03.冬枯れの景色に遠い春

「……フーリエさ」

「あなた、よく戻って来れたわね! 自分のしたこと、もう忘れたの!?」

いきなりの怒声に、アスベルらは吃驚して目を見開く。

「……いえ」

「ならどうして今更私の前に現れたのかしら?」

「……すみません」

「それはノコノコやって来たことに対してかしら? それとも過去の過ちに対して? 謝ったって、もうジルは戻ってこないのよ! 貴方のせいでジルは……!」

「ま、待ってよお姉ちゃん! 違うんだって! 今日はそんな話をしに来たんじゃないんだよ〜!」

慌ててフーリエとルーカスの間に割って入るパスカル。
息を荒げていたフーリエは、少しずつ平静を取り戻していく。

「……何しに来たの」

「フェンデル政府がやってる大W石の研究の事でちょっとね」

「大紅蓮石の……? 断っておくけど、あの研究は私が長年かけて、ようやく完成させたものよ。あなたの研究を下敷きにしたかもしれないけど、その事で文句を言われる筋合いはないわ」

「文句なんて言わないよ、さすがお姉ちゃんだって思う。あたしは途中でやめちゃったのに。……でもあれ、今のままじゃ完璧に完成したとは言えない、やっぱり未完成だよ」

「言いがかりをつける気!?」

「そうじゃないけど……、ん〜、説明するより実演した方が早いかも。ちょっとやってみるね。W石のかけらどこかに落ちてない?
豆粒くらいの小さい奴」

「小さい……これは?」

「そうそう、ちょうどこんくらい。ちょっとこれ貸してね」

パスカルがソフィからかけらを受け取り、それを近くにあった装置に投げ入れる。
W石は液体に満たされた容器に転送され、光を放ち始めた。

「驚いた? 火のW石の原素をここまで効率的に引き出せるのは画期的なことなのよ」

「ここからさらに……ペチペチ……ピシッと」

誇らしげなフーリエを無視して、装置の操作盤を弄るパスカル。

「ちょっとパスカル、何を……」

「みんな、離れて!」

W石の光はどんどん膨らみ、異常なまでに眩い閃光を放つ。
動かないフリーエとルーカスを、アスベルとマリクが慌てて装置から引き離した。

その瞬間、爆発が起こり、W石を入れていた装置は粉々に砕け散る。

「な、何が起こったの……?」

「ほらね? 火のW石はこれが厄介なんだよ。原素を抽出する時に一定以上の圧力をかけると暴走を始めちゃうの。こうなると止められないよ。しまいには周囲の原素密度が極限に達してドン! なわけ。武器に使うくらいなら被害も知れてるけど、大W石はまずいよ。暴走したらシャレにならないもの」

「パスカル……もしかして、あなたが研究を途中で放棄したのは……」

「うん、先に結果が見えたからあきらめちゃった。だからお姉ちゃん、早く実験をやめさせないと。大事件が起きないうちにさ」

「……できないわよ、そんな事」

「う〜ん、自分じゃ言いづらい? だったら、場所を教えて。あたしが代わりに行ってくるよ」

「あなた、私を馬鹿にしてるの?」

「え?」

ぽかんとしたパスカルに、フーリエが羞恥か、はたまた怒りか、その両方かで身体を震わせる。

「何が先に結果が見えたからあきらめたよ! あなたが放棄した研究を完成させるのに、私がどれだけ苦労したと思っているの!? なんでも軽々とこなして、いつも私のやる事を真似して先に結果を出して! 私が必死で努力してたどり着いた先に、いつもあなたが先回りをしてる。その気持ちがわかる!?」

「お、お姉ちゃん……」

パスカルが珍しく、消沈して言葉を失う。
なのでその続きを、アスベルが受け継いだ。

「フーリエさん、俺たちはどうしても大W石のところへ行かなければなりません。今、フェンデルの大W石は事故の危険以外にも、重大な危険に見舞われているからです。大W石に含まれる原素が、他のふたつと同様、このままだと消失するかもしれません」

「他のふたつですって……?」

「はい。だから俺たちはなんとしてもその危機を食い止めたいんです。お願いします、フーリエさん、火の大W石の場所を教えてください」

「……大W石のある場所は私も知らない、実験の責任者ならわかるけど」

「なんという人ですか?」

「フェンデル軍技術将校、カーツ・ベッセルよ……」

「カーツ・ベッセルだと?」

パスカルと同じく、もしくはそれ以上に沈んだ様子のルーカスを気にしていたマリクは、フーリエの口からでた名前に顔を上げる。

「教官のお知り合いですか?」

「ああ。まさかこんな所で再びあいつと繋がるとは……」

「そのカーツという人は今、どこにいるんですか?」

「軍の技術省は帝都にあるわ。ただし、彼が確実にそこにいるかどうかはわからない」

「ありがとうございます、それだけ聞ければ十分です。俺たちはそのカーツという人にこれから会いに行ってみます」

「……好きにすればいいわ。私には、関係のない事よ」

フーリエ自身も、暗い表情でそういい残し去っていった。
一気に雰囲気の重くなった一行は、顔を上げようとしない2人を連れて研究所を出て行く。

「パスカル……」

「大丈夫、いつかわかってくれるさ。大W石の実験を止められるのはパスカルしかいない……そうとわかっていても、姉として負けたくなくてああ言うしかなかったんだ。フーリエさんの努力が人々の命を奪った、なんて悲しい事にならないためにも……、なんとしても実験をやめさせよう。もちろん、俺たちも協力する」

「しっかりしてください、お姉さんを救えるのはあなただけなんですよ。僕らとしても……あなたがいないと始まらないんですから。一緒に……行きましょう」

「弟くん……、ありがとう、みんな。本当にありがとう……」

泣き出すパスカルの頭を、ソフィが優しく撫でる。

「ルーカスさんも……、その、詳しい事情は分かりませんが、あまり気を落とさないで下さいね?」

「……ん、大丈夫。さっきは怪我ごめんね、シェリア」

「私が油断したせいなんですから、ルーカスさんのせいじゃありません。すぐ治せましたし、傷も残ってませんから大丈夫ですよ」

「……うん」

「さあ、時間がありません。帝都へ急ぎましょう」

パスカルに代わって皆を先導し始めたヒューバートに、ルーカスが重い足取りで着いて行く。

「ルーカス……無理はするなよ」

いつもより頼りないその小さな背中を支えるように叩くマリクに、ルーカスは覇気のない声で「してないよ」と答えた。
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