狂王子の悲哀と螢の光
その少年は未来を見据える強い光を瞳に宿していた。
両親を愛し、尊敬していた。
祖国を愛し、いつかその手で守ることを夢見ていた。
いつからだろうか?
少年が「狂王子」と呼ばれるようになったのは。
今やその瞳には狂気の光が宿り、見るもの全てを敵と成す。
その怒りは誰のため?
その憎しみは誰のせい?
強すぎる力はいつかその身を焼くだろう。
しかし最早、「狂王子」を止める者はいない。
かつて少年が愛した父でさえ。
今は亡き母の面影を持つ妹でさえ。
未来に瞳を輝かせたあの少年はもういない。
ここにいるのは白銀の狼。
その目に狂気の光を宿し、
その牙に血を滴らせ、
その爪に人の魂を狩る。
ここにいるのは、「狂王子」
狩らなければ、狩られるぞ。
矢を番え、弓を引く兵の前を淡い淡い螢の光が横切った。