Ex.舞踏会大騒動
「結婚の話、本当に本気なのかい?」一方、ルーカスがそんな面白い事になっているとは知らないリチャードは、城の客室で対面に座るマリクにそう切り出していた。
「本気も何も、こうなった経緯については先日もお話したでしょう」
「それについては本当に呆れて物も言えないよマリク。そうやって君は世の女性陣を誑かして来たんだね、ヴィクトリアも可哀想に」
「ぐっ! ――で、ですからオレは今こうして責任を取ろうとしているんです」
「それだってヴィクトリアに押し切られたようなものじゃないか、まったく。まあ、本人がそれで納得して居るのなら僕がとやかくと言う事でも無いけれど……」
リチャードはそこで言葉を切って、先よりも深刻な顔で続ける。
「僕が言いたいのは、ルーカスさんの事はそれでいいのかって話だよ」
「それは……、まあ、良くはありませんが……、もう決めた事です」
「決めたって、彼に相談もせずに一方的に招待状を送り付けただけじゃないか。不誠実にも程があるよ」
「ですが、アイツからはちゃんと出席の連絡は来ましたよ。酔った勢いで女に手を出すような男はお断りだとでも思われたんでしょう」
「例え彼がそう思っていたとしても、それは君が彼に礼儀を尽くさなくていい理由にはならない筈だよ」
「こんな事になって今更礼儀も何も無いでしょう。――とにかく、その辺りの事はあくまでもオレとルーカスが決める事です、陛下にご心配頂くような事ではありませんよ。それより、貴方にはもっと他に考えるべき事があるのでは?」
「おっと、そろそろアスベル達が到着する頃かな。それじゃあマリク、明日は楽しんで」
話題が自分に向けられるや否や、リチャードは颯爽と部屋を出て行った。それと入れ替わるようにして、ヴィクトリアが部屋に入ってくる。
「陛下の追求は躱せたかしら? ここでバレたら水の泡よ」
「分かってるさ。今のところは何とか、な」
「明日までの辛抱よ、貴方まで巻き込んで悪いとは思うけれど……」
「気にするな、オレも陛下を守りたい気持ちは同じだからな」
言いながら、マリクは数日前のやり取りを思い返す。
事の発端は、ヴィクトリアが掴んだとある情報だった。
世界が平和になったとて、バロニアでは依然として水面下で王位を巡る争いが続いている。その関係で、今度の舞踏会にリチャードの命を狙う刺客が潜り込む可能性が高いというのだ。
それを知ったヴィクトリアは、リチャードの心の平穏と身の安全の為に、彼には知らせずこっそりと敵を排除する事を選んだ。舞踏会でのマリクとの婚約発表は、それを達成する為の隠れ蓑、というのが真相だった。
「でも良かったの? 貴方、心に決めた人が居るんでしょう。せめてその人には本当の事を話しておいた方が……」
「敵を騙すなら味方から、と言うだろう。この方が真実味もある」
「それはそうかもしれないけれど……、これが原因で本当に破局しても、私は責任取れないわよ?」
「なに、アイツなら事情を説明すれば分かってくれるさ。まあ、ネタばらしの前に消し炭にされる可能性はあるんだがな……」
怒ったルーカスの術の威力を想像して、マリクは乾いた笑いを零した。味方としては頼もしいが、敵に回れば彼以上に恐ろしい者は居ない。
「何にせよ、今は作戦に集中だ」
「そうね、失敗する訳にはいかないもの」
2人は秘めたる覚悟を胸に頷き合い、潜む敵を炙り出す為に動き出した。