03.冬枯れの景色に遠い春

「俺は魔物の気持ちが分かるけど、魔物に俺の言葉や気持ちは通じない。彼らを傷つける兵士を退かした後、痛みに暴れる魔物をなだめようとして……失敗したんだ」

「失敗って……」

「その魔物は、痛みと恐怖で、兵士と俺たちを判別出来なくなってたんだ。その時に大人しく引き下がってればよかった。でも俺は、そいつが放っておけなくて……なかなか離れようとしなかった。ジルもそんな俺を見捨てずに一緒に居てくれた、そのせいで……ジルは、その魔物に殺されたんだ。そしてその魔物は、結局最後まで正気を取り戻してはくれなくて……、俺が……この手で殺した」

今でも思い出せる。引き裂かれた彼女の姿を。
恐怖と痛みに泣き叫ぶ魔物の最後の声を。

「俺は自分の我侭を通した。その結果、人も、魔物も、どちらも救えなかった。……あとは大体予想がつくと思うけど、その後里に帰っても、俺の居場所はもうなかった。だからろくに皆に話も、謝りもしないで……俺は里から逃げた。……それで終わり」

皆が、言葉を失っていた。

何と声をかければいいのか、どんな反応をしてやればいいのか。
そんなことを、ただひたすら考える。

「……それなら何故、今でも魔物を庇うようなことをしているんだ? そんな事があったのなら、もう魔物の味方などやめてしまおうとは思わなかったのか?」

「思ったよ。こんなことしても意味ないんだって。でも、殺すたびに悲鳴が聞こえるんだ。痛い、助けて、死にたくないって、耳を塞いでも頭に直接断末魔が響いてくる。俺はそれに堪えられるほど強くない。それに……約束したんだ。俺は俺のままで居るって」

その道がどれだけ険しくとも。
たとえ認めてくれる人がいなくても。

たった1人、自分を受け入れてくれた彼女が"全てを救うための力"と称してくれたこの異能がある限り、護る為に戦い続けると。

「……それが俺っていう人間だよ」

暫くの静寂の後、アスベルが口を開く。

「俺は……俺も、その気持ちは少しだけわかる気がするんです。リチャードは今、あんな状態だけれど……、俺の大切な友人だから、傷つけたりはしたくない。だからって、みんなや街の人たちが傷つけられるのも嫌だ。出来るのなら、全部護りたい。……俺がもし、ルーカスさんと同じ立場だったなら……、きっと、同じ事をしていたと思います」

「私も……、今はウィンドルで救護組織として活動していますが、救護団に入ったのは、この力を少しでも人を護るために使いたかったからです。人とは違うこの力を助けるために使いたいと……、気持ちは、ルーカスさんと同じです」

「……甘い考えだとは思いますけどね。でも、事情はよく分かりました。何も知らずに色々と酷いことを言ってしまって……すみませんでした」

「ルーカスは何も謝ることなんかないんだよ。あたしは、ジルはきっと最後まで後悔なんてひとつもなかったって、そう思うよ」

皆が思い思いの言葉を言って、ルーカスの手を握る。
自分よりもずっと小さなその手と、皆の、悲しそうだけれど穏やかな顔を見て、ルーカスは参ったなぁ、と、小さく呟いた。

「……パスカルと一緒に行動するだけあって、変わってるね、皆」

「なっ、貴方に言われたくはありません!」

「っていうか、それあたしが変な人って言ってるよね?」

「パスカルは、変」

「こらソフィ、そんなにハッキリ言ったら失礼だろ?」

皆が笑う。つられて、ルーカスの口からも僅かに笑いが漏れる。

「……あ、笑った」

「え?」

「ルーカス、笑ってるの初めて見た」

ソフィが物珍しそうに下から覗き込んでくるのを見て、パスカルもそれを真似。
そうやって皆の輪の中で翻弄されるルーカスを見て、マリクは安心したように微笑した。

「よーし! それじゃあ皆でアンマルチア族の里に出発ー! 何か言って来る人が居たら、あたしが吹き飛ばしてあげるよ〜」

「いや、それはやめてね。……理由がなんであれ、俺のせいでジルが死んだのは事実なんだからさ。里の人がそれで俺を憎んでも、それは間違ったことじゃないよ」

「うーん、でも、ルーカスのこと悪く言われるのはやっぱり嫌だよ」

「ありがと、パスカル。皆も」

元気よく雪道を登っていくパスカルらの後を追いながら、ルーカスは序叙にスピードを落としてマリクの隣に並ぶ。

「どうした?」

「…………」

相手は答えない。マリクは疑問符を浮かべながらも、歩幅の違うルーカスに合わせて少しだけ歩調を緩める。

里までの道程の半分を過ぎるまで、2人は会話することなくそのまま並んで歩いて、漸く、

「……おっさんは大丈夫なの?」

ルーカスがそう切り出した。
質問の意味が分からずマリクが首を傾げる。

「何がだ?」

「……なら、いい」

ざくざくと歩調を速めるルーカスに、
マリクは何に対しての言葉なのか考えて、

「……カーツのことなら、大丈夫だぞ」

そう答えた。
当たっていたようで、相手はまた隣に戻ってくる。

「おっさん嘘上手いから、いまいち信用出来ないんだけど」

「そういうお前は嘘を見破るのが上手いな」

「……やっぱ大丈夫じゃないんじゃん」

「だが、今は死を嘆くよりも、やらなければならないことがあるからな」

「……あっそ」

不満げな顔をする青年に、マリクは漸く一連の行動の意味を理解して笑う。

「何だ、心配してくれてるのか?」

反応を示さないルーカスに、今度はマリクが切り出す。
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