花火の入ったビニール袋を揺らしながら、二人で学校に戻る。クロくんが言った通り近くのコンビニに季節外れの花火なんて売ってる訳なくて、みんなを誘ってしまった手前、手ぶらで帰る訳にも行かず途方に暮れたていたところ。前方に薄暗い光が目に入った。それは個人で経営しているような小さな小売店だった。おじさんが一人で店仕舞いをしようとしているのを見付け、二人で慌てて扉を潜った。

結局、花火は入手することができた。おじさんに、シケってるかもしれないから、と若干の値引きをしてもらって。季節外れの手持ち花火のパックを両手で抱え込み、クロくんの隣で軽やかなステップを踏んだ。

「楽しそうだな。」

唇の片方だけ釣り上げ、クロくんはいつもの笑みを浮かべながらそんなことを言う。そんな、当たり前なことを。クロくんの隣を歩き、これからみんなで一緒に囲む季節外れの花火を心待ちにして、楽しくない訳がないじゃないか。クロくんは楽しくないの?と唇を尖らせて下から覗き込めば、彼は顔に皺を寄せて笑うことを、私は知っている。

「決まってんだろ。」

これが最後の合同合宿。確かに、この楽しくて仕方のないバレー部という環境はもうすぐ終わってしまうかもしれない。それならば、今まで以上に、最後までありったけの楽しい思い出を作りたい。切なく胸が締め付けられもするし、うきうき心躍りもする。そんな相反する想いを胸に、花火の入ったビニール袋を大事に抱え、足早に学校までの帰路へと就いた。

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森然の校舎がある丘の麓へと到着し、気怠くなるような階段を前に溜息をこぼす。街灯の少ない道路の上で、古びた校舎から明かりが漏れていた。きっと玄関で木兎たち賑やか担当が待ち構えているに違いない。と、思いながらそびえ立つ階段を見上げた時、手すりの向こうで動く人影が二つ、視界に飛び込んできた。

「おっせーよ!黒尾!」
「遅いっすよ!黒尾さん!」

私たちの足がついている一番下の段まで下りてきて、腕に抱えていたビニール袋を掻っ攫って、そのまま黒尾くんの腕を引く人影。二人して同じようなことを口にしたのは、まさに玄関で待ち侘びているであろうと予想していた賑やか担当の木兎と灰羽くんだった。

「待ちくたびれましたよ!」

遠慮なく言ってのける灰羽くん。なんだか烏野の日向くんを彷彿とさせる言動に、懐かしい思い出が甦って胸が温まった。

「あ、お前ら!あんまり夜に外で騒ぐなよ!」

二人に両腕を引っ張られ、そのまま階段を上っていくクロくんは、木兎がまるで言いそうにない何とも部長らしいことを言っている。こっちはなんか、澤村くんみたい。今ここにいない高校のメンバーに想いを馳せ、また胸が苦しくなる。「お前ら引っ張るなよ!」と顔をしかめながら、階段を駆け上っていくクロくん。そして更に上の方で、薄暗くて姿は見えないけど面白がって「おい!二人の邪魔すんなよ!」とお節介な声を上げているのは、きっと木葉。「クロさん、手繋ぎました!?」なんて面白おかしく声を弾ませたのは、きっと山本くん。楽しかった。本当に楽しかった。これで、最後。振り切るように私も彼らの後を追って、森然高校の階段を駆け上った。

「名前、おかえり。」

てっきり賑やか担当だけが校舎から出て来ていたのかと思ったら、どうやら参加する全員がもう既に靴を履いて玄関口に集まっているらしい。はあはあ息を上げながら階段を上った先で待っていた、かおりや雪絵、そしてマネージャーの仲間たちの顔を見て、余計に涙が溢れそうになった。そんな私の心情には気付く余地もなく、二人も先ほどの木兎と灰羽くんのように私の両腕を掴み、準備がしてあるという体育館の裏へと引っ張って行った。

「では、満を持して!着火!」

バーベキューのときに使用したチャッカマンも無事見つけたようだ。想像通りと言うか、木兎が誰よりも先に開封し一番大きな置き型の花火に向けて火を着けようとしていた。シケっている可能性があるからと言って値引きしてもらったけど、少し勢いが弱いかなという程度で、それはこの肌寒い季節には満足できるレベルの花火だった。噴水のように筒から湧き出る火花の周りで、離れろ離れろと男子たちは楽しげに騒いでいる。その中で一際輝いていて見えたクロくんの屈託のない笑みに胸が小さく音を立て、脳みそが「どっぷり恋愛中」の警鐘を鳴らしていることに気が付いた。他の面々も小さな手持ち花火に次々に火を灯し、シュワシュワと音を上げている。一人で恥ずかしくなり、誤魔化すように私も一本手に取った。

「苗字、火いる?」

さっきまで子供のようにはしゃいでいたクロくんが、いつの間にか隣にいて花火を少しこちらに向けていた。先から細かな閃光を散らしている。

「ありがとう!」

木兎たちが持ち回しているのか、チャッカマンも近くに見当たらず、素直にクロくんの持つ手持ち花火に私のを近付け、火をお裾分けしてもらった。

「…綺麗」

パチパチと眩く火花を散らす花火にぽつりと溢れた感想に、クロくんは静かに「そだな」と続けた。今、何を考えているんだろう。弱々しく今にも消えてしまいそうな閃光を見つめて、鋭く目を細め、何を思っているんだろう。その横顔があまりに真剣に見えて、私は声を掛けるのに躊躇してしまう。そのままチラチラと横目でクロくんの様子を伺ってると、その視線に気付いたのか、こちらを向いて今度は優しく目を細めた。途端に心が警鐘を上げる。胸の内側が暖色に染められていく気分。

「なんだよ?」
「なんでもない!」

そんなやり取りをしている間に、花火は静かに火を落とした。地面にポトリと落ちた火薬の残りも、次第に光を失った。その情景に、先程暖色で染められた心がモノクロに戻っていく気がした。

「おい、黒尾!苗字!線香花火しようぜ!」

近くで座り込み、ビニール袋から細い花火を何本か取り出しながら、木兎がこちらを見上げていた。屈託のない笑みって、まさにこのことだな。私とクロくんはそれを受け取り、近くに落ちていたチャッカマンで火をつけた。少しシケっているせいで勢いは小さいが、シュワシュワと独特の火花を散らしながら中央の玉が明るく輝いた。色んな方面に色んな角度で火花を散らす。中央でぷっくり膨らんだ玉には、なんだか思い出が詰まっているような気さえした。クロくんと出会ってから、色んなことがあった。それももうすぐ、転機を迎える。どうなるかは全然分からないけれど、楽しみでいて、少し寂しい。そんな複雑な想いが重かったのか、火の玉はポトリと音を立てずに地に落ちた。

長袖に腕を隠し、落ち葉が夜風に踊る11月。クロくんとの距離は縮まったようで、以前と何も変わらない関係の、秋の暮れ。線香花火は光を失い、冷たい土の上でただの灰へと成り下がった。