激突してしまうとマリクが手を伸ばす。
だが人間の歩幅とは訳が違うロックガガンに敵うはずも無く、彼が最後に見たのは手をこちらにではなく魔物に向けて伸ばすルーカスと、それを飲み込もうと大口を開けるロックガガンだった。






「……い、おい、ルーカス」

ぺちぺちと頬を叩く誰かの手と自分の名を呼ぶ声に、ルーカスは知らぬ間に飛んでいた意識を取り戻して目を覚ます。
覚醒した体が最初に取った行動は、自分に呼びかける人間に拳を喰らわせる事だった。

「ごふっ!?」

「……なんだ、おっさんじゃん。おはよう」

「何故殴った!?」

「ごめん、わざとじゃない。敵かと思って吃驚して」

「頼むから次からはもう少し可愛げのある驚き方にしてくれ……」

「教官、ルーカスさん、大丈夫ですか?」

他の皆も無事なようで、目を覚ました一行は一所に集まる。
周囲の景色はさっきの砂漠ではなく、紫色の液体とよくわからない残骸で占められていた。

「ここはもしかしてロックガガンの……」

「ふむ。どうやらオレたちは奴の腹の中にいるようだな」

晴れた頬をさするマリクが周囲を見渡して冷静に分析する。
不安げなシェリアとは裏腹にパスカルはどこか楽しそうだ。ソフィは近くの突起に手で触れて、その手をシェリアに向ける。

「ねばねば……」

「嫌あっ! ななな、なにこれ!」

「胃の中ってことは……胃酸?」

「急いでここから出よう、胃酸で溶かされても困る」

「先に進めそうなのはどっちだ?」

ルーカスは出口について議論を始めた一行の輪から外れて、すっと目を閉じて神経を集中させた。
そのまま傍から見れば棒立ちになっているようにしか見えない状態を保つ。

「……やっぱり痛いんだな。原因はなんだろ」

「どうしたの? 皆行っちゃうよ」

「うん? ああ、ありがと」

自分の手を引いててくてくと歩くソフィに、そういえばこの子は結局何者なんだろうと、ウォールブリッジの近くで見た映像を思い出した。

アスベルとシェリアの友人? 幼馴染み? 家族? この中のどれかなら家族が一番しっくりくるが、だとしたらどっちの、だろうか。

「……あれ? 何だろあれ」

「小屋みたいだね、あんなのも飲み込んでたんだ」

丸呑みしたのかほとんど崩れていないその小屋は、中も人が住めそうな状態のままだった。
アスベルは謎の笛を発見し、ルーカスは床に散らばっている日誌のようなものを拾い上げて目を通す。

「記録日記かな。…………」

「何か有益な情報でも書いてあったか?」

「…………」

「……ルーカス」

「…………」

「ルーカス」

「え? なに? あ、見たい? はいどーぞ」

「ああ。……っておい、また1人でフラフラと……」

書類を渡して小屋を出て行くルーカスに、止めるのを諦めたマリクはしょうがない奴だなと苦笑しつつ日記を読んだ。
そこに記されていたのはロックガガンの暴れた原因で、体内に居る寄生虫のせいで苦しんでいるらしい。

「寄生虫を全部退治すればロックガガンはおとなしくなるって事?」

「寄生虫の親玉は体が紫色らしい、そいつを倒せば、寄生虫を根絶できるそうだ。それと落ちていた笛だが、あれを吹くとロックガガンを呼び寄せることができるとある」

「へ〜、おもしろ〜い。でも今はロックガガンの中だから使えないね」

「最後にこう書いてある。"これを見た人よ、私に代わってロックガガンを救って欲しい"」

「あくまでここから脱出する事が優先だが……寄生虫の事もなんとか出来るといいな。ところでルーカスさんはどこに……」

姿の見えないその人のことをアスベルが口にした瞬間、離れた場所で爆発音が聞こえた。
急いで音のほうに向かうと、焼け焦げた例の寄生虫の親玉と、それを踏み潰しているルーカスが居た。
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