02.君から貰った密と蜜
アスベルたちが街の人に聞き込みをしている間、いい加減噴水の前で待っているのにも飽きてしまったルーカスは、1人街の入り口付近を徘徊していた。出来れば街から離れてしまいたいのだが、マリクに待っていると言った上に、外は砂漠。
思いのままに行動することは出来ない。
「さあ、歩け!」
と、門の下で外を眺めていると、背後からそんな声が聞こえた。
振り返ると、声の主であろうならず者が1人と、地面に横たわる青年が1人。
「だ、だれか助け……」
「大統領が大W石に研究者を向かわせている事は知ってるんだよ」
揉め事だろうか?それにしては一方的に見えるが。
ルーカスはフードを深く被りなおしてからその2人に歩み寄る。
「何やってんの」
「ああ? 誰だてめぇ」
「事情がわからないんだけど、これ、どっちが悪い?」
「は? え、ええと……」
「関係ねぇ奴はすっこんでろ!」
男がそう言って殴りかかってきたので、ルーカスはこちらが悪者だと判断して杖を取り出した。
ただし目立ってしまうような術は使わずに、杖を叩き込むような戦法で相手を黙らせる。
地面に伏したならず者を見て、倒れていた青年がほっと胸を撫で下ろした。
「た、助かった……。ありがとうございました」
「どういたしまして。俺に助けられたことは誰にも言わないでね」
「え? は、はぁ……」
「で、なんで絡まれてたの」
「あ、それは……」
「大W石がどうとかって聞こえたけど」
「あの、えっと……その、ぼ、僕は仕事があるので!」
逃げるように街の外へ走っていった青年、そしてそれと入れ替わるように、アスベル達が帰ってきた。
「暇を持て余して民間人に暴行か?」
「俺そんな風に見えるんだ」
「冗談だ。で、何をやってるんだ?」
「こいつに真面目そうな奴が酷いことされてたから、ちょっとお仕置きしてただけ。――で、結局大W石がどうしたって?」
「大W石!?」
「こいつがさっきそう言ってたから」
地面に座り込んだままのならず者が、皆の視線から顔を背ける。
「大W石の何かを知っているようだな?」
「知らねぇな……」
「お前の目的がどうだろうとオレたちには関係ない、どうせくだらない悪巧みでもしていたのだろう」
「…………」
「話してくれるな?」
「誰が話すかよ!」
マリクはふっと笑って、ソフィと2人、男ににじり寄った。
そして、さっきのルーカス以上に手酷く、男を絞り上げた。
「大W石の調子が思わしくなかったからW石を求めていたとはな……」
所変わって宿屋の一角。
男から情報を聞き出した一行は、それについて話し合っていた。
ルーカスは詳しい事情をほとんど知らないので、その会話をほとんど右から左に流す。
「しかし、原因がわかったところで一体どうしたらいいのだ……」
「これ持ってって、大統領に見せてごらんよ」
頬杖をついてぼーっとしていたルーカスの隣で、何かを紙に描いていたパスカルがそれを皆に見せた。
「これは……大W石の絵か?」
「大W石の事で悩んでるなら、詳しい仲間がいるから、見てあげますよって」
「詳しい仲間って?」
アスベルの問いに、パスカルが挙手。
「パスカル、大W石の事がわかるのか?」
「少しだけどね。前に文献でちらっと見たことがあってさ」
「……パスカルって何でも知ってるのね」
「へへ、なんでも知りたくなっちゃう性分なんだよね〜。まあ、だめもとで見せておいでよ」
「わかった、パスカルの提案に賭けてみる事にする」
アスベルはパスカルに礼を言って立ち上がる。
宿を出ようとしたところで、何かを思い出したように足を止めて振り返った。
「そうだ、ルーカスさん。大統領閣下が、貴方にお会いしたいと仰ってるんですが……」
「そういえばそうだったな」
「ルーカス、呼ばれてるよー」
頬杖から机に突っ伏す姿勢に移行していたルーカスを、パスカルがちょいちょいと指でつつく。
「ん? ……何って?」
「大統領閣下がお前に会いたがってるそうだ」
「うん? ……あー……」
眠りかけていたのか、薄く開いた目はアスベルではなく机を捉えていた。
けだるそうに片手を左右に振る、それは"行かない"という意思表示だ。
「閣下に呼ばれているのに行かないのか。
とんだ大物だな」
「そうですか……分かりました。じゃあ、行ってくる」
今度こそ出て行ったアスベルに、ルーカスは再び机に額をくっつける。
だが仲間達は寝かせまいと近寄ってきた。
「ルーカスさんって、もしかして凄い人だったりするんですか?」
「せっかく呼んでもらってるんだ、顔くらい見せに行けばいいだろうに」
「ねえねえルーカス、なんでここの髪の毛だけ立ってるの?」
パスカルだけは完全に無関係の質問。
ソフィもその髪の毛を指に巻き付けて遊んでいる。
「無視か?」
「何でもいーじゃん」
「ルーカスって意外に髪の毛サラサラしてるねー、見た目結構バサバサしてるのに」
「あら、本当だわ……艶もあるし」
「もさもさーっ、もさもさーっ」
シェリアは早々に質問を諦めて、パスカルやソフィに混ざり始めた。
ソフィは髪を両手で下から上で撫でるように梳く。
ルーカスの髪は完全に遊び道具になっていた。
マリクも見ているうちに真剣に問いただそうとするのが馬鹿らしく思えて、「そのリボンでも巻いてやったらどうだ」と提案し手を伸ばしたのだが、
それまで無反応だったルーカスは、マリクの指が腕のリボンに触れた瞬間に跳ね起きた。
「やめて」
マリクの手を払い落とし、冷めた声で拒絶。
和やかだった空気が一変して張り詰める。
「……わ、悪かった」
「ん」
遊びが過ぎたのか。とりあえず謝ったマリクに、ルーカスはそれだけ言うと何事もなかったかのようにまた顔を伏せた。
突然怒ったルーカスに驚き手を止めたシェリアやソフィに対して、パスカルは変わらずその髪で遊び続ける。
「三つ編みとかできそうだねぇ。ねぇシェリア! ゴムとか持ってない?」
「え? ええ、持ってるけど……」
あまりやらないほうがいいんじゃないかとシェリアが渋ったが、
パスカルは大丈夫だよ〜と笑ってそれを受け取った。
「これをこうして……っと。あっれぇ? 上手くいかないなぁ……、えいっ」
「痛っ! ちょっと、パスカル痛い」
「あ、ごめんごめん。意外と難しいなぁ〜」
髪の毛を絡ませていくだけのパスカルに、シェリアが見かねて手を貸す。
ソフィは物珍しそうにそれを眺めていて、ピリピリとしてた場の雰囲気はまた穏やかなものへと戻った。
ただ、マリクは髪を引っ張られ、いや寧ろ数本は抜けてしまっているだろうにそれでも怒らないルーカスが、なぜさっきだけあんなに機嫌を悪くしたのかが分からずに首を傾げていた。