あいつが帰ってくるわけじゃない

あの時のエルフの少年の気持ちが今なら分かる気がした。
 
早くに母を亡くした僕にとって、彼は母代わりの存在だった。
物心が付いたときにはいつだって彼は傍にいてくれた。
 
花将軍の治めるクナン地方。
 
薄暗い牢獄の中、
重く冷たいその扉が再び開かれたとき。
そこにあったのは彼のほっとしたような顔ではなかった。
 
形を無くした緑色の外套。
持ち主のいない戦斧。
 
彼が確かにそこにいた証拠は何一つ残されていなかった。
髪の毛一筋さえも。
 
装飾過多な花将軍に対峙したとき、僕以上に他の人が憤っていた。
 
彼の理不尽な死に対して。
 
 
だけど、僕は知っている。
 
彼の死の理由を。
そして、将軍を殺したって何の意味もないことを。
 
やり場のない怒りと喪失感。
 
きっと、あの時のエルフの少年はこんな気持ちだったのだろう。
 
復讐には意味がない。
報復には意味がない。
そんなことしたって、
 
「あいつが帰ってくるわけじゃない」

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