03.冬枯れの景色に遠い春

氷海の道を抜けて、フェンデルの氷山遺跡を進む。
奥地まで進むと、その先に巨大な装置と、それに繋がれた大W石が見えた。
その下にはカーツや総統らしき人物が揃っている。

装置が稼動し、大W石がゆっくりと光始める。
総統はこの程度では足りぬと、出力を上げるよう命じた。
一行は急いで彼らの元に走る。

「マリク……! お前、なぜここが」

「カーツ! これ以上実験を続けさせるわけにはいかん!」

カーツはしばし沈黙し、それから武器を構えた。互いに応戦体制に入る。

「……侵入者だ、取り押さえろ!」






――戦いの末、膝をついたのはカーツだった。

「マリク……強くなったな。昔は互角だったものを……」

「俺1人の力じゃない、仲間がいたからだ」

「ああ! 大W石が!」

大W石の光が急激に強まり、それを見ていた研究員たちがざわめき出す。

「馬鹿な……」

「も、申し訳ありません、総統閣下のご命令で出力を最大にしたら……」

「大変……! 暴走が始まっちゃうよ!」

「装置を止めろ! 急げ!」

「だ、駄目です! 緊急停止機構がまるで働きません!」

「こうなったら一か八か……大W石と装置を結んでるパイプを!」

「あのパイプをどうにかするつもり? そんなの無茶だわ!」

「こうなったのはあたしの責任だもの、なんとかしないと!」

走り出すパスカル、ルーカスはそれを制して前に出る。

「えっ、ルーカス!?」

パスカルの杖を奪い、刃のついたそれをパイプへと振りかぶった。が、

「君にその役はさせられない、私に任せろ」

とん、と体を押され、装置から体が離れる。

「カーツ!」

「うおおおおっ!」

カーツの槍がパイプに突き刺さり、そこから漏れ出た電流が槍を伝ってカーツに流れ込む。
ハッキリの目視できるほどの青白い電流を放った装置はその役目を終え停止し、大W石も本来の色を取り戻した。

カーツは槍を握ったまま、その場に崩れ落ちる。

「カーツ、しっかりしてくれ! カーツ!!」

真っ先にマリクが駆け寄り、仲間達も回りに集まる。

「パスカルさんと言ったな……どうか君の手で、研究を完成させてくれないか? 大W石の制御は我が国の悲願だ……なんとしても研究は続けなくてはならない。君の研究が完成すれば我が国は救われる。だから……どうか……」

「カーツ……」

「マリク……交代だ、ここから先はお前に任せた。頼む……どうか我が国の未来を導いてくれ……」

力ないカーツの手がマリクに伸びる。
だがその手をマリクが掴む前に、彼は倒れこんだ。

「カーツ! しっかりしろ! 死ぬな! カーツ!!」

カーツの目蓋が下りる。
必死に治療をしていたシェリアが、そっと手を下ろした。

動かない旧友の傍で必死に名前を呼ぶマリクを、離れた場所から呆然と見ていたルーカスは、その姿に過去の己を重ねる。

「カーツさん……死んじゃったの……? もう……会えないの?」

「……ああ」

「そんな……教官とせっかくまた会えたのに……。だめだよカーツさん、戻ってこなきゃだめだよ……」

「ソフィ……もういいんだ、静かに眠らせてやってくれ」

「教官……」

「なっ?なんだあれは!」

死を悼む一行の耳に、総統の声が響く。
見上げると、そこには魔物に乗ったリチャード。

「リチャード……!」

「ようやく見つけたぞ……これで三つ目だ」

「リチャード、やめろ!」

大W石から原素を吸収するリチャードを止めようとアスベルが動く。
が、リチャードの放った閃光をモロに受けて吹き飛ばされてしまった。

続けてアスベルに向けて放たれた閃光により土煙が彼の姿を覆う。
それが晴れた時、彼の前にはソフィが立ちはだかっていた。

「貴様……」

「ううううううっ!」

ソフィの全身が、先ほどの大W石のように光り輝く。
そして壁を駆け上がり、リチャードに殴りかかった。
2人の拳を剣が交わり、そこからもまた光が溢れる。

「我は消されぬ! 決して消されはしないぞ!」

「うあっ!」

「ソフィ!」

リチャードに推し負け、吹き飛ばされるソフィをルーカスが受け止める。
どうして、いやだよ、と、その体から流れ込んでくるかのようなソフィの声が、彼の頭を満たす。

リチャードは大W石から全ての原素を吸い取ると、そのまま飛び去っていった。

「せっかく実験を食い止めたというのに……」

「あれが今のリチャード……、馬鹿な……、とても人間のやる事とは思えない……」

「なんという事だ……! 大W石の原素が失われてしまった……! しかもウィンドルの国王が、我が国の大W石を奪ったのか。おのれ、これは我が国に対する重大な侵略行為だ、貴様らもこのままでは済まさん、警備兵!」

「お待ち下さいオイゲン総統閣下」

場にそぐわぬ少女の声が、いきり立つ総統の声を遮る。
その顔はルーカスも知っていた。

「ポアソン!? あんたがどうしてここに?」

「ばば様から長の代理に任じられてやって来たんですよ」

「あなたが……長の代理……?」

「ばば様からの伝言を、総統閣下にお伝えします。――どうかこの方達の身柄を、こちらに預からせていただけませんか? 今回の一件はフェンデルだけの問題ではなく、世界中で同じ事が起こっているようです。長はアンマルチア族の総力を挙げ真相を解明する事を決定しました。そのためには、この方達の持つ情報がどうしても必要なんです」

「し、しかしですな……これは我が国の問題で……」

「長はこうも申しております。閣下のお答えによっては、現在フェンデル政府に協力中の技術者を引き上げざるを得ない。我がアンマルチア族は、今後もフェンデルとの良好な関係を望んでおります、とのことです」

少女の言葉に、総統は絶句。
そして、大人しく皆を引きつれ官邸へと帰っていった。

「ポアソン、あれって立派な脅しだよ。本当にばーさまがああ言ったの?」

「もちろんですよ」

「あんた……いい長になるかもね。でも本当、いい所に来てくれたよ。あたしたちがここにいるって事、どうしてわかったの?」

「大W石に危険が迫っているとフーリエ姉様が報告しに来てくれたんです」

「お姉ちゃんが……。でも、結局大W石を守る事はできなかったよ……」

輝きも色すらも失い、黒く淀んでしまった大W石を見上げて、パスカルが申し訳なさそうに言う。
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