02.君から貰った密と蜜
アスベル達は見事予選を勝ち抜き、決勝で例の相手をこてんぱんに叩きのめした上で、無事密偵の男を取り戻して帰ってきた。すぐにフェンデル行きの船が手配され、皆がそれに乗り込む。
「……貴方も乗るんですか?」
が、ルーカスが乗ろうとしたところで、待ってましたといわんばかりにヒューバートが口を開いた。
「……乗るなって言うなら乗らないけど」
「ヒューバート! ルーカスさんはここまで俺達に協力してくださったんだぞ」
「協力? 具体的に、どこで何に協力したんですか? 彼がいなければ成し得なかった事が今までに1つでもあったのなら、聞かせてもらいたいですね」
「特にないかな。じゃあ俺はここで離脱ってことでいいよ」
「そんな……!」
「ルーカス、帰っちゃうの? どうして?」
悲しげに問うソフィに、ヒューバートが言葉に詰まる。
それに応えたのは何故か第三者のマリクだった。
「いや、帰らないぞ」
「どうして貴方が決めるんですか! 大体、貴方たちがこの旅に同行している理由は何なんです?」
さぁ、そもそも自分からついて来た訳じゃない。
そうありのまま話そうとした自分の声を、またもマリクが遮る。
「それは……友達だからだ」
いい笑顔で言い放ったマリクに、納得したのはソフィとパスカルだけ。
他4人は何か言おうとして口を開けたが、結局何も返せなかった。
「さっきの何」
フェンデル領内の雪の積もる港に降り立つなり、ルーカスは自分の隣に居る男に尋ねる。
「何がだ?」
「おっさんと友達になった覚えはないんだけど」
「友情の誓いを思い出してな」
うっすらと残るラントでの記憶。
確か両手を重ねるあの謎の儀式か。
「あれで友達になれるんなら、この世に人付き合いが苦手な人は居なくなるだろうね」
「ほう、では俺とお前は今どういう関係だ?」
「他人」
「随分接点の多い他人だ」
大W石を求めて、一先ず一番近いベラニックの街へと歩を進める一行。
その道中で、謎の巨大な穴を見つけた。
「なんだ、あの穴は?」
「うーん、まだ残ってたか。そりゃこんだけ大きければ簡単には消えないよね」
「パスカル、前にもこの穴を見たことがあるの?」
「うん、ま〜ね」
「どうやってできたのだろうな。これほどの穴が理由もなしに突然生まれるとは考えにくいが」
「W石の力が暴走したんだよ」
「そんな事があるのか?」
「あるんだねえ。フェンデルのW石は性質がやっかいでね、扱いはなかなか難しいんだよ」
そこから更に先へ進み、ベラニックの街に到着する。
大W石の情報を聞けるかもしれないと、ヒューバートが街での聞き込みを提案した。
皆言われるがままに街の中を探索していると、地面に座り込んで何かを拾い集めている子供を見つける。
「あの子たち、何を拾っているんだ?」
「……砂ほどの大きさしかないW石のかけらだ」
「W石のかけら……?」
「そんなものを拾ってどうする気でしょうね」
「かけらを集めて、ストーブの燃料にするんだ」
「ストーブの……?」
遠巻きに眺める一行の中で、マリクだけは子供に歩み寄った。
「集まってるか?」
「ううん、あんまり」
「おれたちの家は宿屋だから、お客の部屋の分も集めなくちゃなんないんだ」
「そうか……」
「燃料用のW石は流通していないのか?」
「この国はW石の産出量が少なく、そのほとんどを帝都に住む富裕層が利用している。人々の暮らしが困窮しているにもかかわらず、政府は動こうとしない……。それがこの国の現実だ」
「W石が手に入らないなんて、ラントじゃ考えられないな」
「ストラタだって、誰でも好きなだけ使えると言うほど出回っているわけじゃありません。しかし、この状態はあまりにも……」
敵国であれ惨すぎると同情したのか、アスベルやヒューバートが顔を伏せる。
少年少女は寒さに凍えながらも、集めるのをやめようとしない。
「はっくしゅん! にいちゃん、寒いよぅ」
「熱があるな……、にいちゃんが集めとくから、お前は家に帰りな」
「でも……まだぜんぜん集まってないよ」
「大丈夫だって、いざとなったらストラテイムの角を取って来るよ」
「ストラテイム! む、無理だよにいちゃん、やられちゃうよ」
「む、無理でもなんとかするさ。おれだって男だ、まかせとけ」
「ストラテイム……、それは子供でも倒せるような魔物なんですかね」
「いいや、無理だ。ストラテイムはW石のかけらを食べる魔物で非常に凶暴だ。ストラテイムの角には摂取したW石のかけらの原素が蓄積するんだ。そのため、狩ろうとするものが後を絶たないが……毎年のように犠牲者が出るのだ。しかし今のオレたちなら、ストラテイムと渡り合うのもそう難しいことではないだろう」
「食物連鎖で高位の魔物ならW石の成分は凝縮されているから……、5本もあれば足りるんじゃないかな」
マリクとパスカルの言葉に、アスベルがそれなら自分たちで調達してこようと言い出した。
驚いた少年の隣で、シェリアは紅潮した頬で空ろな目をしている少女の具合を診る。
「……風邪のようね。早く暖かいところで休ませたほうがいいわ。あなたがお家に連れて行ってあげて」
「で、でも……」
「にいちゃんが付いててやらないとだめだろう? ストラテイムの角はあとで家に届けてやるから、安心するんだ」
こちらにお礼を言って、少年は妹を引き連れて宿に戻って行った。
それでは行くかと意気込むアスベルに、ルーカスは溜息を吐きつつその肩を叩く。