2019/1/26~2/11
語り手:斑目一角



 寒さみぃ。誰だ、凍て空の真冬に廊下の雨戸全開にしといたやつは。
 首を縮こませて食堂までの廊下を進む。ふと、面している庭を見遣ると、そのど真ん中にぽつんとかまくらがあった。ぽつんとは言ってもまぁ、まあまあの大きさだ。十一番隊の庭は隅にいくつか雪吊りされた松があるだけだから余計に目立つ。しかも、天辺には寒牡丹かんぼたんが一輪ぶっ刺されている。

 さっさと食堂にいかねぇと……とは思ったが、何だか無性にかまくらが気になった。沓脱石くつぬぎいしに脱ぎ捨ててある誰のだか分からねぇ藁沓わらぐつを勝手に拝借し、降る霙みぞれにも構わず、ふらりとそっちに寄ってみる。入口は裏に回った方にあって、中には灯りがついていた。


「ん。おんや、どうしたい奴やっこさん?こんな暮れ六むつに迷子かい?」

「……なァにしてやがんだ」


 中で火にあたっていた沙生は、ふざけた調子でにやけて言った。適当にあしらい、無遠慮にぐるりと中を見渡してみる。急造の割にはしっかりとしていて、椅子もあるし卓もある。全て雪でできている。奥の壁は一部だけ凹んでいて、神棚みたいに飾り物がしてあった。


「ど真ん中につくっておいて迷子なわけあるか」

「そこはノってよ、一応これは秘密基地という体ていなんだから」

「秘密基地に旗を立てるな」

「あぁ、寒牡丹のこと?副隊長が『完成のあかし!』ってさ」

「お前もそろそろ食堂いかねぇと飯なくな……あ?何か良い匂いしてんな」

「おや、気付いたかい奴さん?そうだなぁ……今度一杯奢ってくれるなら、特別にご馳走してやろう。フッフッフ」

「だから何だその喋り方は」


 どこぞの呑み屋で馴れ馴れしくしてくるオッサンごっこか。だが、かまくらの中で熱いもんを食うっていうのも乙だよな。どれ、口車にはノってやろう。邪魔することにして、沙生の向かい側に腰かける。
 沙生はにこにこしながら、火にかけている鍋の蓋を開けた。ぼわりと白い湯気がたちのぼる。中身がよく見えねぇ。ぱっぱと手で払って晴らすと、肉や野菜がぐつぐつと音をたてて旨そうに煮えていた。


「おっ、こりゃあ味噌鍋か。あったまりそうだな」

「ふふん、ただの味噌鍋じゃあないんだなこれが……なんと金ごま入りだ!」

「やったぜ!!」


 っと。こいつにつられて何だか俺まで変な調子になっちまった。沙生はでかい木製のおたま杓子で具を軽くかき混ぜ、椀によそって寄越してくれた。


「さあどうぞ召し上がれ。驚きの旨さにうち震えろ!」

「いただきます。……ずずっ……はふ。ん!うめぇ!!」

「そうだろうそうだろう!」


 なんかもうこいつ、誰の真似なのかすら分からんな。どうしたよ。まぁ、かまくら飯ともなると特別感ではしゃいじまうのはちょっと分かるけどな。


「味つけは北海道の石狩鍋を参考にしました」

「……ホッカイドー?」

「おやおや奴さん、北海道を知らない?……あー、そうか。そうね、無理もないか」


 えっと。あれだろ。ホッカイドー。ホッカイドー……


「一角は私よりずっと昔の生まれだもんね。現世の蝦夷っていえば分かる?」

「おう、蝦夷は分かるぞ。何だ、名が変わってたのか」

「そ。冬は鮭が命綱だったらしいから石狩鍋も鮭なんだけど、今日のこれは残念ながら豚」

「でも豚も合うぞ。うめぇ」

「それは何より。……あれ、今日って何日だっけ」

「いきなりだな。あぁと、確か26日だ」

「おぉ、じゃあちょうど北海道庁が置かれた日だ」


 もくもくと湯気のあがる鍋を挟んでつつきつつ、俺たちは何の話をしているんだか。いつの間にか口調も戻ってやがるし。しかし瀞霊廷にいると現世のことなんて知る由もないから、知らない話を聞けるのは面白いけどな。現世駐在任務についたとしても、町や村単位の小さな担当地区のことで手いっぱいだと聞く。死神がそこまで広い範囲に目を向けることは、実は中々ないのかもしれない。


「常々思ってたんだけどよ。沙生って生き字引だよな。物知りっつうか、滅多に聞かないような古い言葉使ったりもするし」

「それは爺様の影響かなぁ。爺様は古典芸能好きの読書家でもあったから」

「爺さんか。前に瀞霊廷通信の取材されてたときに脇で少し聞いてたが、道場主だったんだろ」

「うん。だから巣立つ弟子のために情勢把握もしてたんだよね。内乱があると用心棒も出番が増える」


 成程なぁ。こいつの現世での話を聞いていると、どうしてそれほどの剣の腕を持ち、実戦でも物怖じしないのかが分かる。爺さんに教わって、幼い頃から難しいことも当たり前のように見聞きして育ったんだろうな。……出汁と味噌のしみたネギ、うまっ。


「うちの道場のお弟子さんにも北海道出身がいたんだよ。家族が死んじゃったから親戚を頼って本州に来たんだけど、何年かしてその親戚も死んじゃったらしくて。食い扶持ぶちがなくて山で行き倒れてたのを爺様が拾ったの」

「何だそりゃ散々じゃねぇか。それに拾ったって、犬猫じゃねぇんだからよ」

「すっかり痩せてて可哀想だったよ。でも逞たくましく成長して、立派に都に出ていったの。今頃はもう三十路手前かなぁ……」

「……聞いたらしんみりしちまったな。そいつ、元気でやってると良いな」

「うん……そうだね。あっ、おかわりするのに汁もわけるなら、はいこれ」

「おう。悪いな」


 それにしてもこれ、うまいな。鍋のシメはうどんだろうか。雑炊だろうか。汁たっぷり飲みながら食っちまっても良い気はするが。……ところで、沙生はこの量を一人で食う気だったのか?確実に二人前以上はあるぞ?


「なぁ、誰か呼んであるのか?」

「まぁね。味噌味にしようって言ったのも――あ、来た!」

「藁沓が見当たらなくて。遅くなりましたこんばんは〜……あれ、斑目三席!いらっしゃいませ!」

「……それは外にいるやつが言う台詞か?」


 やって来たのは沙生と同期のウチの平隊士、金矢だった。ここまで来るのに冷えたのか、鼻が赤い。腕の中には米櫃こめびつ、卵、牛乳を抱えている。そうなるとシメは雑炊か。肉でエノキを包んで口に放り込む。うん、うめぇ!


「ほら、金矢も座って。よそったげる」

「どうも!あ、もう牛乳いれていいですか?」

「はぁ!?鍋に牛乳だぁ?お前それ、そのまま飲むのに持ってきたんじゃねぇのかよ」


 信じられなくて、ついでかい声が出ちまった。沙生も金矢も「えっ」と困惑したように固まって俺を見ている。ところが金矢はこちらを見ながら腕だけ動かし、とくとくと牛乳を味噌鍋に注ぎやがった!


「やりやがっ……おい、どうすんだよこれ!?」

「どうって、更に美味しくなるだけですよ」
「ちょっと塩たしとくね」
「はい、ありがとうございます」

「は……」

「食べてみれば分かりますって!」
「味噌と牛乳の相性の良さに戦慄おののくがいい!」


 二人はキラキラとした目で俺を見つめ、椀をずずいと差し出してきた。……食いもんに牛乳って、嫌な予感しかしねぇんだが……その期待する眼差しはやめろ……おい…………くそ、ええいままよ!俺は椀の中身を一気にかき込んだ。


「……? ?? 何だコレうめぇ!!!」

「「そうでしょうそうでしょう!!」」

雪時雨の宿


 金カムのアニメを見た影響ではない。決してない。金矢はモブから大躍進、拍手お礼文にまで出張ってきました。これから執筆予定の本編23話から始まる合同遠征篇でもちょっと頑張るみたいです。主人公さんにとってもここからが第一章の山場となります。
 これを書いている今、窓の外は真っ白です。烏や雀がちらほら飛んでいますが、食べ物を探すのは大変でしょうね……。現代の人間は季節外れの野菜や果物も簡単に手に入るのですから、幸せですね。

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5/12/72
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