太陽の光をそのまま浴びていたから、突然暗い洞窟に入ると、光量の変化に目がついていけなくて、ふらりと立ち眩みを感じた。それに目敏く気付いたのか、ダイゴさんはさり気無く私の背中に腕を回し、支えてくれた。

「ごめんね、こんなところまで連れてきてしまって。」
「ダイゴさんの好きな場所を、こんなところなんて言ってしまわないでください。」

ダイゴさんのバトルを見てから、私も見よう見まねで野生の弱いポケモンにロゼリアを戦わせてみたりしたけれど、やはりそう簡単にはいかなくて、私の方から途中で逃げてしまったり、ダイゴさんと交代してしまったり。そうこうしている間に、目的地である石の洞窟に到着してしまったのだ。

「ここに来るのは久しぶりなんだ。」

洞窟の岩壁に手を添え、目を輝かせながらそう呟いた。本当に洞窟が好きなんだなあ、と素直に感じていると、ダイゴさんは困ったように眉間に皺を寄せた。

「引いたかな?」
「え?いえ、全然。洞窟がお好きなんですか?」
「いや、石が好きでね。珍しい石を探すのが趣味なんだよ。」

ああ、だから洞窟。石の洞窟は名前からしても、石の産出が多いらしく、確か何かの古い壁画で一躍有名になったんだった。

「石を掘るんですか?」
「うん、そう。以前ここに来た時はかわらずのいしを見付けたんだ!」

まるで子供のようにはしゃぎながら、私に語るその姿は、なんだか可愛らしいものだ。私が保護者のようにニコニコしているのに気付いたのか、ダイゴさんはやってしまった、とでも言うように額に手を添えて、さりげなく顔を隠した。

「ああ、ごめん。石のことになるとつい語ってしまうんだ…。」

恥ずかしそうに頭を掻いて、でも上機嫌そうだった。

「でも分かります。私も花のこと語り始めると止まらなくなるので。好きな物のことなら、いくらでも語れちゃいますよね。」

完璧そうに見えていたダイゴさんと、共通点のようなものを見付けることができて、私も勝手に機嫌がよくなってしまった。昔からの友人とこの間久しぶりに会った時も、近況報告をしているつもりが、いつの間にかその時育てていた花について語ってしまっていた。もちろん友人からは呆れられてしまっている。ダイゴさんにも、そういうことあるのかな、って思うと、案外普通の人のようにも感じられた。

「危ないっ!」

そんなふうに穏やかな雰囲気の中で、暗い通路の先の岩壁の影から、黒い何かが向かってきた。咄嗟に私を庇うようにダイゴさんが一歩前に出た。その時、ダイゴさんと私の背後から、幾つもの葉が飛ぶのが見えた。

「ロゼリア!?」

葉を飛ばしたのは、紛れも無くロゼリアだった。私もダイゴさんも、呆気に取られているうちに、影から現れた姿に、ロゼリアは戦闘態勢に入っていた。

「ヤミラミか。」

ヤミラミと呼ばれたポケモンは、ロゼリアと同じくらいの大きさで、紫色の身体をゆらゆらと揺らしていた。ロゼリアが戦う気になっている。それなのに、私が逃げる訳にはいかないでしょう。

「ロゼリア、どくばり!」

発した毒の針はヤミラミに命中したけれど、さすがにそれだけで倒れてはくれなかった。相手の攻撃を受けながらも、精一杯の攻防を続けた末、ヤミラミが倒れる頃にはロゼリアも息が上がり、疲れを見せていた。満身創痍でも、私たちの初勝利には違いないのだ。

「凄いよロゼリア!よく頑張ったね!」

服が汚れることも考えず、膝をついてロゼリアに抱き着き、頬ずりまでしてしまった。でも隣にダイゴさんがいることを思い出し、慌てて立ち上がって取り乱した気持ちを抑えた。

「凄いね。よくやった。」

ダイゴさんからしてみれば、こんな相手、朝飯前なんだろうけど。そんなふうに自分のことのように喜んでくれるなんて、なんて優しい人なんだろう。初勝利に酔い痴れていると、背後でさっきのヤミラミが動く気配がした。倒れたまま、微かに動いたのか。どうしよう、傷付けたのは私たちだけれど。このまま放っておくにしても、心が痛んだ。こういうのが甘いんだろうけど。

「ロゼちゃん?」

ダイゴさんに後ろで名前を呼ばれるのが聞こえたけれど、居ても立ってもいられなかった。カバンに入れておいたオボンのみを、倒れたままのヤミラミに食べさせてあげた。また襲い掛かってきたらどうしよう、なんて考えもしなかった。

「ダイゴさん、やっぱり私、トレーナーには向いていないんだと思います。」

困り顔で振り返ると、ダイゴさんも同じような顔をしながら息をついた。そんなことない、と彼が言ってくれれば、本当にそうだと思える気がしたのに。でも、ダイゴさんは私の言葉に頷いてしまった。

「そうだね。だってほら、もうヤミラミが懐いてる。」

背後を指差され、ヤミラミの方に向き直ると、少し元気になったのか、もう起き上がって私の方を見上げていた。そして実を食べさせた方の指を、小さな手でさすっている。かわいい、と無意識のうちに本音がこぼれていたのを、ロゼリアは聞き逃さなかったようだ。まるでヤミラミと競い合うように、もう一方の手の指を花でつんつんされた。

「ロゼリアも可愛いよ。」

なんだか、今度は弟ができたみたいだ。ポケモンに懐かれて、嫌だと思う人間なんていないだろう。さっきまで敵だったはずのヤミラミを見て、そんなことを考えた。

「ダイゴさん、そろそろ行きましょう!今日は珍しい石たくさん見付けるんです!」
「はは、気合い入ってるね。」

ロゼリアの初勝利も収められたし、野生のヤミラミにも懐かれたし、やる気が出ないはずがない。ガッツポーズを決め、もう一度気合いを入れたところで、後ろでヤミラミの鳴く声がした。少し寂しげに、首を傾げていた。

「一緒に来る?」

恐る恐る、そう聞いてみると、ヤミラミの表情の変化は全く分からないけれど、とことこと歩いて私の足元まで来て、ゆっくりと頷いてくれた。

「おめでとう。」

涙目になっているのが自分でも分かる。ロゼリアの時とは違って、今度は仲間にしたいと望んでのことだった。あの時とは違って、今は隣にダイゴさんがいる。二人で一緒にこの喜びを分かち合えたのだから、余計に嬉しくて、泣いてしまうのも仕方ないさ。