月夜に女は何を思う
その女は「始祖」と呼ばれていた。
外見だけを見てその意味に気付く者は少ないだろう。
少女、言っても通るだろう。
月の光を具現化したかのような銀の髪。
病的なまでに白い肌。
唯一色をたたえているのは、血のように赤い両の瞳。
信じられるか?
この美しい少女が血を啜り生きる闇の者どもの始祖であると言うことが。
少女をそうしたのは『月』
闇から生まれ、闇夜を照らすただ一つの存在。
日の下に生まれし『太陽』と対を成すただ一つの存在。
月を眺める少女の瞳はどこまでも冷たい。
日の下へは二度と戻れぬ悲しみと、
失ったたくさんの者への悲しみと、
共に歩む者はもういないという絶望。
月夜に女は何を想うのだろうか?