01.種は撒かれた

王都が王子の暗殺に動き出し城下がざわつき始めている頃。
そんな世情には興味のないルーカスは、マリクの言う"人に危害を与える魔物"を見つけ出しお灸を据えて、しばらく見張りをつけておくことにした。
見張りといっても人ではなく、さっきからついついと髪をついばんで遊んでいる小鳥たちなのだが。言葉は通じないが、森が騒がしくなれば自分のもとに飛んでくるなりするだろう。

それよりも面倒なのは自分の方だった。
1人だけとはいえ顔を見られてしまっては行動が制限されてしまう。大胆にも騎士学校のあるバロニアで大手を振って生活していたルーカスにとってこれは少々ネックだった。

ほとぼりが冷めるまでどこか別の場所に隠れていようか? 森からあまり離れたくはないし、そうなるとラントかグレルサイドか……、杖で地面に2本縦線を引いてそれぞれにラント、グレルサイドと書き入れ、その2本の間に横線を数本書き入れる。

「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な」と1人呟きながら指でちょんちょんと2本を交互につつき、そのうちの1本をなぞっていく。行き着いた先はグレルサイドで、ルーカスは絵を消して立ち上がった。

ここからグレルサイドまではそう遠くは無い。
人ごみに紛れながらバロニアの自宅で荷物を纏めると、やけにざわついている街を不思議に思いつつもさっさと抜け出す。

街道沿いに道を進み、しばらく歩くとウォールブリッジが見えた。だがそこにはいつもは居ないはずの兵が並んでいる。
検問か何かか? 自分には関係ないだろうと、ルーカスは素知らぬ顔で通り過ぎようとしたが、兵に行く手を阻まれる。

「ここは現在通行禁止だ」

「えー……」

「悪いが例外はない、諦めて引き返してくれ」

「……この道を?」

自分の後方に長く続く街道を見てルーカスはぼやくが、聞く耳を持たない兵に無理やり追い返される。

こんなことならラントにしておけばよかった。今更来た道を引き返すなんて時間の無駄にも程がある。
諦め悪く橋の前をうろうろしていると思い切り睨まれたので、ルーカスは仕方なく道の脇に隠れた。

ふと前方に機械装置が見えて、なんだろうかと近づいてみる。どうやら空間転移装置らしく、操作してみると上手く作動してくれた。
飛ばされた先はどこか知れない遺跡のような場所で、ここを進めばグレルサイドかラントの近くにいけないだろうかと期待して歩き出す。

しばらく歩いていくと、また別の機械が現れた。
今度は映写機らしい。地図や現在地でも示してくれるのかと期待しつつ、慣れた手付きで叩いてみると、目の前にあった板が開き、少女の立体映像が映し出された。

紫色の長いツインテール、幼い顔立ちに不似合いの機械的な服。他には何の描写もなく、映像はそれだけを映すと消えてしまう。
何だろう、誰かの記録か何かだろうか。手元にある石版にはラムダと書かれているが、これまた何のことだか分からない。

今の自分には必要のない知識だと早々に頭から消去して更に進むと、出口の近くで随分懐かしい顔に出くわした。

「……あれ? もしかして……ルーカス?」

毛先の赤く染まった白い髪、へんてこな衣装にへんてこな武器。
ルーカスをじろじろと観察していた少女は、たかたかと駆けてくると「やっぱり!」と両手を上げた。

「ルーカスだ! 久しぶりだね〜! なになに、こんなとこで何してんの?」

ルーカスは抱きついてこようとする女性の腕を避けて、無言のままスタスタと出口へ向かう。
女性は「無視!?」と嘆いて後を追ってきた。

「あたしのこと忘れちゃったのー? 5年も一緒の里で暮らしたのに」

「…………」

「それとも、もしかしてそっくりさん? 記憶喪失? 親戚の人?」

「…………」

「ねールーカスってばー」

「パスカル五月蝿い」

ぱちぱちと手元のパネルを叩いて外に出ると、そこは橋の反対側だった。
ちょうどよかったとそのままグレルサイドを目指して歩き出すと、尚もパスカルがついて来る。

「どこ行くの?」

「グレルサイド」

「何しに?」

「さあ。っていうか、何でついて来んの」

「久しぶりに会ったんだから色々話そうよー」

「じゃあパスカルが話せば」

「あたしは特にないんだけどね」

「…………」

意味のないやり取りは早々に終わらせて、さっさとグレルサイドに向かう。
ここでもまた兵が待ち構えており、入ろうとするとまた止められた。

「……今度は何」

「今は非常事態につき、許可なき者を街へ入れる事は出来ん」

「ありゃー、残念だったねルーカス」

「ありえないんだけど……」

ここまで来てそれはないだろう。それなら橋のあたりで、いやいっそバロニアでそういうチラシでもなんでも貼っといてくれ。
全てが徒労に終わってしまったルーカスは肩を落とす。

「パスカル、ここからラントまで一気にびゅーんって行くような機械ない?」

「ないけど作ろうか?」

「それ作る時間と、ここからラントまで歩く時間とどっちが長い?」

「歩いたほうが早いね」

「じゃあいらない」

杖をズルズルと引きずりながら、ルーカスは渋々来た道を戻り始める。
遺跡を抜けたところで、パスカルがふあぁ……と大きくあくびした。

「あたしここで休んでいくね〜、ちょっと歩き疲れちゃった」

「ここで?」

「うん、ラントまで頑張ってね〜おやすみ〜」

そう言って本当に眠ってしまう相手に、まあパスカルなら大丈夫かと思いつつ、念のために魔物や暴漢がやって来た時のためのトラップを設置しておく。

そういえばラントへ行くには一度バロニアに戻らなければならないのだが、運悪くあの騎士団の男と鉢合わせてしまったらどうしよう。逃げる自身はあるが……と、そんなことを考えながら歩いていたせいで前を見ていなかったルーカスは、対面方向から歩いてきた人にぶつかった。

「っと、ごめんね」

「いえ、こちらこそ」

相手は若い青年で、こちらに一礼して去っていった。その隣には、どういう訳かバロニアの王子が並んでいる。
お忍びで旅行か? そしてその反対側で歩いていた少女には更に驚かされた。

紫の長いツインテールに機械的な服。それはつい先ほど遺跡で見たあの映像と瓜二つだったのだ。

さっきの映像はあの子の記録か? 面子が面子なだけにどこかの貴族のご令嬢かなと予想を立てる。
まあなんにせよ自分には関係のないことだと、小さくなっていく3つの背中を見るのをやめて、ルーカスは再び歩き出した。
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