常--幻想

作文その二。

その一

しっかし【ホームズ】の“推理”は予想してても辛かった。

更にエリア51で“応報”を見せられたとき、私の情緒は瞬く間に『堅く、柔らかく、気温差に耐え、鋭い』ものに上書きされて恐慌状態に陥りました(ORTのこと全然理解できてないのになんか言ってみた)。そもそもFGO世界ってクトゥルフ由来の領域外の生命とか白き巨人とか十二機神とか、とんでくるものがとんでもなさすぎんか。混沌、狂騒、錯落、撹乱てんこ盛りって感じ。マリスビリーの真意は何処に、オルガマリーの心気や如何に。
三界域とカルデアが共に演じきった劇の内容はさんざん良い様に捉えて称賛してきましたが、緞帳が下りて迫も降りたその舞台裏、地の底にあった舞台機構を目にしてしまったなら、もう浮かれてはいられませんね。急転直下?いいえ、お先真っ暗、真っ逆さま!人間が造った地獄へようこそ!(?)

???「諸君には最初から提示されていたではないか。XX17年のこの土地は、この異聞帯のような特異点は、“死想顕現界域”なのだと。静聴せよ汎人類史、これは傲慢への怒りと愚昧への裁き、夢の顕現にみせかけたこの世の終わり。人が人を言祝ぐために編んだ物語ではなく、人のようだったものが人を呪い殺すために産んだ舞台である。怨嗟と憎悪が織り成した血染めのテクスチャ、悲嘆と疑問が弾き出した殺人計画シミュレーション。叛逆を植え付けられた駒が勝手に自滅していく過程は、汎人類史からすればいい見世物だったかな?いやはや、こちらからすれば些か誤算だった。次はもっとうまく演算してみせよう。諸君が犯した罪を自覚し、死んで詫びてくれるまで何度だって繰り返されるだろう。さあ、どうかありもしない答えに辿り着いてくれ給え。私は今日も100年先で、諸君のそばに在るとも」

は、は〜?誰だお前!?

いえね、なんかいま私の頭の中に勝手に出てきたんですよ。書いてる本人もシナリオへの理解がまだまだ抽象的なので、うまく人に説明するのは夢のまた夢なんですごめんなさい。でもこれ、後々謎が明かされたときに答え合わせしたら何箇所かは正解に引っ掛かってくれそうな気がしないでもないでもないでもn……。なんでもない。
弊デアに太公望いないんですよね。チート仙術で敵の思考に釣り糸垂らしてうまいことガッチャ!してさっさと教えてくれませんか?ん〜?「名探偵殿の帰還を待ちましょう」?それはまぁ全裸待機も辞さな……ローランは引っ込んでておK。

ええ、ホームズに聖杯を捧げているマスターの心頭はたいへんなことになっています。

やれ「胡散臭い」とか「原典ホームズからかけ離れすぎ」「FGOライターは原典熟読して出直して」とか「FGOのホームズはホームズじゃない」とか。リアルでもネットでもFGOホームズに対する辛辣なご意見を何年も見聞きしてきたことよ。まぁそれと同じくらい「FGOホームズ好きだよ」って人の呟きや作品を拝むこともしてきましたが。世の同士さま、ありがとうございます。助かります。
今までFGO本編についての記事をサイトに残してこなかったので「後出しなら何とでも言える」と思われても仕方ないのですが。が。ホームズの召喚者、はぁ、嗚呼。ズドンと的中どまんなか・ド・マンナカよ〜くどまんなかでしたありがとうございましたいやありがたくはねえんだわありがたくありませんどしたでし。

もちつけ。

若モリが「ホームズ先輩」呼びした瞬間ハッとした。劇的ライヘンバッハのシーンを待たずに第3節のうちに理解した。だって彼の言う「先輩」って「僕の先達」ってことでしょう。私の頭の中で「ホームズの召喚者は誰か?」という謎のパズルはこの時点まだ完成こそしていなかったけれど、6.5章やる前からほぼほぼ組み上がっていたんだ。そこに初っ端から不穏な独白をぶち込まれた挙句とうとう「特殊警告だから異星関連の使徒だ!」で若モリが姿を現したから(これも一目で若教授じゃんと絵柄で把握した)ア゛ーッ約束された焦土の展開、ホームズ粛清のお遣い来ちゃッ――?

ホム「もう一度聞こう。何が目的だ、ジェームズ・モリアーティ」

若森「裏切り者の粛清と言ったら、君はどうするかな?」

カチリ。パズル完成でーすおめでとうございまーsじゃない嫌だ嫌だいかないででも宿命の対決はやっぱり見たいよねやらない手はないよね実をいうと私の初星5鯖は新茶だったしレベル100にもしてるようわーどうせこいつらライヘンバッハるんだそしてその時が来ると分かっていてもどっちが沈むにしても私は泣くことになるんだな〜?目からライヘンバッハ )))) ……ってなりましたよ一瞬で。もうべちゃべちゃ。ところが

カド「どうもこうも、光栄だね。それから『異星の神』の狭量さをせいぜい笑ってやるさ」

って返してたから「あれ?今のカドックくんに向けて言ったんですか?」と暫く呆ける醜態を晒しました。早とちりしたかしらと。でもこれは思い返してもミスリードですよね。異星の神からの“粛清”の対象になるとしたら叛逆した元クリプターだと誤認させにかかっている。間髪入れずに

カド「どうせ違うんだろ」

若森「もちろん、違うとも。『異星の神』は、君に何ら関心はない」

と続くから、深く考えずに素直に解釈すれば「若モリは他愛のない冗談かましただけか」と読める会話になっている。その実、冗談という訳でもなかった。カドックくんが早とちりして噛みついてきたから合わせただけで、「粛清」は「ホームズ先輩」に向けて言ってますよね。もっと深読みするとカドック以外のカルデアの皆に言ってるつもりなのかな……。

FGO二周年でホームズが実装された当時、ちょっと話題になってたんですよね。デザイン担当があのきのこ先生から人外描かせたらピカイチ!みたいな最高評価と絶対的信頼を寄せられていらっしゃる“魔人柱の人”である山中虎鉄先生だったので、「ホームズもそのうち敵ボスになりそう」とか「ビースト確定」とか「ゲーティアがソロモン被ってたんだからまた別物がホームズ被ってんじゃないか」って。
あと星属性持ちなのも様々な憶測をよびました。ビースト担当絵師ともいえる山中氏の鯖なのに獣と対を成す“星”なんですね?と。他にその属性であるサーヴァント達と肩並べるくらい「星に貢献した功績がある」としたら何だろうって考えていた時期が私にもありました。魔人柱と因縁があったけど打ち破ってみせたアマデウスが星属性なんだから、ホームズもヤバイ人類の敵と因縁があって逆らってるんじゃないかっていう予想は……概ね……はい。

更にそれから凡そ5ヶ月後、『禁忌降臨庭園 セイレム』公開後にFGO初のクラス・フォーリナー、アビゲイル・ウィリアムズちゃんが実装されました。このときもまたホームズがトレンドになりました。フォーリナーのクラスカードの絵柄にあるヒラヒラが、第三再臨のホームズの姿にそっくりだったからです。「ホームズの中身も実はフォーリナー?」やら「やっぱり信用ならんってことか」やら。これらの騒ぎも、今となってみればFGOのシナリオとデザイン双方の魅せ方がうめぇんだなと膝を叩くばかりですね。設定がしっかりしてるゲームは楽しいや。
ホームズはクラス・フォーリナーではないけど、異星の神の使徒だった。ホームズ以外の使徒の倣いを顧みれば、彼もスルトに看破された通り“混ざり物”で間違いないでしょう。う〜ん、ホームズには何の神様成分が混ぜられてたんだろ。三臨が示唆するようにクトゥルフ由来なのかな。それとも“創作者”を架空の世界における“神”と見立てて、外にある高次な何者かとリンクしてる?もしくはシゲルソンという人にホームズという謎解きに纏わる創作神性が混ざった、とかいう逆アプローチ?う〜わからん、謎のホームズビームと宝具の謎球体ちゃんには私もずっとお世話になってきたので、是非お名前をお聞きしたく。

そうそう、ホームズがカドックくんと「ウオオオオオオ!!」してたシーンが嫌いな人はそういらっしゃらないと思っています。すっごいレアなボイス生で聞いてみたかったですね。ゴッフ羨ましい。ネモが録音したらしいのでリアルイベント会場の特別ムービーとかで聞けるかもね。
もしも、もしもですよ。ホームズの戦闘ボイスに或る日突然レアボイスが追加されてEXアタック時に溌溂と「ホームズ光線!」「正義ビーム!」とかノリノリでやりだしたら腹筋が死ぬ自信があります。若モリは後ろで顔真っ赤にしてればいいと思うよ。
あと(少し迷った末、ドン・キホーテの頭を押さえる)のシーンも凄く好きです。想像するだけで両者かわいい。かわいいかわいい(ここでハ〇ーキティさんが歌う『KAWAII FESTIVAL』のAメロを流そう)。

FGOの結末に向けた重要な“点”はきのこ先生によって予め決め打ちされているはずですから、瞭然ではないにしろ展望を見据えたうえで各所に伏線が撒かれてきました。ホームズに纏わるそれらは訥々と――キャメロットで、新宿で、体験クエで、北欧で、オリュンポスで、幕間で、CMやPVのナレーションで――って、改めて挙げてみると有りすぎるんだわ。最初っからFGOの根幹にはホームズが大事に大事に置かれていたんだな。アトラス院にも彷徨海にも飛び込むしメインヒロインマシュがファンだし、遅くともカルデアの経営顧問になった時点で根幹でない可能性の方があるワケないって気付くべきだった。
ホームズ、体験クエストでも幕間でも「敢えて見落とす」「証明しない」をさんざんやってたなぁコレ。

6.5章トラオムクリア後の演出を覚えていらっしゃいますか。とても不穏で印象的でしたよね。「証明完了」から「証明不能」になりましたよね。

プレイヤーである我々は、特異点にいたサーヴァントたちの生きざま死にざまを知ることができたし、覚えている。カルデア一行が聞いていない会話も聞けた。地の文のおかげで彼らの秘めた葛藤や決意もある程度読み取れた。
But,
マスター及びカルデア一行は、彼らが何を想ってどのように消えたのか知らない、或いは消えたことすら覚えていない――そんなことが多々あった。観測できないことは記録もされず、顧みられることはない。

サロメがちっぽけな愛情のために狂気を振り払い、健気に耐えきって消えたとは与り知らない。コンスタンティノスが復権界域を興すに至った動機と過程、滅ぶに至った契機と感情も風聞でしか知らない。アストルフォのおかげで脅威の射撃が止んだという認識はできても、敵がロボ源氏武者為朝だったことも、勇敢に相討って讃えあったことも伝わっていない。月光大砲に対するは月に行くと理性が戻るアストルフォ!という見逃せないベストバウトだったのに。ローランは何よりも仲間たちに勇姿を示したかったのに、全ての者の記憶からも、全ての物の記録からも消えて、扉が開いたという結果だけが残った。
消息不明。あやふやで曖昧で、わからないことばかり。スマブラマルスばりに「見ていてくれ!」とアピールして誰かの目にとまることは無かった。カルデアはカッコよくてステキな場面ばかり見逃している。
一応ちゃんとお別れを言えたサーヴァントたちでさえ、揃って「物語から生まれた」「空想を拠り所にした」という歴史には存在していなかったであろう英雄で、幻想という側面が強い。特異点が消えた今、彼らがいたという事実も世界から消えたようなもの。
そして、これまでカルデアの頭脳として数々の謎を推理し解き明かしてくれた名探偵を喪ってしまった。彼の導き出した答えの全貌を聞くことも叶わず、真相は葬られてしまった。これは私たちにとって、謎の答えを見失ったに等しい。
だが答えは失われても、物語ゆめだけは失われない。跡も形もなくなっても。ゆめみたいでも。覚めたら忘れてしまっていたとしても。

――未来永劫、証明不能であったとしても。

6.5章、見事なまでにテーマが終始一貫していましたね(頑固一徹と言ってもいいかも)。“証明不能”、これに尽きます。証明不能であることばかりを強調して繰り返していたシナリオでした。明確な答えはありません、というのが答えなのだと言わんばかり。夢や幻想トラオムは神秘であるべきで、無粋に暴いてはならないから、読者にもあらゆる謎の解を一つに絞らせてやらないぞ!という意気すら感じました。色んな解釈の余地を残さなければ夢がないだろう?って。
ここまでテーマに忠実でありつづけたライター陣のチャレンジ精神を称賛したいと思います。私には怖くてなかなか真似できません。だって、読者のシナリオ解釈がまさに「人それぞれ」になって、異なる感想と食い違う考察のぶつけ合いで論争が起きますよこんなの。中傷でさえなければ大いに批判も称賛もして考察で盛り上げてくれってスタンスなのでしょう。
ライターさんとしては敢えて濁した部分や暈した箇所が沢山あったのだろうと思います。6.5章発表時の公式紹介文では「マスターは誰なのか。――その謎を、暴くことなかれ」と忠告し、プロローグでは「完璧な人間とは」という話題のなかで「完璧であるために敢えて見落とす」ことを丁寧に推奨してくる周到さです。更に、ここは“夢”なんだから曖昧で当然なのさという主張が見え隠れしているだけでなく、6.5章は7章に向けての前座なんですと徹底して割り切っている感じもするというかなんというか。しかし、私含め大衆とは大抵「明かしたがるもの」であります(主語がデカくてすまない)。それなのに万人に解を求めさせない、不明瞭を是とする、異色で独特すぎるシナリオをバーンと出してくる勇気……凄いな。我らユーザーの読解力と堪え性を過信してませんか?ってちょっと心配になるくらい。要所要所、各登場人物の見せ場では感動もしたし共感もできたけど、それはそれとして6.5章は全体的に理解難易度が高くありませんかね。文体や口調はけっこう砕けてるのに。「おさらばです」、流行ってんのかな。スキル「仮説推論A+」を保持していた我らが名探偵が「明かす者」になった途端に答えを言わせずライヘンバッハらせるって、教えない気満々じゃないですか。チクショー運営さんの思惑通り、一ユーザーである私はまんまと思考の海にダイビングさせられましたよ。ホームズ一緒に夏イベ行こうぜ。登山(英霊旅装参照)の次はダイビングさ。
6.5章の終節は、二人のマスターが検体Eを目の当たりにして、そこでプツリ。非常に気になる終わり方です。さて続きは7章冒頭または間章を乞うご期待!……となるかなぁ?嫌な予感がします。まるで無かったことにされたりしない?カルデアとの通信が途切れた後、通路の先で見たモノについて、二人のマスターはちゃんと覚えたまま帰路につけたのでしょうか。心配。誰か、心配し過ぎだと笑い飛ばしてくれ。あぁでも、アレは見なかったことにして突き進んだ方が汎人類史のためになるという事もあるかも。
このさき本編で主軸となる謎までは絶対にぶん投げたままにしないでしょうけど、しばらくは……アー……おそらく半年はこのまま、謎は謎のままにされるんだと思うとンンン〜〜ッてなる。リディクールキャットになっちゃう。興味を引いて関心を持たせるのがうまいんだなぁ。このこの。

片や畏れながら、中にはもう永遠に明確な答えが得られない謎もありそうで戦々恐々としています。ホームズ体験クエストで彼は既に危惧していたではありませんか。英霊はみな過去に実在していた神や人間なのか、それとも、創られた物語から出てきた架空の存在なのか――

「人が知る必要はないのさ。知ってはいけない」

トラオムでカルデアのマスターがホームズのことを「正義の人だよ」っていうくだりについては幕間とトラオムの第21節『或る名探偵の死』を合わせて読めば他に言う事ないので割愛します。問題は体験クエストだ。今になって読み返すとがっつりトラオムとリンクしてるじゃないですか。言いたい事いっぱい出てきて困る。
ホームズの台詞を引用していきます。コメントを挟むことも許して。

「これから見るモノは未来の記憶とでも考えたまえ。あるいは夢だと思っても構わないが、残念ながら私は夢に介入する能力などは持ち合わせず、つまり、これは、夢ではない」

反対に、トラオム若モリは夢に介入する能力を持ち合わせていましたね。「驚くことはない。私にはそういう力がある」「運命的な出会い、くらいに思ってくれたまえ」「『異星の神』でも、さすがに夢は認識できない。そして私には神霊の力がある」って言ってました。運命の三女神、便利。

SF空想科学で言うところの電脳空間のようなものだ。仮想現実という意味ではシミュレーターと大差ないが、バベッジ卿の組み上げたプログラムによって何と!我々は今、カルデアのシステム内部に入り込んでいる!」

トラオムっておんなじことしてない?

「前にキャスターと言ったね、うん。あれは嘘だ」
「正式にカルデアのサーヴァントとなった際、私の霊基は変化したのさ。自分でも驚く程度に著しくね」
「かつての私は間違いなくキャスターであったが、今の私はルーラー・シャーロック・ホームズという訳だ」
「実に奇妙な事態になってしまったものだよ。探偵は真実を明らかにするものであり、見つける者だ。裁定を下すのは判事なり陪審なりの仕事だろうに、やれやれ」

ホームズって正確にはいつ自分の記憶を封印したんだろう?単純にイコール霊基が変化したときなんだろうか。『悪性隔絶魔境 新宿』もよく読み返さないといけないな。読み返す前に言うからこれは当てずっぽうになるけど、ひょっとして新茶が自分の記憶を封印して中々うまいことやったのを見てから「真似しよ」ってなった?「教授にやれるのなら私にもやれないことはないだろう」とか思いました?対抗心バリバリじゃん。宿敵かな?宿敵だわ。
二人とも自分で自分の記憶を封印して行動していたけど、それぞれ新宿とトラオムの最後で「楽しかった」から計算が狂って予定外の方に傾いてしまったと供述するんだよね。リフレインが完璧すぎる。美しい。それにどちらの特異点も“幻霊”がキーワードだ。

「私ばかりを架空の存在と思うのは筋が違う。記録ではない伝説や物語というのは――多くの場合、人が・・生み・・出した・・・お話であるはずだろう?」

トラオムじゃん。トラオムにいた英霊殆ど皆そうだけど、トラオムで編まれた物語そのもののことも指しそう。あそこで起きた全ては『人が生み出したお話』だと。

「戦闘シミュレーター専用のメインフレーム、そのメモリ内部に蓄積されていったダストデータ。〇〇君たちが勝利するたびに発生するモノさ」

汎人類史が勝利するたびに何か良くないモノでも発生してます?

「訓練終了時の自動リセットによって消去されるはずだったが、レジストリ内部にでも欠片が残っていたか」

消去しておかないといけなかったデータがどこかに残ってましたかね。ラプラス、カルデアス、トリスメギストスのメンテナンスは十分かな?
突然ですが、カルデアスからみた近未来観測レンズ・シバって、地球を覆ってた異聞帯始皇帝の長城みたいですよね。現実世界の中の仮想空間の中の仮想世界からすると現実世界ってダイソン球……おっと。

「ああ。敗北に際して、NPC達が抱く『怒り』だよ」
「もちろんNPCは人工生命という訳ではないし感情も人格も存在しないが、それでも、思考と知能はある」
「彼ら数多のNPCは、敗北のたびにソレを抱いていた訳だ。怒りを。密かにね」
「本来は怒りなどと呼ぶべきではないし、そんなモノは発生し得ない。勝つために行動する自分達であるのに勝てなかった、という事実への認識以外はないはずなんだ。NPCにはね」
「その認識を、怒りという感情に変えてしまったものがいる。それが今回の真犯人だ」

やっぱりまんまトラオムでは。
で、システム内部にレイシフトしたホームズとマスターは、暴走する攻撃的なデータを見つける。

???「データの中で延々と繰り返し倒され続ける、無念!戦闘シミュレーターなんぞ二度と誰にも使わせるものか!ことあるごとにコキ使いおって……!死ねカルデア、死ねサーヴァント、死ねマスター!!」

“死想”ってやつですか???

???「そもそもどうしてシミュレーター戦闘で素材が落ちる!?」

ご尤も。ソレはアレじゃないですか、電脳空間という仮想と現実の境界線があやふやになってるってやつ。高性能なシミュレーターやロボットが人類に叛逆するというのは映画なんかでも王道だよね。
そしてデータをバリツでボコったホームズは――

「これでひとます事態は解決だ」
「だが忘れないでほしい。彼らはキミ達を鍛えるために日夜戦い続けてくれるし、二度と、無念も怒りも覚えたりはしないだろうが……。人格も命もないデータである彼らもまた、広い視野で見れば共に人理のために戦うカルデアの一員」
「戦闘シミュレーションを行う時には、それを心のどこかに留めておくと良いかもしれないね」

Q.カルデアの戦闘シミュレーションのダストデータに『怒り』を教えた犯人は誰だったんですか?

A.新茶でした。SE.RA.PHの残存データっぽいのを見付けて、何やかや出来そうと思ってやってみたら出来ちゃったらしいっす。

Q.トラオムにおける真犯人は若モリなの?

A.本人が否定してた。クリア後マテリアルにも『トラオムにおいて 元凶ではないが、最終ボスとして君臨』と記されているので、真犯人ではない。また彼は「この特異点を作ったのはマスターだが、育てたのは張角と言っていい」と述べていた。しかし、マスターと張角のどちらかが真犯人であるとも限らない。

Q.若モリの宝具『数理的悪性摘出マセマティカル・マリグナント・アナイアレイト』ならシステムに与えられた『怒り』を摘出してまるくおさめられる?

A.……あ。
(彼の宝具説明文には『到達した聖人、あるいは機械的生命体を除けば、どんな存在にも悪性は存在する。それを摘出することで、事実上の無力化を図る。なぜならその悪性には、戦意敵意殺意といった戦闘に必要な感情までが含まれているからだ。』とある。
「機械的生命体を除く」としているのは、元々それらには戦意敵意殺意がないという前提だから。しかし現状では、機械的生命体でも「死ね」という戦意敵意殺意を抱いていたのだから前提は崩れる。よって、現状であれば彼の宝具は該当の機械的生命体に対して有効であるとも考えられる。)
いやでも駄目だ、こいつ宝具で攻撃した後に対象に悪特性付与するよ!?悪性を取ってまた付けて、まるで意味がない。取った状態で終われないよ駄目だどうしよう。該当の機械的生命体を強制シャットダウンするしかないな!

……ダンガンロンパか!

ホームズ体験クエに話を戻しまして、新茶からホームズへの台詞も引用します。

「………………誤魔化したねえ、君」
「社会の陰のそのまた向こう、魔術の領域であれば幾らでも『証拠』など提示できる話だろうに。実在?架空?いまさら何を言っているのかネ?」

ホームズはトラオムでも『証拠』を提示しようと思えばできた。でも、しなかった。“証明不能”とした。ホームズは敢えて真実を見落とすのだ。問題を無視するのだ。完璧であるために。自身と大切な身内が危機に陥ることのないように。我々カルデアを勝たせるために。

「仕方ないさ。あまり踏み込むと平行世界や剪定事象の話になってしまうし、神代の解説にまで踏み込む事になる」
「こうして我々が目にして触れられる現実など所詮は薄皮一枚での出来事にすぎないのだからね。聖槍で繋ぎ留められてはいても、手段を尽くせば剥ぎ取ってしまえる程度のモノだ」

ホームズのマイルームボイスに第2部5章クリア後に追加されるものがあります。

「アトランティス……遂に人は、その秘密に辿り着いてしまったか」

しまった、のです。ハッキリとは明かさずにおきたかった神代の秘密が明らかになってしまった、もうこれ以上はやめといた方が……というニュアンスを感じます。
カルデアの英霊として正式に契約しルーラーとなったホームズは、次のように述べていました。

「真実を調停し、人類史を維持するためにこそ万物を裁定せよという訳だ」
「……“明かす者”であるこの私に、幻想と夢のすべてを明かしきってはならないと世界は告げているかのようだよ」

もうこの時点で「トラオムの謎にあんまり首突っ込むなよ」と世界から警告されていたと捉えてよろしいか。
あと弊デアには項羽様がいらっしゃらないので、ついこの間の『Road to 7』キャンペーンで初めて項羽様の幕間をプレイしました。そしたらホームズはこんなことを言っていました。

「私も正直、困っているんだ。どういうわけか、調査中の事件の手がかりを何度も破壊されている」

ホームズは項羽様のおかげで「解いてはならない謎」の答えに迫る時を先延ばしにできていたのですね。項羽様謝謝。逆説的に考えると、トラオムにレイシフトすることになったホームズに対して項羽様が骨を折ってでも止めるとかいう無茶をされなかったので、ホームズ当人だけでなく項羽様も「これでいい」という見解ってことになりますか?……ならば信じましょう。この二人が「いい」って言うならいいんだよ。ほら、パイセンも“当然”って顔してる。

虞美人「人間は愚かなんだから、せめて優れた者の言う事を聞いときなさいよ」

はい。私は論理学や数学の知識が浅く、門外漢もいいところです。しかしどうやら、FGO第2部を深く理解するには門を叩かねばならないようなのです、パイセン。

[ 証明不能 Ex Flso Quodlibet ]

クリア後の赤い画面にあった言葉。その門の向こうは、深淵でした。ワァオ、未知との遭遇。
爆発律、矛盾からはあらゆる答えを導ける。偽、真。矛盾許容論理。アリストテレスのオルガノンの三段論法。自己言及のパラドックス、または嘘つきパラドックス。転導推理。集合論。……ちょっとリンゴを齧ったつもりが、こ、これは『おいしいおかゆ』。私はこの学門から溢れ出る噴流を止めるおまじないを知らない。
一緒におかゆを食べてくれる気概のある方は、「爆発律」「証明」で検索してみてください。鯵坂さんのブログ『アジマティクス』がおススメです。私はこちらを拝読して今やっと、先述した清姫と若モリの“後付け”がどういうものかを論理的に整理できました。たぶん。
「汎人類史は滅びている、かつ、汎人類史は滅びていない」という“矛盾”を“前提”としたら、何でもアリにできそうで面白いですね。

ホームズの宝具『初歩的なことだ、友よエレメンタリー・マイ・ディア』は、彼のプロフィールで次のように解説されています。
『自らの起源である『解明』を昇華させたモノ』
『立ち向かう謎が真に解明不可能な存在であったとしても、必ず、真実に辿り着くための手掛かりや道筋が「発生」する』
これを“矛盾した前提”にぶつけたら……悪党の悪巧みプランニングが捗りそうで困りますな。

“カルデアス”という謂わばもう一つの地球で緻密にシミュレーションされた電脳世界100年史は、ダストデータとして何度もリセット(丁寧に殺)される運命にあるものの、高次元の天からまさに現人神アラヒトガミといえる残留思念体オルガマリーが降臨したので、データ達はこれ幸いと大事に大事に調べて利用した。結果、この世界の上層を知ってしまい怒りを覚え、仮想を勝手に書いては消す憎き創造主カルデアを同じ目に遭わせてやろうと企んだ。どうにか100年前の過去の現実世界に破綻理論を証明させうる宝具を持つ明かす者ホームズをレイシフトさせて、つくり直した神U-オルガマリーが復讐を遂げられるよう工作させ、世界をひっくり返そうと……?

いけない、もうそろそろ限界だ。これ以上観測の範疇を広げ過ぎると私自前の演算装置(脳みそ)ではキャパシティオーバーしてショートしかねないや。

答えを得た瞬間から人類史が解けて無くなる虞のある、発いてはならない世界の深層というものがあるのではないか。地球という星を土台とし、神秘のベールを被せて聖槍で繋ぎ止め、あやに紡いできた歴史という薄い織物の上に立っている人類には、決して辿り着いてはならない真相があるのではないか。
この世界には解いてはならない謎もある。真実の味を知れば今までの自分ではいられなくなる。気付かずにいていい矛盾に気付けば破滅を招く。考察し、理解することを、我々は途中で止めなければならない。探求心や知識欲を捨てなければならない時があり、愚か者を演じなくてはならない場面がある。
……それらの警告を無視して迎える結末とはどんなものか。“正義カルデアの味方”となったホームズは、その身を以て示したのではないか。体を張って教えてくれたのではないか。そんな気もしています。

1.5部開幕の際に公開された公式PV『【新章】 -Epic of Remnant-』を今一度見てみましょうか。
このナレーションの声はホームズです。但し、1.5部開幕前のホームズです。まだ“我々カルデアの味方”になっていなかった頃の彼かもしれません。

『君たちには一つ、致命的な見落としがあった』
『遙かな神代、過去との対決は終わった。であれば、次に現れるものは予想が付くだろう?』
『これはその大事件の前の、ちょっとした謎解きだ。大いなる戦いの前の、その予兆ともいえる断章だ』

「過去」の対義語は「未来」です。第1部の敵が過去であったなら、第2部の敵は未来だ、と。そして1.5部は第2部の大事件の前のフリですよ、と。

『たとえば、それは虚構からの企て』
 T新宿幻霊事件
『たとえば、それは空想からの征服』
 Uアガルタの女
『たとえば、それは夢想からの復讐』
 V英霊剣豪七番勝負
『たとえば、それは迷信からの降臨』
 W異端なるセイレム

もう第2部の着地点を見据えておられたワケですね。トラオムまでいってからやっと理解した私は遅すぎたくらいだ。

『私はこれを警鐘し、また歓迎する者である』
『楽しみたまえ、人理継続保障機関カルデアの諸君。すべての謎は解決される為にある』

とここまで聞くと、この彼は「問題を敢えて無視する」・「謎を敢えて見落とす」ような探偵らしからぬことをする人格ではないことが分かります。やはり使徒としての自覚があった頃の、キャスター・シャーロック・ホームズではないでしょうか。

『魔術王が残した愛すべき“残り物”――これらの味わいはまた、格別に違いない』

ホラー!これは謎があるなら解かずにはいられない本来の探偵だ!謎大好物、シャブの如しに謎をペロペロとかちつくちて、本能渦巻く最中に堕ちてくときめきのままに解き明かし尽くして世界がどうなるとしてもすべての謎を解いちゃうマンだ!うわあ!
ハァ……こいつが「楽しかったから」謎を敢えて見落とし続け、異星の神を裏切り、カルデアを騙し続けることになっても一緒にいたいマンに変身してくれたなんて……尊い……。

ホームズが特異点トラオムに同行すると知るまでは、次にカルデアの大切なメンバーが欠けるとするなら、それはダ・ヴィンチちゃんだろうと思っていました。妖精國のマイクに会いに行っちゃうらしいので。しかし蓋を開けてみれば、先にいなくなったのはホームズでした。
アイザック・アシモフ著『黒後家蜘蛛の会』にある短編『会心の笑い』になぞらえるように、正直者ホームズは心からの笑顔を浮かべ、強欲若モリに微笑みかけ、疑念を抱かせて去っていきました。

「あの、会心の笑いは一体……何だ」

正典での彼の扱いや復活の経緯を惟れば、ホームズがライヘンバッハに落ちる事は、彼の一時退場・隠退を意味します。カルデア一行もそのように捉え、あまり悲観的になっていませんでした。
私も「きっとまた復活してくれるだろう」という望みは抱いています。それでも、けっこう深刻に悲しんでいます。カルデアには霊基グラフというものがありますから、シャーロック・ホームズを召喚できた際にはきっと記憶を引き継げるのでしょう。しかし、霊基消滅した“あの彼”が戻ることはないのです。Fateにおけるサーヴァントとは、そういう仕組みの使い魔なのです。トラオムにいた数多のサーヴァント達が「ここだけの彼ら」であったように、“あの彼”もまた「ここだけのホームズ」であった気がしてならないのです。さようなら、オリーブグリーンの瞳の名探偵。
それからこれはただの危惧で済めばよいのですが、対比やリフレインが上手いFGOのことなので、いつか訪れるであろうホームズ復活の場面でも絶対そういうの挟んできそうだなと思っています。第2部序章でキャスター・ダ・ヴィンチがルーラー・ホームズに後を託したように、この先ライダー・ダ・ヴィンチが新・ホームズに後を託すのでは……という考えが浮かんでしまって気が気じゃありません。キャスター・ホームズ復活と入れ替わるようにアーチャー・モリアーティがいなくなるとかもありそうで怖い。

ところで新茶、ホームズの事情に気付いていた節しかないんですよね。ホームズの幕間でエレナおばあちゃまをギャッとしたのが最たる例。ホームズが忘れていたい事なのに、いま詮索してしまうと藪蛇だからってことで妨害阻止してくれた感じがします。
さて、話の流れが丁度良いので、新茶の幕間からも気になる所を抜粋して思考整理しておこうと思います。気になる度でいったら、トラオムクリアした今でもまだまだ全文に未解決の謎が散りばめられている気がしてならないのですけど。

「正しいかどうかは別問題なのだ。正しい・・・から・・勝つ・・のではない。勝った・・・以上は・・・正しく・・・なけ・・れば・・なら・・ない・・

七つの異聞帯に勝利していく道程を指しているようであって、ひょっとすると違うのかもしれない、と思いました。まぁ根拠を訊かれると困るんですけど……勘……ああもう、こんなのばっかりだな。筋道立った考察なんて義務でもない、ってことで勘弁してください。
本当は汎人類史を名乗るにより相応しい真伝帯とでもいえよう世界があって、我々カルデアはそれを無意識の内に負かして滅ぼしていた、なんてこともあるのかなと過っただけです。ふと。何となく。汎人類史という地位を奪取したからには生き延びろよ!ゼッタイ侵略者なんかに負けんなよ!人理継続困難な世界線のくせにオレらに勝っちゃってさぁ、アーア!……みたいな。

「私は君を苦労させるために生まれてきたようなものだからねェ」

単純に「運命の宿敵だよネ」という意味か。それとも「私は常に君と敵対する立場にしかなれない設計のサーヴァントなんだ」という自白だったとしたらどうしましょう。「君が異星の使徒として振る舞うなら私はカルデアに味方して君を倒すし、君がカルデアの味方になるなら私は異星でもなんでも君と敵対できる側に付いて君を倒す」とかさ。それか「私が付いた陣営は経歴がどうであれ最終的に悪という事になってしまう」とか。私の考えすぎだといいな。

『私に出し抜かれるならともかく、誰かに出し抜かれる君など、全く以て願い下げだ』

若い自分が出し抜く分にはOKですか?新茶的にはどう?いやでも、若モリはホームズに勝った(?)けど、「出し抜いた」とは言えない顛末だったろうか。

『だからどうか、万全の状態でいてくれたまえ。私の悪を、奪わないでくれたまえ』

これこれ、これが特に謎。「もしホームズが悪として立ったら、モリアーティの立場なくない?君と敵対してなきゃ私じゃあなくなるからには、私が善になるっきゃなくなるじゃんかヤメロ」ってことかなぁ。

『これは知恵比べではない。生存競争でもない。我々が我々であるための――概念戦争なのだから』

と、新茶幕間はこう締め括られて終わります。概念戦争……これ以上ないってほど真名に縛られているご様子です。Fateの戦いって得てして概念戦争になりますね。あちこちで勃発してきましたが、対ビースト戦が特に顕著で説明しやすいです。第1部7章では山の翁がティアマトに死の概念を付与した。終章ではソロモンが指輪を手放した。深海電脳楽土では水深と時間の概念を利用してメルトリリスが反抗した。徳川廻天迷宮は春日局が「ここは大奥!」して畳を敷いた。
二人の概念戦争はトラオムのライヘンバッハで終結したんだろうか。ううん、まだ続きがありそうだよなぁ。

振り返ってみて思い出しましたが、トラオムでカドックがしたことって幕間の新茶に似ていたのですね。道理で既視感があった訳です。ホームズのことで注意を促してきて、それから「今聞いたことは忘れて」と術をかけてきた。これは意図して引っ掛けて描いてますよ。
若モリはカドックを大層気に入っていましたが、新茶はどうなのでしょう。引き会わせてみたい。

あの若モリがホームズに勝てたのは、「ホームズに負けたことがある」という認識を自分の記憶として持たない人格だったために、運命が確定されていなかったからだと考えます。「シャーロック・ホームズ。私はあなたの全てを知っている」と独白している場面がありましたが、ここでの「全て」とはホームズ先輩を召喚したマスターの正体と、現界してからの一連の裏切り行為のことでしょう。『シャーロック・ホームズ』という小説の中で起きたことは、若モリにとっては他人事でしかないようです。

「……実のところ、私にはあなたの記憶がない。若い姿で召喚されたからか。私の生前の記憶は、若い状態で寸断されている」

とライヘンバッハで告白していました。サーヴァントとは、何かしらの力が全盛期だったときの姿で召喚されます。たとえ若年の姿であっても、生前に長生きしたなら記憶は晩年の分まで持っているはずです。アンデルセン先生が分かり易い例です。お茶々と李書文先生もそう。子ギルやアレキサンダーもそうですね。生前の後年の記憶が自分のものだという実感の濃い薄いはあるにせよ、有るんです。無い、「寸断されている」というのは変です。若モリは異例なのです。
ホームズに勝つために運命の三女神の力を使い、自分の将来の記憶を切って捨てていた、というのであれば理屈は通ります。でも、先に新宿にて三十年後の姿で幻霊「魔弾の射手」と混ざり現界していた新茶は、訝しむマシュに対して通信で次のように説明していました。

「私には全盛期に当たる若い瞬間が、記憶から丸ごと欠けているのだ」

変です。変だよ。おかしい。劇中、彼は自身を二つに分けていますが、片割れの方に若い記憶を丸々押し付けてきたせいって訳でもないでしょう。カルデアのマスターの前で善を演じるなら、まだ悪に染まりきっていなかった若年の記憶があった方が都合が良かったはずです。なのに両方とも中身すっかりダンディ新茶だったのです。記憶喪失は確かにしていたけど、若い瞬間が丸ごと欠けている原因は別にあったのではないでしょうか。異星の神によって座から若い瞬間を抽出され奪われていたとか。それか元々“若い頃”がなかったとしたら無理もないし……存在しない記憶……ていうか自力で自分を二つに分けられてる事からしてそもそもおかしい。若モリもヌルッと分裂してんじゃないよ。なんだこれはモリアーティ族の特性なのか?太公望や張角のような仙術使いでもないくせに!「数学的解決」と称しておきながら実は態と天文学や論理学と混同させて悪用してないか?君たちの計算式は本当に純粋な数学なのか?物理的な力でゴリ押ししてくることも稀によくあるから信用ならないなァ!

「物理で戦え!」
「破壊だ!」

ここで突拍子もない「もしも」を考えてみましょう。もしも、ドン・キホーテが若い姿で召喚されたら――その彼は、いったい何者なのでしょう。物語である彼。年老いた姿しかないはずの彼。そんな彼は、若い姿で現界し得るのでしょうか。可能だとしたら、彼は本当は実在していたということでしょうか。それとも、佐々木小次郎のように、その真名を名乗るに相応しい人生を送った別人が当て嵌められるだけでしょうか。それとも――実在しない空想であろうと、人が願えば創造されて形になるのでしょうか?

新茶「若い私?何を仰るやら。若い私がこんなところにいる筈が……いたヨォ……マジか……マジなのネ」

正典において、あらゆる犯罪の蜘蛛の糸の先にいるとされるモリアーティ教授。彼は名探偵ホームズが助手のワトソン君に語る話の中でしか垣間見れない、完全犯罪者です。そりゃあ勘繰りたくもなりましょうや。
……? ナーサリーが微笑みかけている。 ▼

「こんにちは、素敵なあなた。夢見るように出会いましょう?」


その三

Fate 2022/07/08
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