さすがさすへとじゅずつなぎ
とぼとぼ。一度来た道を戻り、そうして見えてきた三叉路の左右に交互に視線を注いでいく。風情もなく代り映えしない白黒の殺風景。慣れない土地まで足を伸ばしていた阿近は、今まさに岐路に立っていた。
「方角は分かるんだけどな……どうしてこう入り組んでるのに案内板すらないんだか……」
先週よりも分厚くなったDリングバインダーを両手で持って歩き回り、途方に暮れる。あまり認めたくはないが……迷子だ。科学数学や霊具開発の道においては迷いない彼だが、何事も万能に熟せるほど物事に通達しているかというと然にもあらず。なにせ彼はまだ少年である。
路地を挟んでずっと続いている漆喰の塗り壁は、平均身長の大人にとっては自身の二倍もない高さだが、阿近にとっては三倍近く、普通に跳んだくらいでは天辺の
途方に暮れるというか、途中で更けたというか。調べ物に夢中になり過ぎて帰るのが遅くなったというか、帰ろうとするのが遅かったというか。もうとっぷり夜だ。道を尋ねようにも人っ子一人いやしない。今再び、阿近の脳内では海燕が「言うこと聞かねぇ寝ない子だからこうなるんだぜ〜や〜い」とか言いながらゲラゲラ笑っている。疲れているのに無駄な想像に労力を割いてしまってキレそうだ。そのとき、阿近の視線の先をとある人影が横切って行った。
――今の……十二番隊のやつ、だよな?
見間違いでなければ、そのはずだ。技術開発局の局員であれば一目見れば誰か分かる自信もあるが、今のはおそらく一般隊士だった。普段あまり局には出入りせず、十二番隊舎の平常な区画で通常事務を担っている、中堅の人。仕事で幾度か事務的な会話をしただけの間柄だが、一応は同じ隊に所属している先輩だ。頼めば一緒に帰るくらいはしてくれるだろう。
走って行ってしまったその背を見失わないように、阿近も駆け足で後を追う。その先がとんだ道ならぬ渦の中へ続いているとも知らずに。
十番隊舎、執務室。
一心は指でちょいちょいと鼻尖を掻きながら、突然の来訪者と目を合わせた。……小さい。本人が何だか堂々としているからやや大きいように錯覚するが、改めて見ると自分より一尺くらい小さい。
先の合同遠征にて知り合った、刑軍かつ二番隊の
「“ちょっとした捕り物”って?
「そんなんだったら良かったんスけどね。時間ないんで単直入刀に言いますけど」
「単刀直入な」
「あれっ?んじゃあ単刀直入に言いますけど」
と言っておきながら、言う前に太は自身の左腕を一心の右腕にグイと組ませて、瞬歩で執務室の外へと連れ出した。一心は不意を衝かれて無抵抗のまま、真っ暗い廊下をビュンと引っ張られていく。
「今から悪者が沙生ちゃん攫いに来るんで、まずは攫わせます」
「まずは攫わせます!?」
――――――
――まず、事の始まりは
六番隊隊士の
京楽にも伝えた通り、綱彌代はまだ「楠山沙生は志波天鷹の子である」とまでは掴んでいない。この秘密を知る者は、逆藤が把握している範囲で確実なのは卯ノ花烈、曳舟桐生、
ならば、綱彌代はどうして「楠山沙生は異質である」と思い、彼女に手を伸ばしてきているのか。
――それは多分、あの子が
“元来の異質さ”を持つ者を効率よく見出すために、“視察”の名目で綱彌代の手の者が毎年送り込まれても怪しまれない絶好の選別場。
――あの子はいつか死神になるとは思っていたが、“真央霊術院”って道程を丸々スッ飛ばしてきたのは想定外だったな。そんなところまで天鷹様と同じにならなくても良かったでしょ、ふふ……って、笑ってる場合じゃないよ、俺。
逆藤にとって、それは
当然の大前提として、沙生には現世で長生きしてほしかった。名付け親である浮竹も心からそう願っていたし、浦原喜助と秘密裏に協力して張っていたという
而してしかし、逆藤という男にとっては「あの子が不慮の事故で命を落とす」というのは想定内だった。
――したいことよりすべきことを。
沙生の幸せを願っておきながら沙生が死んだ時のための用意を万端に整えておくことは、きっと浮竹には難しい。彼は優しすぎるから、そんな
それでも、人は死ぬときは死ぬ。だからあの日、浮竹が海燕達を現世に向かわせてすぐ、逆藤は裏でたった一人、誰とも違う方を向いて、
「はい次どうぞ、西ね」
前以って用意しておいた『西ノ三』の木札を、沙生に手渡した。
全部が無駄骨に終わることを願いながらそうした逆藤の前に、天鷹に似た
そうして沙生は、人知れず逆藤に導かれる形で、
――あの子が死神にならなくても、それでも良かった。でも、もしも志すのなら、力になってあげたかった。元よりお天道様の下を堂々と歩けない身の上では、影ながら応援することしか出来なかったけどね。
沙生は死神を志した。お互いが恩人というあたたかい縁で結ばれた“死神さんたち”の言葉を切っ掛けとして、彼らや六車拳西のように「人を護って戦える死神になりたい」と自らの心を決めた。そして死神になるためにまずは真央霊術院への入学を目指し、鯉伏から旅立った。そこまでは良かった。
――なんで、どうしてこうなったんだか!
いつかに
そう、沙生は真央霊術院の入学試験の前に護廷十三隊の入隊試験を受けてしまった。これが逆藤唯一最大の誤算であり一生の不覚、千慮の一失というやつだった。
彼女は恐らく綱彌代の“視察”の目前で
彼女はよりによって斬術の試験中に更木に乱入され、そこで斬魄刀の未熟な力を開放――否、彼女の
以上が、これまで逆藤が独自にこそこそ骨々調べてきた情報と、先刻半分酔っ払いの京楽が話してくれた入隊試験の顛末と、先週死神の墓場で会ったときに(逆藤をお化けだと思って死ぬほど驚いていた)海燕から聞き出した話とを骨子としてトコトンまで彫り通し、逆藤が導きだした
――あとは
ここに来て、彼もまた岐路に立つ。逆藤の視線の先をとある人影が二つ続けて横切って行った。
――今の……今年度の入隊試験の試験官名簿に名前があった十二番隊のやつ……と、追って行ったのは技術開発局のたしか阿近くん、だよな?
確信はない。だが、彼の勘は告げている。いま目と鼻の先を
その背に付かず離れずで、逆藤はこそこそと後をつける。その先が
――――――
「……そうか、尾焼津亢夜は死んだか……くはッ、クハハハ……!」
虎の穴に潜り込ませている鼠が去り、独りになった時灘は、また笑う、嗤う、嘲笑う。その様をこそ、
いつかその事に気付く時が来たら、時灘はいったいどんな反応をするだろう――?
おかしい、と大笑するだろうか。
つまらない、と冷笑するだろうか。
無駄なことを、と憫笑するだろうか。
それはまだ誰にも分からない。未来のことなど人には分からない。果たして時の灘の流れつく先には、
――――――――――――
――――――
―――
…
「キハ、キハハハハハハ! あーヘンなの! 沙生ちゃんの周りって変わり者ばっかりだ! モチロン剣の字と私も含めてね? キハハハヒハ! こりゃこの先百年は退屈しないぜ!」
「……静かにしろ。百年は黙っていろ」
「それにしても、まさか
「…………」
「なぁ剣の字、女性棟を無暗に覗くのは変態だからって自重してたのちょっと後悔してるんじゃない? 可愛い赤ちゃんだった頃の沙生ちゃんのこと、もっとよく見ておくんだったー! ってか!? キャハハッ!」
「口を閉じろ。私は無駄な後悔などしない」
「キヒ、はいはい! 無駄なモンは私に寄越しな! 何だろうとぜぇんぶ貰っといてやるよ! なんたって私は無駄が大好きだからね! キハハハハハハ! ……ところでさぁ? 沙生ちゃんが
「……知るものか。考えても無駄なことだ」
…
―――
――――――
――――――――――――
「全ッ然意味わからんわ!なんで楠山をそんな無駄に危険に
一心は太に組まれた腕を振り
「無駄じゃないっスよ。あとオレ、太っス。そっちで呼んじゃあくれませんかね?」
互いに
「でもオレよりまず沙生ちゃんが先か。名前で呼んであげてくださいよ」
「そんなのどっちだっていいだろ!!それよりお前ちゃんと説明――」
「よくないっスよ。全然よくないっス!!」
太は一心の怒声に負けじと声を張った。
「志波隊長、アンタ中途半端なんスよ!!」
「なんだと!?」
「知らなかった志波副隊長はともかく、アンタは知ってたんスよね?しかも最初っから!なのにその態度は何なんスか!」
「オっ、お前の方が何なんだよその態度!」
「
「なにをぅ!?」
「アンタ、今生きて沙生ちゃんの側にいてやれる人間の中で一番近い身内!み・う・ち!義理じゃない、血ぃ繋がってる家族!か・ぞ・く!」
「んなッ……!おま、それ……そ、そうだけど!そりゃそうだけど!」
一心は自分が太に怒っていた事などもうすっかり頭から抜け落ちて、覇気もなくしてタジタジになる。太が「何をどこまで知っているのか」。そんなのはもう、さっき目玉を指差してみせた仕草と今の会話で殆ど見えた。一心が沙生に関して知っている情報なんてそう多くない。きっと太の方が通じている。太が一心に何か隠す事はあっても、その逆は通じないことだろう。
「『そう
「ナニ!?な、何っつわれても……!」
自分よりも一尺も小さい男から叱責を受けて気圧されながら、そのこと自体を悔しいだとか心外だとかは思わなかった。それどころか、悔しいくらい「尤もだ」と得心してしまった。
してしまったのと同時に、一心の拳からは自然と力が抜けていく。太の胸倉からするりと離れていくところだったが、太の方がまだ放してくれない。ぎゅっと掴まれている。
夕方にもこんな風にされたばっかりだったっけ――一心の脳裏には沙生の悪戯っぽい笑みが浮かび、耳にはあの真黒い滝の音がそら走る。
「家族みんな死んだとか、家族みんな殺されたとか、家族みんな置いてきたとか。本当の家族なんて顔も知らないとかも、世の中ザラっスよ。義理の関係が血縁より軽いとか浅いとかそんなん言うつもりもないっスけど、そんでも沙生ちゃんには折角アンタがいるんスから」
「そう、だな……あー……そう
「仲の良さとか深さとか抜きにしても当たり前みたいに名前で呼べるってのァ、家族の特権っスよ。呼べるやつが呼んでやらないでどうするんスか」
「……そうだなぁ。もうお前の言うことにゃ『そうだよな』しか言えねぇよ。完敗だわ」
「ッへへ、別に勝ち負けの話じゃなかったと思うんスけど」
「ばぁーか。完璧に言い負かされてんだよこっちは」
今度こそは太も力を抜いて手を放した。苦笑いして
「じゃ、あともう少し猶予もありそうなんで、改めてサクッと説明します」
「おう」
「御存知の通り、沙生ちゃんにはチョット特別な力があるんで、それ目当ての悪者がこれから誘拐しに来ます」
「それって…斬魄刀ナシで……とかの?」
「はい御名答。それが単独犯ならオレだけで
「複数犯?」
「それも一族郎党とかそういう規模」
「ヤバくね?」
「ヤバいっス。でも頭っから全投入はされないんで」
「そうなの?」
「そりゃそうっしょ。身ぃ切るのに尻尾だけで済むんなら誰だってそうしますって」
「そっか」
「なンで敢えてまずは攫わせて、追いながら削っていきやしょう。一回沙生ちゃん持って行かせりゃ、敵サンはそれで引っ込みつかなくなりますから。モタつけばモタつくほど追加で手とか足とか出してくるはずっス。末端だけ仕留めても後でまた面倒になると思うんで、
「なーる?お前ってもしかしてアタマ良い?」
「どうスかね?何を基準にするかで変わると思いますけど。まぁオレってば忍びの申し子みたいなもんなんで、コッチの方面はね」
「さすが太。サステン。頼りになりそう」
「こちらこそ頼りにしてるっス。今夜たまたま沙生ちゃんが十番隊舎に来てなくても、隊長格にご協力
「マジで?あんがと。でもそれを言うなら煽るじゃなくて
「あッはは、大ハズレって程じゃないし、いつも惜しいとこまでいくんスけど……ま、今後もオレが変なこと言ってたら教えてくださいよ」
「はいはい。でもホントにナンデ俺?隊長としちゃぺーぺーなんだケド。当たるんならまず砕蜂とか、京楽さんとかさァ」
「
「褒めてんだよな?」
太は笑って「モチロン」とおちゃらけたように敬礼した。一心も同じようにしてみる。確かに話しやすい、と思った。こういうのを意気投合というのだろう。横に並べば
それは何故かと考えてみて、一心は意外とすぐにピンときた。少し前まであんなに眠たかったのに、何だか冴えている。
今、こいつとは目的を同じくしている。『沙生を護る』。自分は何が何でもそうするんだという“覚悟”を決めている。誰かに課せられたわけではないが、かといって「頼まれもしないのに」というわけでもない。『沙生を護ってくれ』と、誰かに代わりを託されたような気持ちが、強く胸の中にある。
――俺の場合は、あいつの親父。天鷹の伯父貴から。
「……なぁ、お前は何でそこまでしてあいつのこと護ろうとしてくれんの?同期っつっても、霊術院の同級生でも元からのダチでも何でもないだろ?」
「訊かれりゃ教えるって言っちゃいましたからね。……でもゼッタイ誰にも言わないでくださいよ?オレ、これまだマジで誰にも言ったことないんスから」
また一段と強く目と目が合った。その目に裏はない。奥の方には、同じ志の火が
「
「誰?ひでり」
「沙生ちゃんの爺ちゃん」
――なーんだ、やっぱりそうなんじゃん。俺の“何となくの鋭さ”、案外馬鹿にできないもんだろ?な?分かったかよ楠山。……いや、違うな。沙生、か。
「へーぇ……それって現世の人間の、だよな?」
「そっス。沙生ちゃんと命日一緒の」
「……どういうご関係?」
「べつに、赤の他人っちゃ他人ですし、トクベツ何かあるわけでもねっスよ」
「それにしちゃお前、義理堅すぎじゃない?」
「そう?ま、オレってば爺ちゃん子っスから!旱の爺ちゃん、オレの流魂街の爺ちゃんに雰囲気似てたんスよねぇ。それに“
「なによ……ただの良いやつじゃんサステン……このお人好し」
「アンタがそれ言います?鏡でも持ってきてやりぁしょうか?」
――――――
――鏡花水月。
沙生曰く「最高にずるい能力」である斬魄刀の方はひとまず脇に措いていただき、本来の意味である「儚い幻」という
そのように可憐で繊細な比喩など到底似合わない中年男性の背中を見て、ひらひらとその言葉が頭の中に降ってきたのは、何故だろう。
「あの……どうも、こんばんは」
「――? ……ああ、阿近殿。こんな夜分に、こんな所まで。私に何かご用でしたか?……申し訳ありません、声を掛けていただくまで気が付きませんでした」
十二番隊の先輩隊士である男は、事務員らしい度の強そうな眼鏡の
阿近がその男の背中に声を掛けたのは、彼が
「静かな夜ですね。月も、空気も綺麗です。……ここで殺され、亡くなった方々は、最期にどのような景色をその目に焼き付けたのでしょうか」
「……? 何を言って……」
「阿近殿は将来有望な研究員です。こんな末路で、こんな莫迦なことで貴方を失ってしまっては、曳舟隊長が土台を固められ、浦原隊長が創設された技術開発局の未来も心配になります。涅局長は、ちょっと……アレですからね」
「だから、何を――」
「申し開きの仕様もございません。私は、ただの使い捨ての鉄砲玉に過ぎません。仮にここで引き返し、お
「なッ……ちょっと……!」
男の背後、阿近の正面にある空間――正確にはその
静かな夜が一転する。重い足音、障る羽音、猛る咆哮。おどろおどろしく、芯から恐怖を溢れさせるような嫌な圧力が阿近を抑えつけた。
「嘘だろ、どうしてそんな所から
「……ここはかつての処刑場跡です。殺さず連れ帰った虚を穴の中に放ち、罪人と戦わせる……実に悪趣味だ。現在は廃れている悪習とはいえ、瀞霊廷の貴族とは鬼か悪魔か、何なのでしょうね」
「処刑場……?」
阿近の脳内で警鐘が鳴る。瀞霊廷内で虚の霊圧を直に感じるという異常。霊波計測に携わる者としては特筆して“強力”と付ける位ではないが、研究室で観測するのと実際に肌身を刺されるのとでは大違いだった。討伐現場の死神とは、皆この恐怖とも戦っているのかと、新たな知見を得た。
寸前までは、虚の霊圧など全く感じられなかったのに。どういう理屈で、どういう方法で?……生命の危機に直面しながら、阿近の研究者としての性はちっとも自重してくれない。次々と疑問が湧いてくる。しかしそれを悠長に考察している暇はない。過去の処刑場跡だという穴の底から、飛行能力のある虚が一体、その異形を
だというのに、男はその場から一歩も動かないまま、阿近にか、瀞霊廷にか、虚ろな目をして語り続ける。
「史跡として遺しているのかもしれないが、此処から何を学べというのか……私たちは生まれたときから残酷な歴史の上に立たされているのだと思い知らされたところで、何を変えられもしないのに。過ちを繰り返さないため?……白々しい。黒い歴史は消し去らないと、こうしてまた後ろ暗いことに悪用されるのです」
「おい!後ろ!!」
阿近は男に向かって叫んだ。状況の全てが理解できた訳ではなかったが、男を止めてやらなければいけない気がした。阿近に虚をけしかけるつもりではなかったようだし、喜んでこんなことをしているようには見えなかった。そして何より、目の前で知人が自殺しようとしているのに黙殺することなど出来なかった。阿近は両手で持っていたDリングバインダーを放り投げ、男に向かって手を伸ばす。
だが、届かない。男の背後に滞空する玉虫色の甲虫型虚が、
「破道の四!『
光る白線の破道が空を走り、虚の手先を誤らせた。男の首は繋がっている。阿近は聞き覚えのない第三者の声に目を開き、放たれたばかりの破道の残滓を辿ってその姿を捕捉した。この処刑場跡の左右に立つ無機質な高台のうち
「さてと、ちょっかい出してみたはいいが……どうするかな、はは」
横槍を入れられた虚は、ギィギィと声を上げて矛先を変える。高台よりも上方へ飛んでいき、口から霊力の塊を吐き出して妨害者を攻撃し始めた。派手さも威力も
虚の連続攻撃が一旦止むと、彼は高台から阿近の前に飛び降りてきた。膝の曲げを上手く使い、音もほぼ立てず、軽やかに着地してみせる。
「三秒、また目を瞑っていてくれるかい」
虚と戦闘中だとはとても思えない、穏やかな声を発した彼と視線が絡む。阿近に向けられたのは、海のように青い死神の目だった。
「いい子だ」
………三秒。上空をそこそこ強い虚が飛んでいるこの状況で目を瞑ることは、まず思うよりも怖いことだ。が、阿近は自分でも不思議なくらい、素直に彼の言う事に従っていた。
三秒経ってから再び目を開いてみると、
そして彼はまた瞬歩で阿近の前に立った。但し、今度はこちらに背を向けて。
「『白雷』」
寝かせてきた男から虚の意識を逸らすためにか、彼は先程と同じ破道を虚に向けて放った。しかし先程よりも弱い。遠距離からの低級破道、それも詠唱破棄となると威嚇が精々だ。手品用の拳銃で撃ったみたいなそれを悠々と躱した虚は、こちらを馬鹿にするように変に腰を振って踊り始めた。
「君、ここは俺に任せちゃってもいいよ」
「……え、でも」
「はは、頼りない?」
「えっと……」
「まぁね。あっちでるんるん踊ってる虚にも、食いでのない死神が来たと思われてそうだ」
「いや、そんな……」
助けに入ってもらった手前きっぱり失礼を言うのも
「その……帰り道に迷ってるとこでしたんで。逃げてもどうせ袋小路でしょうから、案内してくれそうな人を置いて行ったりはしませんよ」
「おやまぁ、気を遣わせてしまったかな。ありがとうね、優しい迷子の阿近くん」
「? 俺の名前……」
「最近あっちこっち図書館とか回ってるでしょ。俺も調べ物が趣味でね。君が甘竹といるところも何度か見かけたし、まぁ名前くらい自然と聞こえてきた」
「甘竹さんのお知り合いですか。失礼ですが、貴方は……?」
どこで覚えてきたのだか、上空の虚はお次はちょちょんがちょんと踊って馬鹿にしてくる。阿近はまあムカついたが、あの高さから攻撃されまくっても今は困るので都合がいい。本格的におっ
青瞳の彼もそう判断したのか、こちらを見返り、虚をちょっと尻目に懸けながら自己紹介をしてくれた。
「こちらこそ名乗りもせず。六番隊隊士の逆藤公彦です」
それは、この