03.冬枯れの景色に遠い春
「これからどうすればいいの……リチャード陛下の次の目的地もわからなくなっちゃったし……」「その件で、ばば様からパスカル姉さまに伝言があります」
「ばーさまから……?」
「リチャード陛下は次に星の核へ向かうだろうとの事です」
「星の核……?」
「世界の中心にあると言われている全てのW石の大本ともいわれている存在の事です。パスカル姉さま、これを」
ポアソンは小さな鍵を取り出して、パスカルの掌に乗せる。
「英知の蔵の入り口の鍵です。ばば様も星の核に関してはそれほど詳しくはないそうですが……、英知の蔵にはそれ以上の星の核に関する情報が眠っているかもしれないそうです」
「あたしが英知の蔵に入っちゃっていいの?」
「お前も今回の事で色々と成長したようだ。
だから特別に掟を曲げて入る事を許す、だそうです」
「ばーさまがそんな事を……」
「英知の蔵へ行ってみよう、パスカル」
「ええ、今となっては賭けられる可能性にはなんであれ、賭けるべきです」
そうして次の行動を決めた一行に、珍しくマリクが「ここに残る」と言い出した。
「教官!?」
「ここに残ってカーツの意思を継ぎ、再び改革の行動を起こそうと思う。フェンデルの人間として、改革を成し遂げられなかった責任を負わなくては……」
「……あなたがここで改革の行動を起こす事に、もはや意味はないと思います。カーツ氏の願いは大W石の研究を完成させ人々の窮状を救う事です。そのためにまずやるべきなのはリチャード国王を止め、大W石を元通りにする事ではないですか? ……僕たちと一緒に来るべきです。そして……フェンデル人の誇りと意地を僕らに……見せてください」
最初はあれだけ同行を嫌がっていたヒューバートのその言葉に、マリクが顔を上げる。
「あたしもやるよ、カーツさんの意思を託されてるんだもん」
「教官、俺たちには教官の教えがまだまだ必要なんです」
皆に順に説得され、悩んだマリクは熟考の末に頷いた。
それを遠巻きに見ていたルーカスに、ポアソンが歩み寄る。
「それから、ルーカス兄様も一緒に行くようにと、ばば様が仰っておりました」
「……え?」
「フーリエ姉様から、ルーカス兄様が帰ってきていると聞いておりました。あとでジル姉様のこともきちんと説明しに来い、だそうです」
ジル、という名前を聞いて、皆の視線がルーカスに集まった。
ルーカスは珍しく困ったように目を背ける。
「俺に、里に行く資格は……」
「逃げていては、お前は一生里の皆から恨まれ続ける。お前を里に招きいれたジルも、愚か者だと言われ続けるぞ、とも仰っておりました」
「…………」
「責任を感じているのなら、ジル姉様の代わりに、パスカル姉様と同じくその責務を果たすようにと。――うちは総統閣下とまだお話があるので、帝都に残ります。ばば様も来る予定なので……ご一緒できなくてすみません」
「え? あ、いいってそんなの。本当ありがとね、ポアソン」
急に話題をこちらに振られたパスカルが、どもりながらも礼を述べる。
そうして去っていったポアソン。
残された面々の間には沈黙が下りた。
「……えーっと、それじゃ、ルーカスも一緒に、皆でアンマルチア族の里へ行こうか!」
「…………」
「ばーさまの言いつけ破ると怖いよ〜?」
明るく手を掴んで、さぁさぁ!と言うパスカルに、ルーカスが渋る。
そんな彼に、これ以上避けては通れないだろうと思ったマリクが口を開いた。
「ルーカス、そろそろ話してくれないか? アンマルチア族の里で、お前に何があったのかを」
「…………」
「話したくないことなのだろうということは分かる。だが、俺たちはお前についてほとんど何も知らない。もしお前がこれから里に行って、人々に非難されていたとしても、事情が分からなければ、庇ってやる事も出来ん」
「……別に、庇ってなんか欲しくないよ」
「仲間が酷く言われるのを黙って見過ごせるような者が、この中に居るとでも?」
皆は一様に心配そうな顔で、ルーカスを見つめている。
唯一話を知っているパスカルも。
「……話してもいいんじゃないかな、ルーカス。皆はきっと、わかってくれると思うよ」
「お願いします、ルーカスさん」
会って間もない人間に、よくぞそこまで入れ込めるな。
変な人達。と、ルーカスは思った。
そしてゆっくりと、話し始める。
「俺は元々ストラタの生まれで、訳あって幼い頃に国を出た。行く当てもなくフェンデルを彷徨ってるうちに、1人の女性に出会ったんだ。その人はアンマルチア族で、俺が事情を話すとすぐに里に迎え入れてくれた。……もう行ったなら知ってると思うけど、里は部外者は入れないことになってる。だから反対する人は少なくなかったけど、彼女はそんな皆を説得して、自分の家に住まわせてくれたんだ」
「……あの、すみません、国を出た訳って……?」
おずおずと、シェリアが手を挙げて尋ねる。
しかしその理由は、彼女の知っているものだった。
「……俺、ちょっと変わってるから」
「変わっているとは?」
「……魔物の心の声が聞こえるという話か?」
マリクが先に、真実を言い当てる。
シェリアやパスカルは「ああ」と納得し、
アスベルたちは総じて「は?」という顔をした。
「きょ、教官、魔物の心の声っていうのは……」
「こいつは魔物や動物の心の声というものが聞こえるらしい。道中で魔物との戦闘を極力避けようとしていたのもそれが原因だ」
「そんな馬鹿な話が……」
「あるんだよ、ヒューバート。信じられないと思うけど。でも、それが災いして、ストラタで俺は酷い事件を起こした。国を出たのは、それが原因。……続けていい?」
アスベルとヒューバートが、あっけにとられつつも頷く。
「で、まあそんな話を信じてくれる人はまず居なかった。信じてくれたのはそれを面白がったパスカルと……ジル。俺を救ってくれた女性だけだった。彼女は俺の、魔物だからって理由なく傷つけたりしたくないって考え方を理解してくれた。一緒になって、人々から魔物を護ろうとしてくれたんだ。だけど……」
ルーカスはそこで一度言葉を切って、拳を握り締めた。
顔を悲痛そうにゆがめて、言葉を振り絞る。