2019/6/11~7/31
語り手:京楽春水



 太陽黄経八十度。

 お日さまが黄道のそこに達する日っていうのが、どうも今日あたりらしい。つまり、もう今年も梅雨入りってことさ。やだなぁ〜一年って早い……おっと。こんなこと言ってると「オジサンくさい」とか言われちゃうかな?でも、護廷十三隊の隊長の半数以上を一度に失ってからもう一年――と言い換えれば、この言いようのない気持ちを分かってくれる人は結構いるんじゃないかな。

 それに今日は、十番隊と十一番隊の合同遠征部隊が帰還してからもう一週間、でもある。これも「もう一週間か」って感じがするよ。バタバタしてたからねぇ。

 今日は暖かくなりそうだ。ここんとこ少し肌寒い日が続いたおかげで、あったかいお日さまの光がちょっとありがたい感じもする。早朝にする散歩は爽やかで気持ちがいいもんさ。

 そうそう、これを言うと大抵の人から「意外ですね」って言われちゃうんだけど、ボクって実は早起きなんだよ。よくサボって昼寝してリサちゃんに怒られてたから、隙あらば寝てそうな人っていう印象が強いみたいなのよね。
 ……嘘じゃないよ?鍛錬のために朝早くから瀞霊廷内を走る習慣のある斑目クンと沙生ちゃんが証人さ。すれ違うと必ず挨拶してくれるんだ。


「……あれ?蒼純クン?」

「京楽隊長。おはようございます」

「おはよう……え、もう大丈夫なのかい?」

「はい。生きて帰りさえすれば、治してくれる人がいますからね」

「成程。そりゃあ良かった……ん?その籠は?」

「これから梅の実を収穫しようと思いまして。あまり遅くなると雨に降られて傷いたんでしまいますので、その前に」

「あぁそっか、もう梅雨なんだからそうだよね。すっかり失念しちゃってたよ。やっぱり蒼純クンに任せて正解だったなぁ……」

「今後ともお任せください。梅酒ができたら、また持って伺いますよ」


 蒼純クンは片手で空の籠を持ってふりふりしながら、少し嬉しそうに言った。ボクと彼がいま鉢合わせているのは、七番隊の敷地の前。此処の裏手にある山の中腹には、人の背より少し高いくらいまで育った梅の木がある。
 昔、とある記念に皆で植えたものだ。


***


「“桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿”ともいって、梅の木は剪定が大事なんだ。俺が定期的に様子を見にくるよ」

「十三番隊から?遠くて大変じゃない?」

「なら俺がやろう。あれだろ、枝が出たらぜんぶ切っときゃ宜しかろ?」

「それじゃ育たないじゃないの!ダメダメ、任せらんない」

「……浮竹隊長、どうか私に剪定の仕方をご教示ください。六番隊から近い所ですし、この木の世話は私がやりましょう」

「そうか?喜んで教えるぞ!何でも訊いてくれ!」

「定めて梅のことならお前に任せるのが一番か。頼んだぜ、蒼純」

「まったく……誰のために植えると思ってんのよ」

「何言ってんだ春水。それは当然――」


***


「……供えてやるために植えたんじゃないってのに」


 昨日のことのように思い出された。ボクは何でもないときはぼんやり過ごすのが好きだし、どちらかというといつでもおちゃらけていたい。だけど、四人でいるときは、ボクと蒼純クンがしっかりしていないといけなかった。
 ――今じゃ、そんな苦労も無性に恋しい。


「……喜んで良いものか、複雑ではありますが……あの子と一緒に飲めるかもしれないと思うと、弾む気持ちがあるのも確かです」

「――やっぱり、気付いてたんだね」

「はい……ですが、浮竹隊長も京楽隊長も、はっきりしたことは何も仰ってくださいませんでしたから。確信できたのは先週です」

「……そっか。ごめんよ。そういうの全部、浮竹任せにしてたんだ」


 ボクの悪いところだ。でも、皆にちゃんと話すのは、浮竹の心の整理がつくまでゆっくり待ってやりたかった、というのも本音なんだ。……待ってやっていたら、とうとう逃げてもいられない所まで追い詰められてしまった様子なんだけど。なんて、そう言うボクも浮竹のこと言えたもんじゃあないか。


「流石にそろそろ話すんじゃないかなぁ。いい加減沙生ちゃんも気付いちゃってると思うしね」

「そうですね。きっと、今日には」

「……おやぁ?もしかして今日も冴えてるかい?」

「はい。当たりますよ、私の勘は」

「そうかぁ。んじゃ、今日は浮竹んとこ行くのはやめとこうかな!身内でじっくり話したいだろうからね。……蒼純クン、梅の実収穫についてっても良いかい?」

「どうぞ勿論。可愛いお迎えさんが来るまでの間でしょうけれど」


 彼の言う通り、きっと今日には沙生ちゃんは知ることになるだろう。浮竹の口から、自身のことを。

 ――いつかボクにも、七緒ちゃんに本当のことを教えてあげなくちゃならない日が来てしまうだろうけど……それはまだ先で良い。今はまだ、ボクにとっては他人事さ。
 悪いね、浮竹。

青やかなる梅の辜つみ


 梅雨ですよ。今年もこの季節が巡って参りました。
 当サイトで拍手お礼文の掲載をするようになって一年が経ったということですね。やや遅れたこともありましたが、毎月更新!という目標は無事達成です。二年目もゆる〜くやっていきますので、どうぞよろしくお願いします。
 一周年記念という訳でもないのですが、ここに載せてきた拍手お礼文は『このほの』本編とも関わりの深いシリーズですし、せっかく一年分溜まったので、本日からは「拍手ログ」のページへのリンクを「main」ページにも設置しておきます。
 さて、今月は京楽隊長でお送りしました。例によって本編の時系列を先取りした予告っぽいお話になってます。……現時点では27話まで公開中だから、このお話に本編が追いつくにはあと6話くらい……かな……。

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