03.冬枯れの景色に遠い春
「……俺が過去にフェンデルで改革運動をしていた話はもう知っているな? その時俺はカーツと、もう1人でよく行動していたんだ」「? 何いきなり」
「まあ黙って聞け。――そいつは女性でありながらも、俺たちと同じ……いや、時にはそれ以上に危ない橋を渡ってでも改革に力を注いでいた。そんな彼女を俺は信用していたし、頼もしい仲間の1人だと思っていた。……だが彼女は、総統の娘だったんだ」
「…………」
「……聞いてるか?」
「黙って聞けって言ったじゃん、聞いてるよ」
「俺はすぐに彼女を運動から外すことを考えた。もし彼女が改革に手を貸していることが総統に知れれば、命が危ないと思ったからだ。だが、カーツはそれに賛同してはくれなかった。だから俺は、直接彼女を説得しようとした。しかし彼女の意思もまた……今日のカーツのように、固いものだった。俺はそんな彼女を無理にでも引き離そうと嘘をついた。我々の情報を、総統に流しているのではないかと疑っている、とな。その結果、疑いを晴らすために彼女は総統にバレるのを覚悟で重要な資料を盗み出し……、兵士に撃たれ、帰らぬ人となった」
「…………」
「……もう喋っていいぞ、話は終わりだ」
ルーカスは当時のマリクの胸中を想像した。その上で、ついさっきカーツを看取って、今ここに居る彼の胸中を想像した。
かける言葉に悩んで、悩んで、悩んで。
だが結局、その話に対する適切な感想も、正しい励ましの言葉も浮かばなかった。
「……なんでそんな話、俺にすんの」
「お前だけに苦い過去を白状させるのも不平等かと思ってな。……今でも思う、もしあの時、彼女――ロベリアを無理に引き離そうとせずに、カーツと3人で改革を成していたら……彼女を失うことも無かったのだろうかと」
まるで自分のことのようだと、ルーカスは思った。
大事な人を失い、その責任に、後悔に、押しつぶされてしまいそうになる自分と、彼を重ねる。
「……その人が死んで、自分も死んでしまおうとか、思わなかった?」
「……どうだったかな、忘れたよ。だが、少なくとも今は、カーツに託された夢を果たすまでは死ねないな」
「……そっか」
「お前は、そうしようと思うのか?」
皆より一足先に山頂に到達したパスカルが早く早くと手招きしているのを見ながら、ルーカスは無言で歩みを速める。
何も答えず先に行こうとするその手を、反射的にマリクが掴んだ。
「……なに?」
「……いや」
だがすぐに離して、前を行くルーカスを見送る。
マリクは最後尾で1人、その背に一抹の不安を抱いた。
里に入るなり、ルーカスは予想通り人々から冷たい注目を浴びた。
陰でひそひそと小声で囁きあう者は居たが、面と向かって何かを言いに来るようなものは居らず、それが余計に彼らの、主にアスベルやシェリア、ヒューバートらの神経を逆撫でする。
「何よあれ……、感じ悪いわね」
「言いたいことがあるなら、ハッキリ言いに来ればいいでしょうに」
もっとも、当の本人はそれらに反応を示さず、いつも通りの様子でスタスタと英知の蔵へ向かった。
蔵の中は薄暗く、ただ部屋には大きな装置が1つ置いてあるだけだった。
「英知の蔵って図書館みたいな所かと思っていたけど……違ったみたいね」
「考え方は図書館で合ってるよ。記録を残すやり方が紙じゃないだけでさ。いや〜、この中に入れる日が来るとは思わなかったな〜。さてと、さっそく星の核のことを調べてみようか」
パスカルが装置を弄ると、スクリーンが現れ、その奥に球体のホログラムが映し出される。
見慣れないそれに、ヒューバートやシェリアが驚きの声を上げたが、パスカルはただ黙々と作業を続けた。
「ん〜と、星の核は、と。あった。なになに……ふんふん。あーなるほど〜。星の核ってのは確かにあるね。でも大W石とは別物だけど」
「どう違うんだ?」
「大W石の大本って考えるのが一番近いと思うよ。最初に星の核で原素が生まれて、それが大W石や普通のW石に溜まるみたい。大W石は星の核から出てきた原素を安定させる働きもあるんだって。へ〜」
「星の核とか大W石って自然の物って感じがしないわね。まるで人工的に作られたみたい」
「う〜ん、シェリアの今の発言すっごく鋭いとこついてるかも。あたしもそう思ったんだよね」
「しかし……星の核というのがそういった物だとして、リチャードがそこへ向かうか?」
「むしろ、ますますビンゴの可能性が高まったと思うよ。リチャードが吸収してたのって大W石の中の原素だったわけだしね」
「リチャード国王が星の核の原素を吸収したら、この世界はどうなってしまうんですか?」
「そうだねえ……あらゆる原素が枯渇した死の世界になっちゃうかもね」
「そんな……リチャードはそんなことをするために……?」
「星の核へ行く方法はあるのか? 世界の中心に位置するという事は、地面の下にあるのでは?」
「待って、今調べてるから。……あ〜また駄目か、記録が古くなっててうまく再生されないんだよね……、ん、出た」
ホログラムに世界が映し出され、ちょうど闘技島の辺りに矢印が浮かぶ。
「闘技島の近くにある孤島に星の核へ通じてる縦穴の入り口があるってさ。他に何か分かることないかな。え〜と……ラムダ……」
「ラムダ……?」
「その言葉、前も出てきたな。何の事かわかったのか?」
「人の名前かな? 大昔に今のリチャードみたく大W石を狙ったみたい。んでこれは……何かの詩かな?」
「詩?」
「フォドラに生まれし災いの種は、三つの光の地に降り立ち、その葉は茂り光を覆い、フォドラより来たりし災いの葉を枯らす者……、三つの光の輝きを護らん……。災いの種? 光の地? 災いの葉を枯らす者? 何の事だ〜? うわっと、また読み取れない箇所が……」
「災いの種……フォドラ……どこかで……」
パスカルの言葉を反芻して、苦しそうに胸を押さえるソフィ。
「ソフィ、どうしたの? また苦しくなったの?」
「何か……思い出せそうなんだけど、そうすると頭が痛くなるの……」
「外の空気を吸いに出ましょう、少しは気分が良くなるから。私がソフィについてるわ、みんなは調べ物を続けて」
「頼む、シェリア」
ソフィを連れて、シェリアと2人が蔵を出て行く。
その後もパスカルは装置を調べるが、ほとんどが断片的な情報で大した手がかりにはならない。
「そのラムダとかいうのは大W石を狙って結果的にどうなったんだ?」
「失敗したみたいだね、阻止されたって言ったほうがいいのかな。プロトス1が食い止めた、的な記述がちょこちょこ出てきたよ。さっきの詩の、災いの種ってのはそのラムダの事かな」
「そうだとするとプロトス1とは……」
「災いの葉を枯らす者、という事?」
「なるほどな……、その時の出来事のような事が、今リチャード陛下の手で再び起こされようとしているのか」
「ここまで分かれば十分です、すぐにその孤島へ向かいましょう」
奮起して蔵を出て行く皆に反して、ルーカスは1人パスカルが放棄したタッチパネルを叩き続ける。
「ルーカス、行くぞ」
「ラムダ……プロトス1……、災いの葉を枯らす者……」
「それについてはまた今度詳しく調べよう、今は時間が惜しい」
「うん……」
名残惜しげに装置を見つめながら、皆に続いて蔵を出る。
外ではソフィとシェリアが待っていた。
ルーカスは、心配するアスベルに大丈夫だと答える少女をじっと見つめる。
(……心の声が聞こえるってことは、多分ソフィは……人間じゃない。災いの葉を枯らす者……プロトス1、リチャードと対峙した時に流れてくるあの異常なまでの闘志は……)
まだ確証が持てていないこともあって、誰かに相談することは出来ない。
ソフィはこちらの考えていることなど何も知らず、ただ首を傾げていた。