06.いつか花が咲く頃に
その後、そのまま部屋のベッドで一緒に眠った二人は、翌朝になると何事も無かったかのような顔でアスベル達と合流した。二人がそういう関係になったとも、決戦前にそんな事をしていたとも夢にも思わない純新無垢なメンバーは、揃って現れたマリクとルーカスに朝の挨拶をする。
「そういやルーカス、昨日の相談って結局何だったの?」
「ああ、原素の事でちょっと。そもそもリトルクイーンが人間を攻撃してくるのって、フォドラの核の原素が大量に消費されてたからなんじゃないかと思ってて……」
そんな風に、いつも通りのすまし顔でパスカルと真剣に話し始めるルーカスは、やはりどこからどう見ても男に抱かれて喘ぐようなタイプには見えず、マリクが「昨夜と同一人物とは思えんな」と一人感想を呟いた。
それを耳聰く拾ったリチャードは、ニコニコしながらマリクの肩を叩く。
「やあ、昨日はお楽しみだったみたいだね」
「……何のことでしょうか」
「とぼけなくてもいいよ、実は知っているんだ。ルーカスさんの色っぽい声が外まで漏れていたからね」
「なっ!?」
「大丈夫、聞いていたのは僕だけだよ。アスベル達は昨日は遅くまで喋っていたからね、研究所にある仮眠室に泊まったんだ。ベッドが足りなかったから居住区から布団を拝借して来ようと思って、僕が取りに行ったんだけれど……、声が聞こえてきた時は流石に驚いたよ。提案したのは僕だけど、まさかそこまでするとはね。保護者が聞いて呆れるよ、マリク」
「いや、その、それは……」
「二人とも、どうしたの?」
「何でもないよソフィ、ただマリクは悪い大人だねって話をしていたんだ」
「悪い大人……?」
「優しい人のフリをして近付いて、相手が油断した所で襲いかかって食べてしまうんだ。ソフィも危ないから近付いてはいけないよ」
「うん、よくわからないけど分かった」
疑問符を飛ばしているソフィの手を引いてさっさと歩いていくリチャードに、反論出来ないマリクは肩を落としつつその後を追った。
シャトルでフォドラのガルディアシャフトまでやって来た一行は、廃墟のようになっているその場所に降り立って奥へと進む。
「原素に侵食されてボロボロになったんだね〜」
「この様子ですと、核までの道が残っているのかも怪しいものですね。果たして無事に辿り着けるか……」
「またリトルクイーンが大群でオレたちの邪魔をしてくるだろうしな」
「それでも行かないと。あの子たちも、きっとわたしと同じような気持ちなんだと思うの。大切なものを守りたいから、わたし達と戦おうとして……。けど、ちゃんと話せば、わたし達が敵じゃないって分かってくれる。それに、あの子たちはあんなに沢山居るのに、ひとりぼっちの顔をしてるの。その理由が知りたい……、だから、行かないと」
「……そうだね。ちゃんとお互いのことよく知った上で、お互いに納得出来る道を探さないと」
リフトを降りて地下深く潜っていくと、荒れた大地の中に次第に草が茂り始め、やがては先日見た花畑の様な緑豊かな光景に様変わりした。どこからか吹き込んでくる風が、心地よく皆の間をすり抜けていく。
「地下にこんな空間があるなんて不思議……」
「ここは生命力に溢れているな。一体どうして……」
「フォドラの核に近づいている証拠だね」
「どうしたんですか? パスカルさんらしくない顔をしてますよ」
ヒューバートの言う通り、パスカルは何やら険しい顔で周囲を見渡していた。
「ここには植物も動物も生き物が溢れてる。前に行ったお花畑もそうだったんだけどさ、ここには一つだけ、あるはずのものが無いんだよ」
「あるはずのものって……?」
「人間、でしょ」
「その通り。人が居なければ、星はこれだけ自然豊かな場所になる。ルーカスの読み通り、フォドラが人を滅ぼそうとするのはそのへんが原因なんだろうね」
「だとしたら、私達がしようとしている事って!?」
「フォドラにとっては、悪以外何者でも無いだろうね」
「……私、何だか彼女達と戦っていいのか、分からなくなってきたわ。私達がしようとしている事って正しいの?」
「確かに、気持ちのいい戦いでは無いですね……」
「でも、何もしないと皆殺される。それを止めるために、ここまで来たんじゃないの?」
「それは……」
「大丈夫だよ。アスベル達なら、きっと一番良い結果に繋げられる。半年前だってそうだったでしょ」
「ルーカスさん……」
アスベルは頷いて、俯いていた顔を上げて再び歩き出す。
「俺達はフォドラを滅ぼしたい訳じゃないんだ。フォドラに伝えたい、人は変われるんだと。千年前とは違うって事」
そんなアスベルの隣に、ソフィも並んだ。その顔に迷いはない。
「行こう、核のところまで」