2018/10/15~11/6
語り手:更木剣八
「おい、そんな所で寝てると風邪ひくぞ」
ひゅうと風吹く秋の夜さり。斬魄刀の柄が覗いて見えたもんだから角を曲がってみれば、縁側から足を投げ出し、柱に
そういえば、こいつはいつの間にか輪からいなくなっていたか。眠いのなら部屋まで直行すれば良かったものを、何だってこんな肌寒い場所にいやがるんだ。
「……おい。聞こえてんのか?起きろって」
「ん――…………う、ん?隊長?」
「さっさと部屋に戻れ。来週の遠征、風邪ひこうが何しようが連れてくからな」
「あー……はい。起こしてくださってありがとうございます」
肩を揺すってやればやっと目を覚ました。そして上がった顔を見てみれば、うすらと目が赤く腫れていて――そうか、こいつは泣きに出て行ったのか。戦いや鍛錬に臨む普段のこいつの姿からは想像できないことだった。これが珍しいことなのか、それとも隠すのが
「何があった」
「はい?」
「夜に月見て泣いてたわけでもねえんだろ」
「あれ。目、まだ腫れてたりしましたかね。思いのほか目聡いようで」
「
沙生の隣にどかりと腰を下ろす。そうしてから、「早く戻れ」と自分で言っておきながらこれじゃあ今ここで話聞いてやる気満々みてえじゃねえか、と思った。……もう遅いな。仕方ねえ聞いてやるよ、面倒だがよ。
「半分くらいは月を見てたせいなんですよ。泣いてた理由」
「はぁ?」
「今宵は
見上げて、空の檸檬を指差しながらにへらと笑う。きっと愉しい話でもないだろうに、へらへらしやがって。酔ってんのか?
「曇ってたんだろ」
「いいえ、晴れていましたとも。月齢のせいです」
「そうかよ。いやによく覚えてるもんだな」
「ええ。今日はちょうど、蒼純さんの一周忌ですから」
成程、故人を
沙生はあいつの最期を看取ったらしいと聞いている。それに、息子の朽木白哉とは同期の仲であるゆえに、よく世話になっていたとも。
「蒼純さんは
「ああ、なんか秋になると香ってくるアレか?」
「はい、ソレです。そうだ!ここの庭にも植えてみませんか?」
「ここには松があんだろ。あんまり小綺麗なのはウチにゃ似合わねえしな」
「そんなことないと思いますけど……あ、じゃあ椿はどうです?こう、首が落ちる連想とかウチに似合いますよ」
「ハッ、どんな似合い方だよ」
その後も、庭に新たに植える木にアレはどうか、コレはどうかと次々に勧めてきた。どうも十三番隊の庭に憧れているらしい。しかし考えてもみろ、ウチのやつらがちゃんと草木の世話なんかできるわきゃねえだろうが。
「……まぁでも、手のかからない苗木の一本や二本は構わねえか。好きに決めて植えとけ」
「いいんですか?やったー!!」
両手をぱっと伸ばして、今度は心からの笑顔だろう。そこまで喜ぶことか?とも思ったが、そういえばこいつは桜の木を庇って死にかけるようなやつだった。今更だな。そうしたら病室でのなんやかんやも思い出してきて、つい思い出し笑いなんかしちまった。
「話し声がすると思ったら、隊長に沙生。部屋に戻ったんじゃなかったんですか」
「おっほんとだ。一緒にどうすか?
振り返れば、盆に色々を乗せた弓親と、両手に熱燗を持った一角がいた。丁度いい、こんな場所にいたせいでちっと体が冷えてきてたところだ。
「そうだな。もらうか」
「私も〜、あったまってから休もうっと」
泣いた後でもこんな風に笑えるようになったんだ。こいつのこの様子でも見れば、あいつも浮かばれるだろ――
ふいに、沙生の斬魄刀のそばに白い焔の花が見えた気がした。
月下に花咲かせ
どうしても10月の文をこれにしたくて、またもや本編の先取り話になりました。このお話、主人公が入隊してから10年とちょっとは後の設定です。あれ……相当頑張らないと来月も先取りになっちゃうかも?11月といったら、日本家屋の軒先に下がる恒例のアレを作り始める季節ですし。
台風がバンバン来てから一気に気温が下がりましたね。もうタオルケット一枚では余裕で風邪をひくくらいになりました。茶の間でうたた寝、ましてや縁側で寝こけたりなどしませぬよう。
台風がバンバン来てから一気に気温が下がりましたね。もうタオルケット一枚では余裕で風邪をひくくらいになりました。茶の間でうたた寝、ましてや縁側で寝こけたりなどしませぬよう。