02.君から貰った密と蜜
「どうやって取んの? 角」「へっ? それは……普通に、戦って弱ったところで取ってしまえば……」
「ふぅん、ストラテイムが何かした訳じゃないのに、ボコボコにして大事な角を奪っちゃうんだ」
アスベルがはっとして、言葉に詰まった。
しかしヒューバートが、それを庇うように前に出る。
「まさか、ストラテイムを傷つけてしまうことを危惧しているんですか? 理解できませんね、魔物を庇って何になるんです。それに角がなければ、この街の人の生活は立ち行きません。貴方は魔物が可哀想だからという理由で、さっきのような子供達を犠牲にするんですか?」
「……そうじゃないけど」
「貴方が言っているのは綺麗事ですよ。やりたくないのであれば結構です、僕たちだけで済みますから。――さ、行きましょう。
早くしないと日が暮れてしまいます」
さっさと歩き出してしまうヒューバートに、それでもやはり納得できないと道を塞いだ。
「何なんですか、邪魔しないでください! それとも貴方がなんとかしてくれるんですか?」
「ルーカス……」
心配そうに見てくるパスカル。
いつも気苦労をかけてしまって申し訳ないが、ここを譲るわけにはいかない。
「わかった」
「……何がです」
「俺がなんとかする」
「どうやってですか?」
「どうやってでも。今日の夜までには帰る、ちゃんと角5本持って帰るから、俺にやらせてくれないかな」
しばらくにらみ合った後、ヒューバートはくるりと体を半回転させてこちらに背を向けた。
「いいでしょう。ですが、日暮れまでに貴方が戻らなければ、その時は僕のやり方でやらせていただきますから」
「うん、いいよ。アスベル達もいい?」
「……ですが、いくらルーカスさんといえど、1人では……」
「大丈夫」
「あたし手伝おっか?」
「いいよ。でも、後でちょっと迷惑かけるかも。ごめん」
「もう慣れっこだし、気にしなくていいって! それじゃ、あたしたちは宿で待ってよっか!」
ぐいぐいと皆の背を押して、パスカルが去っていく。
「……無理しないでね」
「ん」
最後に交わされたその会話は、後ろにいたマリクだけが聞いていた。
「……やはり、口先だけだったようですね。」
ルーカスが角を取りに行ってから早数時間。
元々空は厚い雲で覆われていたために陽は見えていなかったが、それでも先ほどよりは暗くなっていることは分かった。
ロビーにある椅子に座っていたヒューバートが一人席を立つ。
「そろそろ行きましょう」
「まだ完全には夜になってないよー」
「待っていては本当に時間がなくなってしまいます。……それに、これ以上は無駄でしょう」
「きっともうすぐ帰ってくるよー」
「どうして貴方はそうあの人を庇うんですか。僕は正直、貴方のことも信じられません」
「ヒューバート!」
「だってそうでしょう、身元も何も聞かされていませんし、そんな人を信じろというほうが無理な話です。貴方もですよ、マリクさん」
「……今はルーカスの話ではなかったか?」
「そうやって話をはぐらかすあたりが……」
「あっ、ほらっ、帰ってきたよ!」
窓際で頬杖をついていたパスカルが、がばっと立ち上がって窓の外に目を凝らした。
ヒューバートは仕方なく口を閉ざして椅子に座りなおす。
「……シェリア! 一緒にお出迎えしよ!」
「へっ? 私?」
「ほら早く早く!」
「わたしも……」
「ソフィはだめよ、雪が結構強くなってきてるから。ここで待ってなさい」
シェリアに言われ、ソフィが大人しく椅子に座った。
女性二人が出て行き、しばらくの沈黙のあと、ヒューバートがまた口を開く。
「……とにかく、この先もあの人を連れて行くのは、僕は反対ですから」
「ヒューバート……、ルーカスさんは悪い人じゃないと思うぞ。今回のことだって、ルーカスさんの言うことが間違ってる訳じゃない」
「間違いではありませんが、正論でもないはずです。彼のやり方はどう考えても非効率ですよ。それに魔物を庇うなんて……、魔物が人々の生活にどれだけ被害を齎しているか、兄さんも知っているでしょう」
「それは……」
「人も魔物も傷つけずに済ませようなんて、都合が良すぎるんですよ」
確かに、難しいことなのかもしれない。
自分も、魔物を庇おうとするルーカスの気持ちが分かるわけではない。
けれど全てを守ろうとする彼の姿勢を、アスベルは否定しきれなかった。
「おっまたせ〜! 約束のストラテイムの角5本だよ〜!」
「ちょっとパスカル、それはルーカスさんが取ってきたものなんだから……」
と、そこで宿屋のドアが開き、ルーカスたちが入ってきた。
パスカルから角を受け取った宿屋の女将は、有難くそれを受け取る。
「……あの、お嬢ちゃんの具合はどうですか?」
「ああ、大分落ち着いてきたよ。あんたたちのおかげさ。ストラテイムと戦って疲れただろう、お題はいいから、うちの宿に泊まって行っとくれ。チビたちの恩人にささやかなお礼だよ」
「えっ? でも、この角を取ってきたのは……」
シェリアの口を手で覆って、ルーカスが首を横に振った。
「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
「ん? どこ行くのルーカス」
「寝る」
疲れきった様子で、ふらふらと階段を上っていくルーカスに、マリクが「またか」と苦笑する。
「あいつは寝てばかりだな」
「そうかな〜? そうでもないよ」
「俺はもう3回は昼寝する場面を見た気がするんだが?」
「へぇーっ、よく見てるねー教官」
パスカルが感心したように言うが、見ているのではなくて単によく目につくところで相手が寝ているだけだ。
「じゃあ、ルーカスはなんで昼寝が多いんだと思う?」
「は? ……そうだな、単にだらしないだけなんじゃないか? 日ごろからそれほど動いている風には見えないし、体力がないわけでもないだろうし……」
「ふんふん、そこがルーカスの誤解されやすいところだねー」
「……違うのか?」
「うん。正解知りたい?」
頷くと、パスカルは眉を下げて笑った。
「今日の夜にでも、ルーカスのこと見張っててごらんよ。答えがわかるからさ」