(中2)

2年に上がって、ぐんと背が伸びた及川は本格的にモテるようになった。新しく入ってきた1年生は及川を見るなり目をピンク色のハートにして騒ぎ立てたし、クラスメートたちも明らかな態度には出さないものの、及川の前では無意識なのか意識的になのかいつもより高い声で話しているのがわかった。
及川は及川で、黄色い声援に笑顔で応えることにもう慣れているようだ。

私はというと、及川の周りに女の子達が集まるようになればなるほど、それに反比例するかのように近づけなくなっていく。不思議。ただの友達なのに、誰に何を遠慮しているのでしょう。いや、遠慮じゃないな。私が及川の隣に立てないんだ。

あの試合を見て、泣きたい気持ちになったのは気のせいなんかじゃない。
私は、それをなかったことにした。及川に対してそれまで抱いていたはずの気持ちをそのまま無理やり固めて、私のふにゃふにゃに溶けた心に押し込めた。でもそのまま過ごせるほど器用じゃない。
きっとあいつの目を見たら、私の心臓なんてきっとすぐにまた溶かされてしまうんだ。そうなったら今度こそ、私は深すぎる沼に胸まで浸かってきっと出られなくなるだろう。
怖かった。

及川とは話さなくなっていた。



7月。
及川に彼女ができたと噂がまわってきた。クラスには泣いてる女子もいた。


学年一番美女といわれている女の子だった。ゆるやかにウェーブさせた栗色の長い髪が歩くたびにふわっと揺れて、すれ違う男子を戸惑わせていた。背も高くて、及川と並んだらきっと絵になるんだろう。そういうのを、周りはお似合いっていうのだろう。

トイレですれ違った。友達との会話が聞こえる。

「徹くん、部活、すっごい忙しいみたい。全然かまってもらえないよ」
困ったように笑う彼女はやっぱりすごく可愛かった。

「てか深澤、たまにはあいつのことかまってやってくれない?」
「あいつって……及川?」
「俺が深澤と話してるといじけんだよ」
「???」
「まぁ、いつでもいいからさ。頼むわ」

そう言うと身をひるがえして行ってしまった。
及川がいじける?私と岩泉が話すと?なんで?
岩泉がぽんと置いていったまるで謎々みたいなそれは、ヒントも何もなく私にはつかめない。もしかして及川、まだ私が岩泉に報われない片思いをしていると思って呆れてるのかな。うわ、それ、すごーくいやだな。及川にはあんなに可愛い彼女までできているというのに、私は小学校からの片思いを引きずってるように見えてるだなんて。負け犬根性丸出しじゃないか。

構ってくれない、と寂しそうにしていた彼女を思い出して、私に構われる暇があったら彼女大事にしろよコノヤローとパンチを喰らわせたくなった。
ばか。及川のばか。
絶対に構ってなんてやらない。



僕等の世界は逆さまに廻る
170911