06.いつか花が咲く頃に
「あーっ!? お前! 性懲りも無くまた来たのかよ!?」ジルの墓前で手を合わせていたルーカスは、そろそろ行くかと立ち上がったところでそんな声を聞いた。
見れば、いつかジルのリボンを巡って言い争ったアンマルチア族の男性がそこに立っている。
露骨に面倒臭そうな顔をしたルーカスに、男は「なんだよその顔は!」と殊更に声を荒らげた。
「別に。もう行くから、あとはご自由に」
「けっ! とっとと逃げようとしなくても、別にもうお前にとやかく言うつもりはねーよ。せいぜい寛大な長に感謝する事だな!」
「その割にはその態度だけど」
「うるせーな! そんなすぐ態度変えられる訳ねーだろ! そもそもお前は元からいけ好かねえんだよ!」
言いながら、男は先のルーカスと同様にジルの墓前に腰を下ろして手を合わせ始めた。成程それが目的だったかと、ルーカスは邪魔をしないようこっそりその場を離れようとする。
「おいお前、結局ジルとはどういう関係だったんだよ」
が、その気配を察知したらしい男に阻止されて渋々足を止める。
「どうって……、別に、友人だよ」
「嘘吐け! あれだけ親しくしておいてただの友人な訳あるかよ!」
「本当だよ、少なくともあんたが思ってるような関係じゃない。……俺の片想いだったよ」
片想いという単語を聞いて、男が苦い顔をする。
「告白しなかったのかよ」
「その言葉そっくりそのままお返しするけど。あ、もしフラれたとかだったらごめんね」
「フラれてねーよ! 告白出来なかったのはお前のせいだろ!」
「何それ、責任転嫁すんのやめてよ」
「実際お前がジルと付き合ってると思って諦めた奴が大勢居たんだよ! あの距離感で付き合ってなかったって方が驚きだわ!」
「そんな事言われても知らないけど……、じゃあ一応ごめん」
「癇に障るから謝るな!」
「…………、俺もう行っていい? 待たせてる人居るから」
「そうは行くか」
「まだ何かあんの?」
「……あのリボン、お前が持ってなくて良かったのかよ」
どこかバツが悪そうな顔をする相手に、ルーカスは眉を下げて微笑んだ。
「別にあんたに言われたから返した訳じゃないよ」
「じゃあ何でだ?」
「俺、今は他に好きな人が居るから」
「……は?」
その声は目の前の男からではなく、背後から聞こえた。
吃驚して振り返ったルーカスに、唖然としているマリクの隣に立つリチャードが笑いかける。
「やあ、遅かったから迎えに来たんだけれど……お取り込み中だったかな?」
「他所者がゾロゾロと……、別にもう用はねーよ、じゃあな」
気が済んだのか、男はさっさとその場から離脱した。リチャードはそこに在る墓石に気付いて、先の二人同様手を合わせる。
「これが噂のジルさんだね。……ああ、ごめん、待っている間に他の皆から事情を聞いたんだ。勝手な事をしてすまない」
「え? ……ああ、別にいいよ、今更隠す事でも無いし」
突然場に乱入してきた二人に動揺していたルーカスは、落ち着き払ったリチャードの言葉に自らも冷静さを取り戻してそう返した。
「ところで、立ち聞きするつもりでは無かったのだけれど、今言っていた君の現在の想い人というのは誰なのかな? もしかして僕らの知っている人かい? それなら是非とも応援させて貰いたいな」
「え、いや、あの」
「遠慮は要らないよ、君は僕とラムダを救ってくれた恩人だからね。少しでも恩返しがしたいと思っていたところなんだ、協力は惜しまないつもりだよ」
やたらと押しの強いリチャードにたじたじになるルーカスを他所に、固まったままのマリクをリチャードが小突く。
「大丈夫かいマリク、魂が抜けているよ」
「………………」
「……おっさんどうしたの?」
「さぁ? とりあえず、アスベル達が待っているから、用が済んだのなら行こうか」
「あ、うん」
未だ衝撃を受け続けているマリクを笑いを堪えているリチャードが引っ張って、三人はアスベル達と合流した。
女性陣の姿が見えないのでどこへ行ったのかと周囲を見渡すルーカスに、ヒューバートが経緯を話す。
「という訳で、ストラタへは僕達だけで行くことになりました」
「あんな様子のソフィを連れて行く訳にもいかないからね、シェリアさん達に任せてきたんだ」
「そっか……、まあ、パスカル達がついててくれるなら安心かな、里の中なら危険も無いし」
「ええ。……兄さんも、いい加減しっかりして下さい」
「ソフィ……」
ソフィの悩みと、それに答えられない己の無力が余程堪えたのか、アスベルはどんよりとした空気を纏いながらとぼとぼと雪道を歩き始めた。その情けない背をヒューバートとリチャードが支える。
哀愁漂うそんな光景を眺めながら、ルーカスは棒立ちになっているマリクを杖の先でつついた。
「おっさん、置いてかれちゃうよ」
「……初耳だぞ」
「あ、やっと喋った。……何が?」
「お前に好きな奴が居るって話だ!」
「そりゃそうだよ、言ってないし」
「どうして言わなかった!?」
「……逆に何で言う必要があんの?」
「それは……!」
「それは?」
「……それは、確かに、必要は無いかもしれんが……」
「でしょ?」
勢いを萎ませるマリクに、ルーカスは変なの、と笑う。
「そんな事よりほら、今はもっと大事な事があるじゃん、早く行くよ」
そう言って、ルーカスはマリクの手を掴み、グイグイと引っ張っていった。