03.冬枯れの景色に遠い春

「おっまたせー、ルーカス!」

彼らと別れて数十分後。
里での用事を済ませたパスカルが、意気揚々と出てきた。

「どうなった?」

「んっとね、結論から言うと、お姉ちゃんの研究所に行くことになったよ。大W石の研究に関わってるんだって」

「……そっか。使われてたのはやっぱりパスカルの技術?」

「そうみたい、研究資料ごっそりなくなってたからさ、多分持っていったんだと思うよ。ってことなんだけど、ルーカスどうする?行く?」

「うーん……」

正直、気は進まなかった。
また待っていようか、と考えて、いい加減無理やり引っ張って行かれそうだなぁ、と思いつつマリクを見やる。

と、そこで初めて、パスカル以外の面々が苦い顔で自分を見ていることにルーカスは気付いた。

「……え、なに?」

「え? あ、いえ、その……」

「な、なんでもありませんよ? ねぇヒューバート」

「へ? あ、ええ、まぁ……」

「ルーカス……」

ソフィまでもが、何か哀れむような目を向けてくる。

「……パスカル? 里で何かあった?」

「うん? 別に何も――あ、ジルのこと話したんだけど、それかな」

「ちょっ……!?」

ハッキリ言い放ったパスカルに、その話題には絶対に触れまいと決めていたアスベルらが青ざめる。

ルーカスは少しだけ眉を寄せて、視線をパスカルに移した。

「……全部?」

「うんにゃ、ルーカスのその腕に巻いてるリボンはジルので、ジルはもう死んでるってことだけだよ」

「そっか」

ならいいや、と雪を取り払った岩に乗せていた腰を持ち上げて、うっすらと足の上につもっていた雪も落とす。

「気にしなくていいから」

なんと言えばいいか分からずに困惑していたアスベルらに、ルーカスはそんな一言。

「フーリエさんのとこ行くんでしょ、さっさと行こうよ」

「一緒に来てくれるの?」

「俺の知らないところでパスカルにべらべら喋られると困る」

「詳しくは話してないよ?」

「それでも、俺のことで雰囲気暗くなってんのは良い気分じゃない」

今の自分たちの態度が逆にルーカスに気を遣わせてしまっていることに気付いたアスベルらは、ざくざくと雪道を歩き出すルーカスに、なるべくいつものように装ってついていく。

フーリエの研究所はかなり立派なものだった。
黒い壁が高々と聳え立ち、それを見上げるパスカルが感嘆の声をあげる。

「ねえパスカル、お姉さんってどんな人?」

「歳はあたしの1つ上。昔っから何でもできる人でね、色々なことに手を出してたよ。あたしはそんなお姉ちゃんに憧れて、なんでも真似してやってたんだよね。お姉ちゃんだったら、話をすればわかってくれるよ」

「この研究所の中に大W石があるという可能性はないですか?」

「それだと話が早くていいけど、さすがにどうかな? とにかくお姉ちゃんに会ってみようよ」

一行は広い研究所の中を進む。
建物の中に居た魔物は外とは違い、異形な形のものが目に付いた。
もっとも、それらとの戦闘は、ルーカスによって極力避けられていたが。

「この研究所にいる魔物って、変わった種類が多いわね」

「フェンデルは生物兵器の研究に力を入れようとしていると聞いた事がある。ここはそのための施設なのかもしれないな」

「こいつ、今までの奴より強そうだぞ!?」

アスベルがいち早く気付いたその魔物は、まるでライオンのような出で立ちだった。
長い鬚や鬣を振り乱して、こちらに襲い掛かってくる。

ストップフロウもほとんど効果はなく、ガードもすぐに崩してしまう相手に、最初はルーカスの好きにさせてやろうと思い傍観していたマリクが武器を掴んだ。

「ルーカス、今回は諦めろ」

「待って、もうちょっと……」

「シェリア、危ない!」

「きゃあぁぁっ!?」

一瞬の隙をついて、魔物がシェリアに一撃を浴びせる。
出血し膝をつくシェリアに、ルーカスはフラッシュバックしそうになる記憶を抑えこみ杖を握り締めた。
悔しそうに、悲痛そうに、低く唸る魔物を見据える。

「……ごめんな」

あの謝罪は、魔物に向けてのものだったのか。
かつてストラタの大W石で涙を流し同じ台詞を呟いていた彼を思い出しつつ、マリクが刃を振りかざす。

「シェリア、大丈夫?」

「はい、有難う御座います」

ルーカスが手を差し伸べると、自らの力で傷を癒したシェリアはそれを掴み再び戦闘態勢に戻る。

彼女が今受けた痛みは、自分の我侭のせい。

この戦い方をするようになってから、何度も何度も刻みつけてきた言葉を、ルーカスは胸の内で呟いた。

「黎明へと導く破邪の煌きよ、我が声に耳を傾けたまえ。聖なる祈り、永久に紡がれん。――光あれ、グランドクロス」

十字に重なり合った光の刃が、敵を貫く。
悲鳴を上げ息絶える魔物を、ルーカスは悲しげに見下ろす。

「あのヴェーレスを倒してしまうなんて、信じられない……」

すると、後ろからそんな言葉と共に1人の女性が現れた。
毛先の赤い髪をバレッタで結い上げ、目にかかる前髪をピンで留めている。

その顔は、パスカルとよく似ていた。

「フーリエお姉ちゃん!」

「パスカル? あなただったの? 誰かが研究を盗みに来たのかと勘違いしてしまったわ」

「あれ、ヴェーレスっていうんだ。あんな凄いの作っちゃうなんて、やっぱりお姉ちゃんはさすがだね」

「あっさり倒しておいて、よくそんなこと言えるわね」

「あたしが倒したんじゃないよ、ルーカスだよ」

いつもヘラヘラとした表情を浮かべているパスカルと違い鋭い目つきをしていたフーリエが、その名を聞いて更にそれを強める。

「……ルーカス?」

「うん、覚えてるでしょ? 前に里に住んでた……」

「覚えてるわよ、忘れるわけないじゃない」

未だ魔物を見下ろしていたルーカスに、フーリエがつかつかと歩み寄る。
すぐ傍に来たフーリエに気付いて、ようやくルーカスも彼女を見た。
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