2019/11/30〜12/30
語り手:松本乱菊
「……何よ。こっちが声かけようとするといつも逃げるくせに、あんたの方から話しかけてくるなんて」
傘を差すかどうか迷うような天気。あとほんのちょっと寒かったら、霧のようにぱらぱら吹きつけるこの冷たい雨は雪になりそう。朝からずっと空はどこまでも灰色で、まるであたしの気持ちを写したかのような――ううん、こんな天気だから、気持ちもそっちに引っ張られてるのかしら。
「そんな『槍降ってきそ〜』みたいな顔せんでも」
「鉄笠とか持ってきてないのよねぇ。どうしようかしら」
「ほんまに降ってくる前提なん?」
半年振りに口を利いた目の前の男は、つままれた狐みたいに眉をくしゃりとさせる。それから、井戸端の主婦の如く左腕に持ち手を通して提げている籠の中を漁り始めた。
「まぁさて置いとこ。コレ、お裾分けしたる」
徐に取り出されたのは、白い紐に結ばれていくつも連なっている干し柿だった。いったいどういう心境で、またあたしにコレを差し出してんだか。その心腹を探ってやろうと、随分と久し振りにじぃっと顔を見てみた。澄まして何でもない風にしてるけど、こいつは昔から装ったり隠したりすることだけは異様に上手いから、きっと変に緊張してるわね。そのはずよ。そうじゃなきゃ、あたしばっかりでムカつくし。
「あんたが作ったの?」
「ううん。ボクの柿はこないだ苗植えたばっかりやから。コレは貰いもん」
「ふぅん。誰がくれたのよ」
「千鉄さん。依願除隊するちょっと前に、藍染隊長が三番隊の業務引き継いだったやろ?そのお礼やて」
「そう……じゃ、貰っとくわ。こんなに良いの?」
「ええよ、帰ればまだまだぎょうさんあるし。多かったら隊長サンにでも手伝ってもらい」
垂れ下がっている紐の下の方を掴んで受け取ると、すぐに背を向けられた。でも、お互い死神になってからのやり取りの中では、たぶん今のが一番長い。
「乱菊」
やや咎めるような声色で呼ばれ、何用かと顔を上げると、あいつは離れたところから首だけ振り向いてこっちを見ていた。
「こういう日は傘差しぃ。風邪ひくで」
それだけ言うと、すぐに去っていった。
――――――
「
翌日、見事に風邪ひいた。そろそろ白羽織は様になってきたけど罵倒は様にならない上司……に見つかって、早々に執務室から追い出され、宿舎の自室に戻ろうと廊下を歩く。熱が高くなってきたのか急に
「乱菊さん?どうされたんですか?」
「……ちょっと……風邪で、眩暈しちゃって……」
顔を上げられず床を見ていたら、白い足袋が視界に入ってきた。手術したって言ってたのって、どっちの足だったんだっけね?しっかり歩いててもう全然痛くないみたいだし、ほんと、良かったわ。
「どれどれ……あらら、おでこ凄く熱いじゃないですか。立てますか?肩、お貸ししますよ」
「……ありがと………あ、ここ……左よ」
体は丈夫で健康って自負してたのに。こんなに
「布団からでも手が届くところに、お水とか置いておきますね。もし良かったら、お昼におかゆかうどんでも作りに来ますよ」
「……でも……あんた、今日も隊長に稽古つけてもらいに来たんでしょ?……いいわよ…お昼はそこにある干し柿でも…食べてるから。それに、うつしたらいけないし……」
「じゃあ、干し柿もここに置いておきますけど……食べられそうですか?」
「ん……あたし干し柿が一番、好きだから…」
「へぇ、そうでしたか。干し柿が一番の好物って人は珍しいと思ってたんですが……案外いらっしゃるものなんですかね」
干し柿は、あたしにとっての特別なのよ。他にもそういうやつを一人だけ知ってるんだけど、あんたが言ってるのは誰のことなのかしらね――。
訊いてみたかったのに、倦怠感と睡魔があたしの意識と瞼をゆっくり、そして強く閉ざしていった。
垣を作るも相即不離
意地でも語り手以外の登場人物名(会話の中だけは除く)を出さないスタイルでお送りしました。去年の十一月の拍手お礼文と繋がっている続きっぽいです。『このほの』本編の次回以降の予告もぶっこんだりとやりたい放題(更新できてないのにねHAHA)!本編とここでのお話の時系列の滅茶苦茶具合は書いている本人もたまに混乱するレベルなので、そのうち時系列順にお話のタイトルを並べたメモとか公開するかもしれません。
今くらいの季節になると寒さで縮こまって下を向きがちだったりしますが、空気が冷たく澄んでいる分、晴れた日には空の青さがくっきりとしていて綺麗ですよ。ふとした時に、見上げてみてください。
今くらいの季節になると寒さで縮こまって下を向きがちだったりしますが、空気が冷たく澄んでいる分、晴れた日には空の青さがくっきりとしていて綺麗ですよ。ふとした時に、見上げてみてください。