Ex.舞踏会大騒動
マリクの肩に乗せられたルーカスは、人間の姿で居る時よりも高い目線を新鮮に感じつつ、アスベルと共にソフィ達の姿を探す。リチャードはともかくソフィの姿を見かけた人はちらほら居るようで、聞き込みの情報を頼りに三人は東奔西走していたのだが、
「おーい! アスベルー! 教官ー!」
と名を呼ばれて立ち止まった。
見れば1軒の店の前で、ドレス姿のパスカルが大きく手を振っている。店の中から出てきたヒューバートは、「試着したまま動き回らないで下さい!」と彼女を捕まえて店内に連れ戻さんとしていた。
「何やってるんだお前ら……」
「見てわかりませんか、明日の舞踏会の為の衣装を見繕っているんですよ。なのにパスカルさんがふざけてばかり……」
「だってこういうのガラじゃないよ〜、それにヒューくんが選ぶやつ、動きにくそうなビラビラしたやつばっかりなんだもん」
「それより二人とも、ソフィを見てないか?」
「ソフィ? 見てないけど、一緒じゃないの?」
かくかくしかじかで説明したアスベルに、二人は揃って首を左右に振って、
「そう言えばさ、ルーカスもどっか行っちゃったんだよね」
と切り出した。
事情を知らないマリクに、今度はパスカルがかくかくしかじかと説明。
「まぁルーカスの場合、いつの間にか居なくなってるのはよくある事なんだけどさ、通信機に連絡しても反応がなくってね。何かトラブルにでも巻き込まれてないかなーって、流石にちょっと心配になってきて」
「にゃおん (ここに居るけど)」
「ん? ――猫だ!」
マリクの肩に乗った子猫を見て、眉を下げていたパスカルがパッと笑顔になる。
それが探し人とは知らずにわしゃわしゃと撫で回すパスカルに、ルーカスはみゃうみゃう鳴くことしか出来ない。
「どうしたんですか、それ」
「拾った」
一方、ヒューバートの問いに簡潔に答えたマリクは、ルーカスが行方不明と聞いて神妙な顔で考え込んでいた。
「……嫌になって帰っただけって事は無いのか?」
「え? なんで嫌になるの?」
「あ、いや、それは……、ほら、あいつは祭りだの舞踏会だの、人の集まる行事は嫌いだろう?」
「流石にそんな理由ですっぽかす事は無いと思いますが……」
「仮にそうだとしても、通信すら無視ってことはルーカスはしないよ〜」
「そもそも、それなら招待状が来た時点で欠席と返すのでは無いでしょうか」
「みゃう (その通り) みゃあみゃあ (でも出席に丸つけたのは父さんだよ) にゃーにゃ (俺は来たくなかったのに) みゃうん (そのせいでこんな事に)」
「ん? なになに? 遊んで欲しいって?」
全然違う。
どこからともなくカニ型ロボットを取り出すパスカルを、ヒューバートが「それはもういいですから!」と疲れた顔で止めた。
と、そこへリチャードを探し回っていたヴィクトリアがやって来る。
「あら、結局あなたも来たのねマリク。子猫ちゃんは大丈夫?」
「ああ、もうすっかり元気だ。陛下は見つかったか?」
「それが全然。港の方まで行ってはみたんだけど、目撃証言すら無くて……、代わりにこんな物を渡されたわ」
そう言って、全く興味無さげに取り出したのはW術用の杖だった。ヴィクトリア以外の皆はすぐにそれがルーカスのものだと気付く。
「それが港にあったんですか?」
「ええ、船着場の隅に落ちていたそうよ。舞踏会に来た誰かの落し物かもしれないから、城に行くなら持って行ってくれって押し付けられちゃって……」
「にゃー (俺のだよ) みゃうみゃう (拾ってくれて有難う)」
ルーカスがマリクの肩から降りて杖に飛び付くと、遊んでいると思われたのかヴィクトリアに諌められ、マリクに首根っこを掴まれた。
「こら、じっとしてろ。――ヴィクトリア、その近くに黒髪の青年は居なかったか? ルーカスという名前で、その杖の持ち主なんだが」
「みー (だからここだって)」
「居なかったと思うけれど……、とりあえず貴方達の知り合いの物なら、預けても構わないかしら」
「ん、ならあたしが持っておくよ」
愛用の杖がパスカルの手に渡るのを見て、ルーカスはしょんぼりとしながらマリクの肩の上に戻される。
「ヴィクトリア教官、ソフィは見ませんでしたか?」
「ソフィって、貴方達とよく一緒に居るお嬢さんよね? 今日は見ていないけれど、その子も居ないの?」
「はい。もし見かけたら城に来るように伝えて頂けますか?」
「わかったわ。その代わりと言ってはなんだけれど、陛下を見つけたら同じように言っておいて頂戴。私はもう少しこの辺りを探してみるわね」
そう言って、ヴィクトリアは再び人混みの中へと消えていった。
残された面々は深刻な様子で杖を見つめる。
「ルーカスがうっかりで杖落としていったとは考えにくいよ、やっぱり何かあったんだ」
「みぅみぅ (猫になったんだよ)」
「港で見つかったというのもよく分かりませんね。城に向かうのなら港の方へは行かない筈なんですが……船で来た訳でもありませんし」
「みゃおん (帰ろうとしたんだよ)」
「……まさか」
「? マリク教官、何か心当たりがあるんですか?」
アスベルの問いに、マリクは難しい顔で沈黙する。
皆は首を傾げつつも、今は考えるより行動した方がいいと結論付けて、ソフィ達を探しに街中へ散らばった。