この袖から覗く指先。(洪・普)
「あー・・・とりあえずこれ着とけ」
不器用に渡されたジャケットに渋々袖を通す。
「ぶかぶかなんですけど」
「男物なんだから当たり前だろうが」
「そりゃそうだけどさ・・・」
あの頃は私の方が背が高かった。
それに、何をするにも張り合ってた。
「なんか・・・」
「なんか?」
このもやもや感はなんと言えばいいのだろう。
ジャケットの袖に隠れた指先を見ながら考える。
たとえば、この袖から指先が見えれば答えが出るだろうか?
たとえば、この肩が余らなかったら何かが違っただろうか?
「なんで男の子じゃないんだろうなぁって」
そうだ。
私は、男の子になりたかった。
「男の子だったら良かったのにって、今でもたまに思っちゃうんだよね」
そしたら、このジャケットもぴったりだっただろう。
そしたら、今でもこいつとくだらないことを張り合っていたのだろう。
「お前が男だったら、こんな風にお前に触れらんないだろうが」
でも、心底呆れた顔で私の頬に触れるこの男の手は案外好きなのだ。
それに、
そもそも私が男の子だったらあいつがジャケットを羽織らせてくれることはなかっただろう。
「確かにそうね、」
そう。
男の子になりたかったのはもうほんの昔のこと。