エアームドが悲しげに鳴いた。僕がガラスケースの中の、昨日採掘してきたばかりの石をずっと眺めているからだろうか。前に採掘した石だって、手入れを怠ることなんてないのに、どうしてかな。昨日の石が、ロゼちゃんと掘った石が、やけに綺麗に見えるんだ。

「あの子、泣いていたな…。」

最後の別れの際、彼女は泣きそうな顔をしていた。それがロゼリアの怪我に対するものではなく、僕に向けられたものだと思うと、この高まる想いはなんなんだろう。この二日間、久しぶりに楽しい想いをした。最近の僕は、疲れていた。

チャンピオンロードを終え、いざ四天王に挑むとなったところで、足が止まった。もちろん僕が負けるなんてことは微塵も考えてはいない。ただ、殿堂入りを果たした先に待っているのは、新チャンピオンの押し潰されるようなプレッシャーと、今のこの自由が失われてしまうという喪失感。毎日毎日、チャンピオンに挑んでくるトレーナーと、しつこいくらい同じことを聞いてくるマスコミの相手。石を求めて出張することも、新種のはがねポケモンを探して飛び回ることも、できなくなってしまうのか。だったら別にチャンピオンになんてならなくて、このまま自由なトレーナーでも、いいのではないか、だなんてね。

「はは、珍しく弱気だったね。」

擦り寄って来たエアームドの頭を撫で、ぽつりと零れた。何となくカイナシティに寄って、目についた花屋で花を買って、偶然その店の子を助けることになって、久しぶりに楽しい一日を楽しめた。この吹っ切れたような気分は、何だろうな。あの花を買ったときに、代わりに迷いが消え去った気分だった。だからリーグに挑む前に、最後に石の洞窟を訪れようと思ったんだ。

きっとロゼちゃんのおかげだ。彼女が好きだと言った花と一緒に、僕は確かに希望をもらった。花瓶に活けた紫色の花を一瞥してから、エアームドと共に扉を開けた。

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ポケモンリーグのタワーの前で、パシャパシャと耳を劈くようなシャッター音と目が眩むようなフラッシュに囲まれ、僕はエアームドの頭を撫でた。やっぱり負けなかった、と誇る自分と、負ければよかったのに、と悔しがる自分が背中合わせで立っている。元チャンピオンと握手を交わし、僕が新たなチャンピオンとなった。この瞬間を、彼女も見てくれているだろうか。今すぐにカイナへ飛んで、君のおかげだと言いたい衝動に駆られた。

「ダイゴ、おめでとう。」

ルネジムのミクリや、四天王のカゲツやフヨウも称賛の言葉を浴びせてくれた。

「あっという間だったな、ダイゴくん!」
「本当によくやったよ、ダイゴ。」

カゲツに背中をバシンと叩かれた後、なぜかミクリに誇らしげに言われ、僕も少し気分がよくなる。なんで君が誇らしげなんだ、と指摘すると、そりゃ自分のことのように嬉しいさ、と更に自慢げに言われてしまった。

「君にレインバッジを授けたとき、いつかこんな日が来ると思っていたんだ。」

彼の情熱的なコメントも、きっとニュースのコメンテーターにいいように使われているんだろうな。実にエレガントだとか実に訳の分からないことを語るミクリを、僕は冷静な目で見ていた。全てのジムリーダーを倒し、チャンピオンロードを終えるまでは、そんなに時間はかからなかった。その後ぶらぶらと地方を飛び回っていたのも、実際のところは数週間だ。世間からしては、最速でチャンピオンに成り上がったとでも思われるのだろう。

「あの、チャンピオンロードを終えてから、少し時間が空いてから挑戦されたとのことなのですが、どうして突然挑戦しようと思ったのですか?」

カメラを持った男性の隣で、マリさんがマイクを僕に向けた。この人はよくジムリーダーの特訓を取材したり、四天王を質問攻めしたりと、僕たちの間ではよく知られる人物だ。きらきらとした瞳で僕の回答を待っている。

「それは…、希望をもらったから、ですかね。」
「希望とは?」
「秘密です。」

口元に人差し指を立て、にこりと笑う。謎めいたコメントに、周りは騒然となった。この画面の向こう側で、彼女が見ていることを心から望む。高揚していた気分が、なんだか穏やかな気分になる。それが顔に出てしまったのか、ミクリは僕の肩に手を置き、「後で詳しく」と囁いた。

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手続きだとか説明を受けた後、僕はトクサネシティの自宅でゆっくりした。かったはずなのに。リビングのテーブルの向かいに座ってニコニコと微笑むミクリに、げんなりとした。

「で、何があったんだ?」
「別に何もないよ。」

突然ミクリが来たからか、いつも家にいて静かなココドラが落ち着きを失い、そわそわしていた。客が来たんだからコーヒーくらい出せなんて、よくもまあ図々しく言えたものだ。やかんからカップにお湯を注ぎ、少々乱暴にミクリの前に置いた。

「石にしか興味を持たなかったダイゴが、花を飾るなんてね。」

目敏く見付けたのか、窓際に置いてある花瓶を見つめながら、ミクリは言った。コーヒーの香りがリビングに漂う。優雅な時間のはずが、どうしてこうなった。

「知り合いにもらったんだよ。」
「それで、希望?」

なぜか自信満々にそう言われ、気恥ずかしさを感じる。こいつの前であんなことを言うんじゃなかった。ため息をついて、頭痛さえも感じさせそうなミクリの楽しそうな顔に、僕は額に手を添えた。

「前に言っていた縁談は?」
「あれは断るよ。父が勝手に言ってるだけだ。」
「じゃあ、本気なのか?」

核心に迫るような問い掛けに、僕は口を閉ざした。何が本気なものか。別に彼女とは、もう会うことだってないだろうし。ただの花屋の店員だ。大抵のものはミナモデパートで買えるし、カイナに行く必要もない。それでも、彼女の好きな花は、あそこでしか買えないのか。太陽に恵まれる港町で花を売る彼女に、無意識のうちに想いを馳せていた。