その瞳の先にあるものを。(アスアド)
有体にいえば、それは単なる一目惚れ。
あの日の俺にはあの方のすべてが輝いて見えた。
俺には故郷を失ったあの方の気持ちは分からない。
俺には親兄弟を失ったあの方の気持ちは分からない。
俺には故郷があるから。
俺には親兄弟がいるから。
それでも想像することは出来る。
きっと辛い。
きっと苦しい。
きっと悲しい。
そんな負の感情で胸はいっぱいでやりきれないくらい苦しい。
いや、
こうやって言葉にしようとしている時点で俺にはあの方の気持ちは理解できていないんだろう。
それでもあの方は先陣を切っていた。
それでもあの方は前だけを向いていた。
背筋を伸ばし、前を見据え、凛とした表情で。
きっと辛いのに。
きっと苦しいのに。
きっと悲しいのに。
そんな素振りなんか微塵も見せずにあの方はそこにいた。
その強さに俺は惹かれた。
その輝きに俺は惹かれた。
有体にいえば、それは単なる一目惚れだ。
だが、あの方がそのまま輝いていられるようにしたいと思ったことも本当なんだ。