2019/8/31〜9/30
語り手:志波海燕



 夏が終わろうとしている。

 瀞霊廷通信の俳句欄だとか黄ばんだ古い詩集なんかに目を通せば、秋の何とも言えない物悲しさを詩にするやつは結構いるが、この“夏”という季節を憐憫するやつは珍しいだろう。精々、ヒグラシの切なげな声を題材にするくらいか。
 蛍に蛙、蝶に狸も、夏になるとわっと増えるもんで、自然の中に一歩足を踏み入れればそこかしこに生命いのち、生命、生命。こればっかりは尸魂界だろうと現世と同じで、活力が満ちに満ち、鬱陶しい程だ。

 ……と、ぐだぐだ文句みたいになっちまったが、かく言う俺の“夏”も、何べん来ようと騒がしいのが通例だった。十三番隊でもスイカの最後の一切れをぎゃあぎゃあ取り合ったり、クソ暑い中で剣の稽古をして暑い暑い連呼したり、休暇だってそこらにいるちびっこ共とじゃれて田んぼに落ちたり水ぶっかけ合ったり。毎年西流魂街でやっている花火大会には、沙生、斑目、綾瀬川と見に行って「たまや」「かぎや」と燥はしゃいで帰る。

 そんな夏を、毎年よくもまぁ飽きもせずに繰り返したものだ。


***


「でも毎年毎年、私たちとっていうのも……来年は都さんと二人で来たらどうですか?」

「んー、どうだかな。あいつ人混み好きじゃねぇって言うし。つうか、今更過ぎねぇか?」

「沙生も異動したっていうのに、何だかんだ僕らと来るよね」

「良いじゃないさ、もう夏祭りといったらこの面子じゃないとしっくりこない感じがする」

「おうそうだそうだ、俺もそんな感じ。この四人じゃねぇと祭り来た!って感じがしねぇ」


***


 そうだ。最後の夏も、そうだった。

 あの何日か後、俺と沙生は空鶴と岩鷲に会いに西流魂街の俺の家に行ったことがあった。で、せっかく遊びに来たってのに剣を振りたくなったらしい沙生に付き合ってやったんだっけ。


***


「あ〜、もう動けん……日課を欠かさないってとこは褒めてやるべきなんだろうが、ちったぁサボる気になんねぇのか」

「いやぁすみません。何か掴めそうな気がしたので、今日はどうしても」

「ま、確かに今日のお前の動きは良かったな!そろそろ叔父貴が駄目出ししてやる隙もないかねぇ……で?何か掴めたか?」

「はい!あとちょっとで……やれる気がします」

「おーおー、そりゃあ何より」


 露が跳ねるのにも構わず、大の字になって草むらに寝転んだ。そんな俺の方を見た沙生は、間抜けな顔で「あっ」と声を上げた。


「何だ?どうかしたか?」

「あぁ、いえ。海燕さんの頭の上、ちょうどお花が咲いてますね」

「お?……本当だな。へへっ、俺の頭から生えてるみたいだってか?」

「んぶっ。……そう言われればそう見えますね」

「った〜墓穴掘ったか〜」


 お互い体を動かしたせいで疲れてへとへとで、頭もあまり働いていなかったのか、どうもふわふわした会話だった。からからと笑い合って、顎を空に向けて頭上の花を見遣る。放射線状に開いた橙色の花弁に赤い斑点。茎と葉はしっかりしている方だが、もう日暮れが近いからか、花は少し萎しぼんできていた。


「花弁に点々があるのは山百合に似てますけど、形は違うし……何の花でしょう?」

「これか?これは檜扇ひおうぎだな。ほら、こっちの方、葉っぱが扇みたいになってるだろ」

「……すぐ分かる辺り、流石は園芸好きの十三番隊ってとこですか」

「南舘と話してると、そういうの自然と覚えちまうんだよなー」


 檜扇の花は、華憐で可愛いというよりか、怜悧で逞しい印象を受ける。だから何となく、本当に何気なく、こう思った。


「檜扇って、なんか沙生みたいだな」

「そうですか?言い換えれば、私は檜扇みたいってことですよね?……海燕さんが檜扇をどんな風に思っているかを聞かないと、どこがそれっぽいのか分かりかねるのですが……」

「あんだよ突っ込んでくんなァ!何となくだよ、なんとなーく!」

「出た、海燕さんの『何となく』」

「うるせぇ、何となくは何となくなんだよ!」


***


 あの時、お前の白い相棒がこの会話を聞いていたかどうかは知らないが――


(ああ。聞いていたとも)

(うわっ、急に話しかけてくんなよ)

(なに、あの頃ちょうど、名を何とするか迷っていたのでな)

(へぇ?じゃ、アレの名付けの元は俺ってことか)

(そうなるな。さて、何か言伝はあるか?)

(おっ?なんだよ。いつもは『もう何十年か待て』とか言う癖に)

(……ないのならば、)

(おーっとある!あるある!それじゃあだな――)


……

夏の暮れにヒオウギと


 昨年八月のお礼文に続き、とある「最後の夏」に纏わるお話でした。何が何だか分からないような、どういう状況なのか分かる人にはちょっと分かるような……とにかく謎仕様ですみません。でも夏の終わりですからね、書きたくなっちゃったんですよね。という訳で例の如く、いつか本編の二章で『檜扇』をタイトルに含むお話が更新された際には、この拍手文のことを思い出していただけたらと思います。
 先月のアレで懲りずまたもギリギリなタイミングでの拍手更新でした。でも今回はちょっと意図的な遅延なのでどうかご容赦をば。
バイバイ、夏!

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10/12/72
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