02.君から貰った密と蜜

うんざりしてしまうような砂漠を越えて、ようやく舗装された道に辿り着く。

ストラタの首都ユ・リベルテ。その入り口に聳え立つ立派な門が、一行を出迎えた。

「砂漠の中にこんなに大きな街があるなんて……」

「ストラタは古くから大蒼海石という名の大W石の力を用いて発展した国だ。大W石を有効に用いる技術に関して、この国は世界一進んでいると言えるだろう」

「まずは預かった信書を頼りに、大統領に直接面会します」

「それなら、目指すのは大統領府だな」

シェリア達は初めて見るその街並みに視線をあちこちに飛ばして目を輝かせていたが、
アスベルは真っ直ぐ大統領府に向かう。

その一行から、そろそろと歩くペースを落として、離脱しようとする青年が1人。

「どこへ行く気だ?」

最後尾を歩いていたマリクがそれに気付いて、ルーカスの首根っこを掴んだ。

「俺は大統領府に用なんてないし。適当に街の中ぶらぶらしてるから、終わったら呼んでよ」

「一緒に来ればいいだろう」

「……嫌だ」

いつもの調子とは違って、どこか気まずそうにしているルーカスをマリクが疑問視する。

「何か問題でもあるのか?」

「…………」

「ねぇ、あの子って……」

ふと、周囲に居た街人の中から、恐らくはこちらに向けられたのであろう声が聞こえた。
するとその瞬間、ルーカスの両手がマリクの耳をバチン!と挟んだ。

「痛っ、なんだ突然!」

耳を塞がれたせいで、周囲の音も、ルーカスの声も聞こえなくなる。
相手はそれを知ってか知らずか、一言だけ漏らした。

" ご め ん "

そう言ったルーカスの表情も言葉も、俯いたせいでマリクには分からなかった。
暫く経ってから、そっと手が離される。

「……とにかく、待ってるから行ってきて。
ほら、アスベルが呼んでる」

大統領府の前でこちらに手を振るアスベルへ向けて、マリクの背中をぐいぐいと押す。
相手は納得いっていない様子だったが、これ以上アスベル達を待たせる訳にもいかないと渋々1人で歩いていった。

フードを被って周囲に耳を済ませば、さっきの声の主はどこかへ行ったのか、雑踏が入ってくるだけ。
ルーカスは小さく、安心したように息を吐いて、噴水の前に腰を下ろした。

数年前と何も変わらない街並み。
懐かしさと悲しみの入り混じった空気。

(……やっぱりこの街は、少し居づらいな)

出来ることなら、さっさと立ち去りたいのだけれど。
早く戻ってこないかなぁと、街をぶらつく気など最初からなかったルーカスは、肩身狭そうにその場で縮こまるだけだった。






「……あれ? 教官、ルーカスは?」

大統領に会うのを許可されたアスベル以外は、大統領府内の広間で待っており、
マリクが中に入るなり広間の中を物色していたパスカルが声をかける。

「外で待っているらしい」

「なんで? 外暑いのに」

「さぁな、大統領府に入るのを嫌がっている様だったぞ。お前なら訳を知っているんじゃないかとも思ったんだが?」

「あたしだってルーカスのこと何でも知ってる訳じゃないよ〜。ちょっと前までご近所さんだったんだけど、急に居なくなっちゃってさ」

「居なくなった?」

「うん、いきなり何にも言わずに出て行っちゃったんだ。だからその後どうしてたのかーとか、あたしの近所に住むようになるまではどこに居たのかーとか、なーんにも」

だが特にそれを追求しようとは考えていないようで、パスカルの視線はあいも変わらずソフィに注がれていた。
まったく、聞けば聞くほど謎が深まる男だ。

「おかえり」

大統領との面会を終えて広間に戻ってきたアスベルに、パスカルの視線から逃げていたソフィが駆け寄る。

「大統領ってどんな人だった?」

「既に会った事のある人だった。ほら、セイブル・イゾレの街とロックガガンの所に居た……」

「ええ!? あの人が……?」

二ヶ所で出会った、貫禄のあるあの男を皆が思い出して驚いた。
正直あの姿だけを見ると大統領には思えないが。

「でもそれなら話し合いも上手くいったんじゃ……?」

「いや……、このままではヒューバートの更迭は免れないと言われた。そもそも、ストラタはウィンドルの大W石を手に入れるためにラントに軍を派遣したらしい。あいつのやり方では、ストラタが求めている分のW石が集まらないそうだ」

「だから総督の首をすげ替える必要があると?」

「それを思いとどまらせるには、W石不足の問題を解決しないと……」

「それは難しい問題だな、個人の力でなんとかできる類のものではない」

「そもそもどうしてストラタはウィンドルのW石を欲しがるの? ストタラにも大W石があるっていうのにさ」

「そうか……確かに考えてみれば妙な話だな」

「そうね……大W石があれば、心配なんていらない気もするけど」

「これは大W石に何かあったと見えるね。街の人に話を聞いてみようよ」

「そうしよう。……ところで、ルーカスさんはどこに?」

ざっくりと次の行動が決まったところで、今更気付いたのかアスベルが問う。

「外で待ってるってさ」

「そうか……」

「ルーカスさんに何か用でもあったの?」

「いや、閣下が、ルーカスさんに会いたがっていらっしゃる様なんだ」

「は?」

「嫌がる様なら無理に連れて来なくてもいいが、一応来るようにと声をかけておいてくれ、と頼まれて……」

「大統領から呼ばれるなんて……、ルーカスさんって一体何者なの……?」

一同の気持ちを、シェリアが代弁した。
大統領に指名されるなんて、普通の一般人ならば有り得ない話だ。

「とにかく伝えといたほうがいーんじゃない?」

「そうだな、ルーカスさんを探そう」

一行は大統領府を後にして、聞き込みをしながらもルーカスを探して街中を駆け回った。
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