このほの40話あとがき

懐古回遊録、この辺で折り返しです。

其処彼処で垣間見えていた鷹の人の影を、やっと追い始めるこの篇。彼に縁りある人たちに話を聴いて回り、語り部は古き記録を懐かしみます。

筆者は言葉遊びをするのが癖であり趣味なのですが、我ながらやりすぎた気がしています。推敲して何処か削ろうか迷いました。迷った末に全部そのままにしてあります。こんな文体がお口に合うかどうか……お気に召しましたら幸いです。

さて、漸く登壇した逆藤公彦。彼は見坊さんと同じくらい最初期に生みだした古株なオリジナルキャラクターでして、第二章で暴れてくれる予定です。今のところは顔見せ程度で失礼します。
でもこれはハッキリ喋っておいてしまいましょう。過去拍手ログseason3の伊江村さんの話に出てきたくせに出てこなかった『匿名希望』はコイツです。改めてseason2の5月分と外伝一の2話も併せてどうぞ。そっちでも話題に上っただけで本人不在ですが。

途中々々にあらわれた“追想”はお楽しみいただけましたでしょうか。別窓で開く黒背景のお話は全て「番外編ではなく本編に組み込まれた外伝」というややこしい位置にあります。外伝零『彼玄、猛る黒燿』(かのくろ、たけるこくよう)、略して『かのくろ』です。可愛がってやってください。
時系列が前後しているので、再読しないとなかなか難解かもしれません。もしご入用でしたら以前にもご紹介した年表ページをご活用ください。

懐古回遊録はこれまでのお話とは一風変わって、主人公さんは派手な戦闘・アクションはこなしていません。代わりに皆さん心の中が大変なことになっています。しっちゃかめっちゃか、台風にでも掻き乱されたかのようです。
特に浮竹隊長と京楽隊長のお二人は、死んだと思っていた友に対する何百年物の色んな情が底なしに湧いて出てきました。人の心に光も影ものこしていって、ひどい置き土産があったものです。やつめ悪禽ですね。暢気にザエルアポロの研究室でぷかぷかしちゃって。
お二人がそれぞれ中心となった回は、執筆中に私の方が恥ずかしくなってきてしまい、何度かを折りそうになってに埋まりたくてみそうになりました(そんなんだから懐古回遊録前半だけで一年半とか掛けたんだ)。
ですがこれ、作中のお二人の感情が大きいことは間違いありませんが、筆者がお二人に抱く感情がデカいせいもあります。とりわけ原作616・644〜653話と小説『Can't Fear Your Own World』(以下『CFYOW』)が長らく心臓を鷲摑んで放してくれません。霊王と浮竹隊長、京楽隊長と兄夫婦、そして青少年時代の時灘について触れられる箇所は僅かですが、そこからめいっぱい丁寧に妄想してみました。その結果が……これまでに追想をお読みいただいた通りです。

浮竹青年と京楽青年を窮地に追いやった虚(?)は、実はアヨンに近い何か……もしかすると前身かも?という存在として描きました。牛頭天王の要素も少し入れたつもりです。
牛なのに嘶きを上げている(普通上げるなら馬)のは、原作21巻で一護が倒した“牛かポークか分からない虚”に因んだ、分かりにくいお遊びです。

人の「一面を知る」という言葉があるくらいですから、人とは「多面である」と考えます。同一人物に対しても、見る人が変われば見え方も変わると思うのです。
天鷹は、海燕さんからすると実家に帰ってこない謎多き親戚。一心さんからすると優しくて恰好良い隊長かつ尊敬する師匠。浮竹隊長からは、彼をよく星に喩えていることからも分かるように、綺麗に輝いて見えていました。追いに追って漸くつかまえた自慢の友です。京楽隊長からは、おっかない死にたがり、希死念慮の怪物。しかし同時に、貴族という枠組みから浮いた者同士。……作中では思春期真っ只中だったせいでこれでもか!というほど拗らせていましたが、要は素直になれなかっただけで、強い仲間意識を抱いていたのでした。

タイトルが『無辜の血眼』のお話群について。

『CFYOW』の台詞や描写をたくさんオマージュして入れてみたので、読み込んでいらっしゃる方ほど部分々々に既視感がおありだったことでしょう。
『CFYOW』が一巻までしか発行されていなかった当時は、ここまで長大に春水少年を綴ることになろうとは思いもしませんでした。天鷹との過去なら設定を固めていましたが、春水少年にうまく酷い事を語ってやれる第三者がいないと思っていたからです。ただのモブから噂を聞くだけでは面白味がないし、裏設定ってことでいいかな、と。それが二巻三巻も合わせて読めば読むほど、時灘はそこに何ともピタリと当て嵌まる存在ではありませんか。
“厄”の天鷹に“悪”の時灘、“純”の浮竹、その三つのどれにも染まりうる京楽。ここまで役者が揃ったのなら、書いてみようと思えました。

因みに嘗て、ブログのここここで『CFYOW』の感想を放出しておりました。完現術者になる条件に自信がなかったり、ウルルとジン太について情報が古かったりする、三年ちょっと前の管理人がいます。ご自由にお覗きください。
……ここで言う事でもありませんが、久保先生のファンクラブ二年目も継続して会員やってます。Q&Aが情報の宝庫すぎる。


それでは、恒例になりつつある各話タイトル解説をしてみます。更に今回はキーワードとして話の軸に据えた言葉もあったりするので、それも「鍵」としてメモしておきます。


『星になりせば』
どこからこの響きを持ってきたかと言うと、小野小町の短歌から。『夢と知りせば覚めざらましを』……国語の授業で初めて出会ったときから大好きな下の句です。
清之介「死んで星に?……ばかばかしい。死んでしまったら僕が治せなくなるだろう」
鍵:傷痕

『邪霊か清神か性の蝕』
『ホツマツタヱ』という古い文献があります。よく偽書といわれ、日本の歴史・神話・文学の世界でも扱いに困る代物です。ここで個人的に真偽についてどうこう言うことはしません。「さかみ」も「しむ」も「むし」も、その文献から引用しています。邪か清か、霊か神か、ホントかウソか?とにかく謎、という感じ。
過去拍手ログseason3の浦原さんの話にて、現世に逃亡した彼が主人公さんの屋敷の屋根を借りていることが先行して明らかになっていました。
鍵:神出鬼没

『止め柝の打たるる前の廉』
「止め柝」は拍子木のこと。お芝居の「はじまりはじまり〜」の時に打ち鳴らすあの楽器です。それが打たれる前、つまり開幕前。1話と2話のタイトル「暗転」「明転」にも係って、それより昔の話という意味を込めています。バッター一番、卯ノ花隊長!
「廉」はワケとかコトとだいたい同じと思って頂ければ。
鍵:神隠し

『死なず此土より生まれ尸童』
「尸童」は神降ろしの依り代となる子供の意。訳すと「まだ死んでないのに現世から尸魂界に来て生まれた主人公」。そのまんま其の一。

『自傷自罰は朦先からよ』
「もう先」は「だいぶ前」・「ずっと以前」という意味の古い言い方です。「朦」の漢字は私が勝手にあてました。「おぼろ」とも読み、字義が「もう先」の意味とも合致するなと思ったので。
「もうせんからよ」はただの駄洒落です。「ずっと前からだよ」と同時に「もうしないから」と、浮竹隊長が。……ホントか〜?
鍵:無邪気

『何が邪魔なものか』
これも駄洒落……いえ、掛詞といってくださってもいいのですよ。「いったい何が俺たちの邪魔をしてるんだ?」という疑問をもちながら「あんたは邪魔なんかじゃない!」と庇いたててくれています。海燕さんが。

『眩しく語らふ天の鷹』
浮竹隊長にとって眩しい思い出の話。また彼にとって、語った相手――主人公さんと海燕さんは、とても眩しかったのです。
この話の後にseason2の浮竹隊長の話をお読みになると以前とはまた違った印象を受けられるかも。
鍵:百色眼鏡

『被鷹視狼戻懐鷹揚』
「鷹視狼歩」は悪い意味。「鷹のように鋭い目つき、狼のように欲深い歩き方」。それはそれは怖くて近寄りがたい、残忍で凶悪な人のことをいう。「歩」は「戻」にすり替えました。「狼戻」は「道理に悖る」。
「鷹揚」は良い意味。鷹がゆったりと空を飛ぶように「おおらか且つ威厳がある」とか「小さいことに拘らない」といった誉め言葉。
浮竹隊長がしてくれた「被褐懐玉」の説明になぞらえると――外聞は鷹視狼戻、真相は鷹揚、といったところ。浮竹隊長からみた志波天鷹は、そういうやつなんだそう。

『一死七生に友を獲た』
どっからどうみても30話『十死一生に師父を見た』とセット。
「一死七生」は「一度死んで、七度生まれ変わる」。命が循環する世界で、誰が何回輪廻転生しているのやら。「得た」じゃないのはわざとです。山本総隊長と鷹狩りして獲たので。

『一色懺悔』
只々、喪に服して黒く。
「いっしき」には華道用語として「一種類のみの植物を生ける」という意味もあります。

『相対火傷みたいな夜来』
「会いたいが情 見たいが病」の捩り。捩り元の意味は「恋をすると会いたい気持ちは抑えが利かない」みたいなこと。でもこの主人公さんと一心さんは現時点“”までいってません。お互いウブなもんで「なんかアッチィな」「なんだろうな」と照れてるだけです。ヤケドしそうな夜。
カンカンカン!火が出たぞ!逃げろ!
鍵:火

『愛し撫子弟子の師の子』
語呂優先。「撫子」は「花」であり「こども」。弟子(一心)の師(天鷹)の子(主人公)。そのまんま其の二。
因みに一心さんがお昼寝していた丘は過去拍手ログseason2の勇音さんの話で主人公さんが寝ていた場所と一緒です。

『暗かに騙りて夜の鷹』
あからさまに38話の対。京楽隊長は主人公さんと一心さんを半ば騙す形で、秘密を共有させたのでした。もう一蓮托生。
過去拍手ログseason2の京楽隊長の話は、この日(6月11日)の午前中の話です。
鍵:心中(こころのなか・みなげ)、笠

『無辜の血眼』群
イメージソングとのリンク具合が私史上最高峰。宜しければ是非とも聴いていただきたい。ご興味を持ってくださるお優しい方がもしいらっしゃいましたら、年表ページからご確認くださいませ。

『花嵐』……桜吹雪のこと。実は血塗れな雰囲気のとこだけ「羆嵐」も意識した。
鍵:無名

『穢流』……ケガレを流す意の造語。「穢」は「アイ」と読むので「哀」も連想しながら。
鍵:紫陽花の花言葉

『螢惑』……「熒惑」は火星の異称。災いの前兆のこともいう。「ホタル」が登場するので「螢」に勝手に変えた。「ケイコク」と読むのをいいことに実は「警告」とも掛けた。
鍵:黒い焔

『神解』……霹靂・落雷のこと。赤い青年が帰って来たことは春水青年にとって「青天の霹靂」でした。そして「神がかった推理で失われた記憶の謎を解いた」という内容とも係っています。
実はどこかに『SAMURAI7』リスペクト成分を判りづらく隠しておいた。
鍵:白い糸

『泡影』……泡と影、儚いものの例え。どちらも手で摑めない、捕まえておけない。だけど逃げるものって捕まえたくなる。
鍵:有情


……ここまでスクロールしてこられた貴方様は、きっと前回のあとがきでも最後までお付き合いくださっていたことでしょう。『このほの』を隅々まで読んでくださって、本当にありがとうございます。

懐古回遊録後半でも、昔話を沢山きいて回って参りましょう。
それではごきげんよう、フェイスアゲイン!

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BLEACH 2022/02/10
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