01.種は撒かれた
どうやら今日の自分は天に見放されているらしい。バロニアに着いたルーカスは、ちょうど街から出てきた騎士団と鉢合わせてそんなことを思った。
それだけならまだしも、その騎士たちを先導しているのが、よりにもよって森で直接対峙したあの男。
もちろん顔もバレしているのだから、相手はルーカスに一発で気付いた。
「よくぞそんなに堂々と街に入って来れるな。大した自信家だ」
「うん、ほんとやめときゃ良かった」
「観念しろ――と言いたいところだが、今は生憎お前に構っている暇がない。行くぞ」
と、男はルーカスには何も言わずに、さっさとグレルサイド方面へと歩いていってしまった。
続く騎士たちも横目でルーカスを見るものの、手を出す素振りもなく通り過ぎていく。
どういうことだろう。まあ、自分はそれで何も文句はないのだが。
それに彼らが出て行ったのなら、しばらくはバロニアに居られるということだ。わざわざラントに行く必要もなくなったと、ルーカスは喜んで自宅に戻る。
歩きつかれてそのままベッドに寝転がり、窓から差し込むまぶしい日差しにカーテンを閉めた。ただし鳥が来た時のことを考えて窓は開け広げておく。
一年中気候の安定した街らしくそよそよと入ってくる風は気持ちいい。日もかけてきたしとルーカスはうんと伸びをして、そのまま眠りについた。
次に目を覚ました時には日付は変わっており、早くに寝ただけあって涼しい時間帯に起きたルーカスはシャワーを浴びてから街に繰り出した。
「よっ! 今朝は早いな」
「アイス一本くださーい」
「いきなりそれか」
「お金はちゃんと払うよ」
「はいはい」
店主から受け取ったそれを舐めていると、早起きな子供達が同じようにアイスを買いにやって来る。
「あっアイスのにーちゃんだ! アイスちょうだい!」
「じゃあいい事した優しい子にはあげる」
「はいはい! 俺昨日迷い猫届けた!」
「私お母さんのお手伝いした!」
「僕は騎士学校の新入生に校内の案内した!」
次々に名乗りを上げる子供達に、自分の分を食べきったルーカスは露になった棒を店主に見せた。
「当たり」
「お前はいつも当たりだろ、白々しい」
新しいものを貰い、手を伸ばしてくる子供のうちの1人にそれを渡す。
ずるいー! と言って来る子供達の中で、受け取った少年は美味しそうにそれを頬張った。
「欲しかったらもっとたくさん良い事しておいで。……そのアイス1人で食べちゃうような子には次からもうあげないけど」
2口目を食べようとしていた少年はピタリと止まって、それを隣の子に渡した。
渡された子も1口食べてまた別の子に渡し、食べかけのアイスが子供達の間を行き来する。
「ナイス子供さばき」
「なにそれ」
「にーちゃんありがとー! またなーっ!」
「なあ鬼ごっこしようぜ!」
「えー、私かくれんぼがいいー!」
元気よく街の中を駆け回る子供たちに周囲の大人が微笑む。よくある風景だが、今日は何かが足りなかった。
「……なんか居心地悪い」
「ん?」
「ピリピリしてる、あの辺が」
城の方を指差すと、店主が知らないのか? と聞いてくる。
「国王陛下がお亡くなりになったんだ。噂ではそれをやったのは騎士団だって言われてる。王子殿下も殺されたと言われていたが、死体が出てないんで逃げたんじゃないかってさ」
「へー」
「自分で聞いておいてえらく興味がなさそうだな」
「興味ないから」
「なら何で聞いたんだ?」
「気になったから」
「そうかい……」
なるほどそれで自分を見てもあの態度かと騎士達の事を思い返しながら、ルーカスはアイスをもう1本くれという意思表示で硬貨をカウンターに置く。
「あんまり食べ過ぎたら腹壊すぞ」
「まだ1本しか食べてないじゃん、朝ごはんもまだだし。……あ」
「どうした?」
そういえば、グレルサイドからこちらに帰ってくる際にその王子様を見かけたような。
ならあれは逃げている最中だったのかと3人組を思い出す。
「……今日これから何しようかなって」
「なんだそれ。まあ暇ならここで待ってろよ、国王が交代するなら戴冠式があるだろ、祭りだぞ祭り」
「うわ最悪……」
「何だ、前王がお気に入りだったのか?」
「ううん、祭りとかそういう煩いのあんま好きじゃないからっていうだけ」
「年寄りかお前は」
再び当たりを引いたが、これでまた自分が貰うと当たり棒の永遠ループに入ってしまうので、ルーカスはその分のアイスは次のお客さんに上げてくれと言って店を後にした。