01.種は撒かれた

「ルーカスさん!」

「なに?」

「え、いや、その、凄い音がしたので何かあったのかと……」

「ああ、W術使ったから。ごめん」

「……寄生虫の問題は解決したわね」

「さっすがスーパーマン! 仕事が早いね〜」

パチパチと拍手を送るパスカルを横目に、マリクは「意外だな」と呟いた。

「お前はあのような遺言で動く人間だとは思わなかったが」

「遺言?」

「さっきの記録の最後に書いてあっただろう」

「あー……書いてたような。ロックガガンが暴れてる原因のとこしかちゃんと読んでなかったから」

「ほう、ならば倒したのはロックガガンに悩まされている住民のためか」

「は?」

「なんだ、違うのか?」

「ロックガガンが痛がってたからだけど」

何を言ってるんだこいつはといわんばかりの目で見てくるルーカスに、ということはロックガガンの為にやったのかとマリクは理解する。
まあ魔物の味方についていた程なのだからおかしな話ではないが……、一体なぜそんなに魔物に気を配るのだろう。

「……まあ、寄生虫の問題はこれでいいとしてだな。肝心の出口はどこだ?」

「早く信書を届けに行かなくてはいけないのに……」

「お守り、破れちゃった……」

アスベルが取り出したそれを見て、ソフィが悲しそうに呟く。
少し不恰好な手作りのお守袋からは、何やら砂のようなものが漏れ出していた。

「何か出てきたぞ? なんだ、この粉は」

「どれどれ、見せて? へ、へ……へっくしょい!」

「コショウだ!」

「なんでお守りにコショウが?」

「……揺れてる」

今まで静まり返っていた地面が震えだして、後方から突風が吹きつける。
パスカルと同じ症状にみまわれたロックガガンは口から一行を吐き出した。

おかげでルーカスは受身を取る暇もなく顔面から砂漠に叩きつけられ、再び意識を失った。






仲間たちが続々と意識を取り戻す中、砂の中に埋もれたまま動かないルーカスをマリクが引っ張り上げる。
裏拳のお返しだと若干強めにバチバチと頬を叩き名を呼ぶその行動にはデジャブを感じたが、今度はなかなか目を覚まさない。

「……死んだか?」

「いや、多分寝てるだけだよ」

「寝てる?」

口元に耳を寄せてみると、パスカルの言うとおり確かにすやすやと寝息が聞こえた。暑いのか、時折眉を寄せて短く唸る。

「……置いていくか、1人になりたがっていたしな」

「えっ!? 教官、それは……」

「冗談だ。……どうやら街道のそばからはどいてくれたみたいだな」

ロックガガンはその足音で地響きを起こしながら砂塵に消えていった。
マリクは腕の中でごろごろと体をよじるルーカスを仕方なく背負う。

「ヒューバートから貰った物がこんな形で役に立つとはな。けど、なんでヒューバートはコショウなんか渡したんだ?」

「あたしたちがロックガガンに飲み込まれるってわかってた……わけないわよね」

「じゃあ一体何の意味があるのかしら?」

未だにサラサラとコショウを撒き散らしているお守りに皆が首を捻っていると、セイブル・イゾレで会った男がやって来た。

「おかげで街道が復旧した。ストラタを代表して礼を言うぜ、ありがとよ。しかし……君たちあいつに何をしたんだ?」

「寄生虫が巣食っていたようで結果的にそれを退治しました。その後、出口が見つからなくなり困っていたら、これで……」

「これは、W石の守りか」

男の言葉に、アスベルがようやくそのお守りは自分が幼い頃ヒューバートに渡したものだということを思い出す。

「本当は砂状のW石を詰めるんだが、砂状のW石が見当たらなくてコショウを詰めたんだっけ……。それをあいつ、今もまだ持っていてくれたなんて……」

「W石の守りは、持ち主を守ってくれる力があると言われているが……、中身が砂のW石でなくても効力があるのだな。これであいつが暴れる事ももうないだろう、本当に助かったよ。君たちがいなかったらロックガガンを殺さなくてはならなかったかもしれない」

「ロックガガン殺されない?」

「ああ、大丈夫さ。安心しな。……その青年は怪我でもしたのか?」

「いえ、元気に眠っています」

ずり落ちそうになるルーカスを背負いなおしつつマリクが微笑すると、相手もそれはよかったと笑った。

「この状況で眠れるとは、全く羨ましい限りだな。――ところで、あんたたちはどうして首都へ行こうとしているんだ?」

「苦境に立たされている弟を助けたいからです。そのために、この国の首都にいるある人に会う必要がありまして」

「そうか、うまく行くといいな。――さて、俺はそろそろ行くぜ」

また会おう、と手を振って男は去っていく。
するとタイミングを同じくして、眠っていたルーカスも目を開けた。

「…………」

「あ、ルーカスおはよ」

「起きたのか? なら降りろ」

「……おやすみ」

「おい」

くてんと肩に頭を乗せてくる相手に、さっきまでの元気はどこにいったんだとマリクは彼を支えていた両手を離した。
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