2019/5/5~6/11
語り手:大前田希千代



 おい平民共!知ってるか!?
 五月五日は端午の節句!そしてオレ様――大前田日光太郎右衛門美菖蒲介希千代おおまえだにっこうたろうえもんよしあやめのすけまれちよ様の御誕生日だ!!!!

 御誕生日なんだが……何でだか、今朝から砕蜂隊長の機嫌が最悪なんだよなぁ。これじゃあ「今日は家で誕生会を開くので仕事は早めに切り上げて帰らせていただきます!」なんて言おうものなら、何されるか分かったもんじゃねぇ。と、いうワケで。ご機嫌取りのために、隊長が昔から好きな老舗の和菓子屋“清乃”まで甘味を買いに、わざわざ昼休憩を使ってやって来たんだが……。


「はぁーっ!?ぜんぶ売り切れぇ!?」

「ええ、そうなんです。申し訳ありません……今日は端午たんごの節句ですから、いつもより多めに仕込んで、それこそ柏餅なんて山のようにご用意したのですが……そこの、店先の縁台で今もお休みになられている方々がたくさん買って行かれましてね。それも、その場でとても美味しそうに召し上がるものですから、道行く方々も次々にお買い求めになられて」


 もう店仕舞いを始めた売り子が、にやけながら言いやがった。クソ、そりゃ山のように作った菓子がみんな売れたんなら、店としちゃあ嬉しいことこの上ないってんだろうがよ。こっちとしちゃあたまったもんじゃねぇ!そのたくさん買ってった客ってのが誰だか知らねぇが、そいつらのせいだ。
 店から出てそこらを見回してみると、いた。そこに腰かけてんのは死覇装の集団だ。なんだ、その客ってのは死神だったのか!そんならオレ様は副隊長なんだし、ちょっと頼めば分けてくれるだろ。


「おい、そこのお前ら」

「何だァ?」
「何だい?」
「何ですか」
「何でしょう!」
「なぁに?」


 げげーっ!……いやいやいや、よりにもよってコイツらかよ、十一番隊!斑目、綾瀬川、楠山、そんでなんか腑抜けた顔してやがる知らねぇやつ、と、あのクソガキ!


「あ?大前田か。何の用だ」

「いやーっとぉー……そのだな」

「いま店から出てきたのを見るに、菓子を分けろとか言うんじゃない?」

「あぁーっ、よく分かったなぁ!わ、悪ぃんだけどよ、」

「生憎ですが、もうお分けできるほど残っていませんので」

「は?そこにまだあんじゃねぇか!山ほどのかしわも」

「んももむむむむむもむぅ……ぺっ、ごっくん。ごちそうさまー!」

「はぁーっ!?!?」


 悪魔!桃色の悪魔だ!このガキ、自分の顔よりデカい山ほどの柏餅をいっぺんに口に入れたかと思えば、柏の葉っぱだけ器用に吐き捨ててあとは丸呑みしやがった!腹ん中どうなってんだよ!


「……て、そこのお前!なぁんだ、一個残ってるじゃねぇか」


 端に座っている腑抜けたやつが、まだ一つだけ手が付けられてねぇ柏餅を持っている。あいつは席官じゃなさそうだし、気も弱そうだ。さすがに副隊長であるオレ様には逆らえねぇだろ。


「おい、金は払ってやるからそいつをくれ」

「えっ。副隊長からやっと取り返した最高級こしあん柏餅なのに……」

「金矢、俺が許す。食っていいぜ」
「そうそ、大前田にへりくだったりしなくても大丈夫さ」
「せっかくの大好物なんだから」
「かっつんが食べないならあたしが食べちゃうよー!」

「……そんじゃいただきます!」

「へぁーっ!?!?マジで食いやがったコイツ!」


 ああもう何だってんだ!やっぱ十一番隊なんかと関わるとロクなことにならねぇ。しっかし困ったな、砕蜂隊長の機嫌が取れそうなモンなんて、他には思いつかねぇし……。


「ん!うまい!香りも最高です」

「そりゃ良かった。すみませんね大前田副隊長、金矢は本当にこれが大好物なもので。許してやってください」

「もぐ……大前田副隊長、そんなに柏餅が食べたかったんですか?清乃のものには到底及びませんが、もし良かったら、一緒に作ります?柏餅」

「……は?」

「はーい、あたしももっと食べたい!つくろ!」


――――――


 ……いやいやいや、何だこの状況。なんでオレ様が手ずから柏餅を作るハメになってんだよ!斑目も綾瀬川も楠山も、こっち見て笑ってんじゃねぇ!


「柏の葉は十三番隊のお庭から、見坊さんが快く提供してくださいました。拍手〜」

「ありがとう、ぼんつる!葉っぱはおいしくないけど、葉っぱがなくっちゃ柏餅じゃないもんね!」

「どういたしまして。せっかくですから、それがしもお手伝いします」

(ぼんつる……)

「小豆はもう煮ておきましたから、大前田副隊長は裏ごしをお願いします。俺は上新粉とか練りますんで」

「お、おう」


――――――


「餅が蒸しあがりましたよ〜!」

「ほっかほか〜!」

「じゃあ餡子を包めば仕舞いだな?」

「いえ、まだです!ここに砂糖をすり混ぜて、それから氷水にさらすとツヤも出るんですよ!」

「まだあんのかよ!菓子作りって面倒臭ぇなぁ……」

「食べてしまうのはあっという間ですが、美味しくするためには必要な手間ですよ。あと一息です」

「う、うす……」


――――――


「で……できた!オレ様特製柏餅!!」

「あたしも葉っぱ巻くの手伝ったよ!」

「餡子も一等うまくできましたから、絶対に美味しいですよ!」

「頑張りましたね。この出来なら、誰に贈っても恥ずかしくないでしょう」


――――――


「……で?昼に出かけたかと思えば、この時間になるまで一体何処で油を売っていた!大前田!」

「ひえぇぇ!す、すんません隊長!」


 そう、気付けばもう夕方になっていた。大失態なんて可愛い騒ぎじゃねぇ!気温は涼しいってのに、砕蜂隊長の怒りの霊圧がまるで陽炎かげろうみてぇに揺れてやがる。


「あの、でもコレ、せっかく作ってきたので差し上げます……」

「何だソレは」

「俺手作りの柏餅……です……」

「巫山戯るな!!そんな気色悪いもの、誰が……!」


 うわっ、こりゃヤベェ!ヤベェヤベェヤベェ!!目線だけで殺されそう!というか今にも殺される!?


「でも、見坊殿とか楠山も手伝ってくれたんスよ!!」

「…………何?」

「あー、草鹿とか他にもいましたけど……コレは、見坊殿が包んでくれたやつです」

「…………。」

「……た、隊長?」

「……貰ってやらんこともない。それを置いたら去れ、大前田」

「っへぇ、失礼しました!」


 た、助かったのか?マジで?……いやぁ、何だかよく分からんが良かった、命拾いしたみてぇだ。

 あーあ、誕生日だってのに散々な一日だったぜ。ところでこの柏餅、山ほど作ったから俺と家族の分も貰ってきたんだっけ。そういや味見もしてなかったな。家に帰る前に、どんなもんだか食ってみるか。


「……ふんふん、流石はオレ様」


 これなら、希代も喜びそうだ。

バースデイ・柏餅!


 世は十連休、皆さま如何お過ごしでしょうか。田畑や山も枯れ色から一変、鮮やかな緑の衣を纏い、初夏もすぐそこまで来ています。私は家族と一緒にフラワーパークに行って綺麗な空気を吸いつつ散歩したり、インドカレー屋さんやラーメン屋さんで外食したりしてました。いつもならスカスカしている田舎の道の駅もこんな日ばかりは大盛況しているようですし、全国の交通量も凄いことになっているのでしょう。
 今月はまさかの大前田でお送りしました。それにしても私、本編でもここでも、キャラクターに物を食わせるのが好きだな。……いっぱい食べる君が好き?

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