Ex.舞踏会大騒動

「あれ、ルーカスさんは?」

それから暫く、バロニア城内の食堂にて。
豹変したシェリアの正体がレイモンとは知らず、浴びせられた罵声に消沈してマーボーカレーをヤケ食いしていたアスベルは、先程到着したばかりの弟にそう尋ねていた。

パスカルが途中また妙な機械を取り出したので一人逃げてきたヒューバートは、シャトル酔いを水の一気飲みで抑え込んでから答える。

「まだ着いていませんか? 先に行くと言っていたんですが……寄り道でもしているんでしょうか」

「まあ、あの人なら迷うことも無いだろうから、心配は要らないか」

――と、ラント兄弟は呑気にそんな事を言っていたのだが。
当の本人はと言うと、未だバロニア城へ向かう道を歩き続けていた。

「……みゃぁ…… (疲れた……)」

平時であればもうとっくに着いている頃だが、城はまだずっと遠くにある。
ここまでの道程で、通行人に蹴り飛ばされそうになったり、他の猫に追いかけ回されたりしたルーカスは、少し休憩しようと道の端に腰を下ろした。

誰かに連れて行って貰えれば速いし楽なんだけどなぁと期待してにゃあにゃあと鳴いてみるが、心優しいバロニアの民は餌を恵んでくれるばかり。これはこれで有難いのだが、このままでは日が暮れてしまう。

(猫の姿じゃ城や宿に入っても追い出されちゃうだろうし、ソフィ達が外を彷徨いてる間に見つけ出さないと……)

そう思って再び歩き出した矢先、また人の足にぶつかってしまい、情けない鳴き声と共にルーカスは地面を転がった。飛び出してきた子猫にビックリしていた相手は、他の人に踏み潰されそうになっているルーカスを慌てて拾い上げる。

「大丈夫か?」

その声に、ルーカスは耳をピンと立てた。見れば、そこには心配そうなマリクの顔。

「蹴り飛ばして悪かった。でも、こんなに人通りが多い所を歩いていると危ないぞ」

「……みゃあ (おっさん)」

顔を見たら一発殴ってやろうと思っていたのに、いざ会うと怒りよりも久しぶりに顔を見れた事の喜びの方が勝ってしまった。

「マリク、どうしたの?」

だが、その隣に居た女性がそう発した瞬間、フワフワとしていた気持ちが一気に萎んでしまう。
ヴィクトリアと呼ばれた女性は、そんなルーカスを見て顔を綻ばせた。

「まぁ可愛い、野良かしら?」

「さあな、首輪はしていない様だが……」

名前からしてこの女性がマリクの婚約相手なのだと気づいてしまったルーカスは、立てていた耳を下げて項垂れる。

「何だか元気がないみたいだけど、お腹空いてるのかしら」

「さっきオレが蹴ってしまったからな、どこか傷めたのかもしれん」

マリクの手からヴィクトリアの手に渡ったルーカスは、怪我が無いかと調べ始める2人にされるがままになっていた。どんどん元気を無くしていくその様に、本当に具合が悪いのではと2人は焦り始める。

「参ったな、何とかしてやりたいが……動物の事は分からん」

「リチャード陛下に相談してみたらどう? 獣医の知り合いが居らっしゃるかもしれないわ」

――それにしても、綺麗な人だなぁ。マリクさんってこういう人がタイプなんだ、俺と全然違うじゃん。

二人の会話を聞き流しながら、ヴィクトリアをしげしげと眺めていたルーカスはそんな事を考えていた。
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