02.君から貰った密と蜜
夜。マリクは言われたとおり、ルーカスを見張ることにした。とはいっても部屋の中までついていく訳にはいかないので、ロビーでただじっと待っているだけなのだが。
途中パスカルのいびきのせいで眠れないといったソフィが現れたので、昔話をしたり子守唄を歌ってやったりしているうちに、時計が日の変わり目を告げる。
そのまま眠ってしまったソフィを部屋まで連れて行くと、隣の部屋の戸が開く音が聞こえた。
ソフィをそっとベッドに寝かせて廊下に出ると、1人宿を出て行く人影が。
それはルーカスだった。
こんな時間に何を? と不思議に思いつつ後をついていってみると、相手は街を出て森のほうに進んでいく。
もしかして、昼寝が多いのは夜遊びのせいじゃないだろうな。
自堕落より悪いじゃないかと呆れながら更に進むと、突然相手は走り出した。
後をつけているのがバレたのかと焦ったが、そうではないようで。
ルーカスはそのまま森にいた謎の集団の輪に突っ込んでいく。
服装からして街の人間だろうか、木陰に潜んで様子を見守ることにした。
その集団は男ばかりで、ルーカスとなにやら口論になっている。
よく見れば男達の手にはそれぞれ武器が握られていた。
武器といっても兵士が持つようなものではなく、民間人が持てる程度のもの。
そこでマリクはピンときた。
(……もしかして、さっきと同じか?)
あの街人たちは、ストラテイムの角を狩りにきたのではないだろうかと。
そしてルーカスは、ヒューバートの時と同じようにそれを止めようとしているのではないか?
しばらく揉めたあと、ルーカスはついにW術を発動させて集団を追い払った。
男達に怪我はなかったが、自分達の目の前に空いた大穴に恐怖してさっさと逃げ帰っていく。
なんて横暴な。魔物のためにあそこまでする気が知れん。
マリクは青年の奇行を理解できずに一人宿に戻ろうとしたのだが、
次の瞬間、森から何やら足音のようなものが聞こえてきた。
足音の正体は人ではなく魔物。
多くのストラテイムによるものだった。
さっきのW術の音や振動で寄ってきたのだろう。
中には昼間ルーカスが相手したものなのか、角が折れているものも居た。
ルーカスは杖を雪の地面に突き刺して、ばっと両手を広げる。
いわばとおせんぼのポーズだ。
魔物に向けて急所をさらけ出して平気なのかと思ったが、どうやら平気ではないようで。
魔物は容赦なく無防備なルーカスに襲い掛かる。
「どこまで馬鹿なんだあいつは……っ!」
反撃はおろか防御すらせずに黙ってやられているルーカスに、さすがに心配になって飛び出した。
「伏せろルーカス!」
彼に群がっているストラテイムを一掃しようと投刃を構えて叫ぶと、こちらに気付いたルーカスも叫んだ。
「やめろ!!」
いつもの無気力な声とはまるで別人のような怒声。
つい反射的に動きを止めてしまったマリクに、ストラテイムがルーカスからマリクへと標的を移す。
反撃しようとしたが、先ほどのルーカスの叫びのせいで躊躇いが生まれてしまった。
動けずに居るマリクにストラテイムが地を蹴って――
咄嗟にマリクの前に飛び出したルーカスの背中を抉った。
「……ねえパスカル、ルーカスさんって、いつもああなの?」
宿屋の一室、パスカルの部屋で、深刻な面持ちのシェリアが切り出す。
「うん、昔っからね。ごめんねシェリア、無理させちゃって」
「いいのよ。あの時どうして私が呼ばれたのか疑問だったけど……、パスカルは最初っから、ルーカスさんがああいう状態で帰ってくるって分かってたのね」
あの時、ストラテイムの角を入手したルーカスが、宿に戻ってきたとき。
出迎えようとパスカルに連れ出されたシェリアは、そこに居たルーカスの姿を見て驚愕した。
「……っ!? 酷い怪我じゃないですか……!」
「……パス、カル、なんで……」
「ごめんねルーカス、回復ならアイテムよりシェリアのほうがいいと思ってさ。――シェリア、悪いんだけど治療してあげてもらっていいかな?」
「嫌と言われてもやるわよ!」
シェリアは慌てて治癒に取り掛かった。
ルーカスはシェリアを気遣いある程度でいいと言ったが、シェリアは一切聞く耳を持たず、全ての傷を癒す。
「やっぱり1人でストラテイムと戦うなんて無茶だったんだわ……、どうしてこんな無理をしたんですか!」
「……ごめん。どうしても、傷つけて欲しくなかったから……」
「どうしてそこまで……」
「……ルーカス、シェリアには話してもいいんじゃない?」
「……わかった。えっと……、何から話せばいいかな」
「ああもう、じゃあお話はまた今度でいいですから! 今はとりあえず中に入ってください、相当疲れてるはずですよ」
そして宿屋に入り、無事ストラテイムの角を女将に届けた。
怪我のことは口止めされていたので、誰にも言えなかったが。
「……それで結局、どうしてルーカスさんはあそこまで魔物にこだわるの?」
「うーんとねぇ、あたしから話しちゃっていいのかなぁ。ま、シェリアならいいよね」
パスカルは1人で勝手に納得して、自分が知る限りのルーカスのことを話し始めた。