2019/9/30〜10/31
語り手:涅マユリ
無機質で冷色に囲われている研究室の机上には、一輪挿しの小ぶりな花瓶がぽつんとある。不似合いだ。らしくもない。しかし、これは此処にかれこれ半年ほど置かれたままである。始まりは、屑籠に入れられた
***
「局長、このお花どうしたんですか?」
雑用当番でゴミの回収に来た久南は、屑籠からそれを拾いあげてしげしげと眺めた。……上司の目の前でゴミ漁りなんてするんじゃないヨ。
「要らないネ。男から贈られた花など気色悪くて仕方ない」
「えっ、何ですかその話」
「世の中には色んな奴がいますね……」
「ちなみに誰からですか?」
「お前たち、
そう返せば、久南、阿近、鵯州の三人はほっとしたように肩の力を抜いた。いやいや全く、どういう想像をしていたのだか。
「ああ、例のお誕生日プレゼントですか」
「
「それはまぁ……浮竹隊長がいらっしゃったとき、すれ違う局員と色々話して行かれましたし」
「そも大声でやり取りなさっていたので」
「…………。」
嗚呼、思い出したくもない。久し振りに希少で面白い研究対象を見つけたというのに、奴らの小賢しい根回しの所為で容易には手を出せなくなってしまったのだから。
「失礼します。十一番隊の――」
「お、噂をすれば」
「だな」
「こんにちは!沙生さん」
「こんにちは、ニコさん。うちの隊士が溜め込んでいた書類を少々見つけてしまったので持ってきました」
思い出したくないというのに、向こうからずかずかやって来る。手を
「現世任務で出会した手強かった虚の能力についての報告書みたいなので、局長さんもお目通しくださいね」
「……御苦労」
「はい。では――……ん?ニコさん、それ何を持ってるんですか?」
「これですか?局長が京楽隊長から頂いたお花ですよ。この間お誕生日だったので、それで」
楠山は久南の方に寄って行き、掲げられた萎びた浜簪をじっと見た。そして肩に掛けた鞄から徐に本を取り出し、パラパラと捲る。その様子を皆が注目してから暫くすると、唐突に「これだ」と声をあげた。
「ふむ。浜簪……『花言葉は思いやり、共感』、それと――」
「花言葉?」
「西洋で人に花を贈る際に意味を込めたのが始まりだとかで、最近は日本にも広まってきているそうですよ」
「へぇ、そんなのがあるんだぁ……素敵ですね〜。その本は図書館から?」
「いえ、沢子から借りました。というかその、局長さんは最近お誕生日だったんですか?」
くるりとこちらを向いて問われた。「そうだとも、最悪なものだったヨ。主に君のお蔭でネ」と言ってやりたいところだったが、頷くだけに留めた。
「そうでしたか。では、丁度良い具合にここに一輪挿しがありますので差し上げます。この浜簪、今からでも水に挿しておけばちょっとは元気になると思いますよ!」
「本当に何故そこに今それがあるのかネ!?」
花瓶なんて鞄に入れて持ち歩くものではあるまい。何がどうしてそうなったのだ。
「でもそれを話すと長くなってしまうので、また次の機会に……」
「えーっ沙生さん、私なんだか気になっちゃいます!」
「俺も興味あります。突拍子もなくて訳が分からないので」
「俺も。……局長は気になりませんか?」
「…………。」
***
それからは浮竹が寄越した干菓子を茶と一緒に出してやり、その長話を聞くことになった訳である。
花も一輪挿しも、何度捨ててやろうとしたことか分からない。しかし、その度に誰かが屑籠から拾って研究室の何処かしらに飾り戻し、いつの間にかそれが恒例となってしまった。花は枯れれば楠山が十三番隊から摘んできて他のものに取り換える。嗚呼、
「こんにちは局長さ……や、涅隊長さん?」
「局長でもあることに変わりはないヨ」
「じゃ、局長さん。秋らしくなってきましたね。今日は
花弁を散らした
「これの花言葉は何でしたっけ……駄目だなぁ、本がないと。中々覚えられません」
「――復讐、厳格、独立だヨ」
「……へぇ……」
「何だネ、その顔は」
「いえ、局長さんが花言葉の話をするなんて意外だと思いまして……ですが、考えてみれば隊花ですしご存知なのも当然でしたね」
花を持って来られる度にそういう話をされるものだから、憎いことに君に感化されて詳しく調べてみたのだ、とは言わないでおく。
触れないで、というのもあるヨ
回想部分は本編13話『変はり者に寄る変はり者(上)』の少し後のお話でした。またも月末ギリギリ更新ですがこのお話の日付設定と近くしたかったという理由もあるので許されたい。
やっと秋らしくなってきましたね。咲く花の種類の数は春にもきっと劣りません。道端に咲く薊を見かけると真っ先に涅隊長を思い浮かべてしまいます。
やっと秋らしくなってきましたね。咲く花の種類の数は春にもきっと劣りません。道端に咲く薊を見かけると真っ先に涅隊長を思い浮かべてしまいます。