今日はロンのめでたいめでたい入学式。兄の僕らが盛大に祝ってやらないと。長期休み中にフレッドとリーと一緒に行った、ダイアゴン横丁のギャンボル・アンド・ジェイプスいたずら専門店で買い溜めしておいた、ドクター・フィリバスターの長々花火。火がなくても火がついて、色とりどりの星を飛ばす僕らのお気に入りの品の一つだ。ロンのついでに獲得した魔法界一有名のハリー・ポッター含め、新たな一年生たちをこの花火と厨房から頂いてきたバタービールで出迎えた。こんなにめでたい日は無いだろう。
「フレッド、ジョージ、いい加減寝ろよ。うるさくて敵わない。」
夜遅くまで祝賀ムードが続いていたが、途中で寝室へと続く階段から掛けられた声に、興ざめだ。確かに時計は既に深夜と呼べる時間帯に突入しており、気付いたら談話室も人が疎らになっていた。パーシーはもう寝るつもりだったのか、お気に入りのパジャマに帽子まで被っている。
「頭が固いな、さすが監督生様だ」
兄を茶かすと、暖炉の前のソファに座っていた新入生の女の子も立ち上がった。
「私も明日のために寝なくちゃ。初日から寝坊なんて冗談にもならないわ。」
「な、なんだよ…」
「せいぜい遅刻しないことね。」
ロンに向かって言い放ったのか、茶色く長い縮れ毛を揺らしながら横を通り過ぎて行った。なんだ、もう女の子と仲良くなったのか?と一瞬思ったが、掛けられた言葉からして、それはないか。
「なんだよロン、嫌われたのか?」
「やるなロン、入学早々女の子に喧嘩売られるとはな。」
からかってやると、横にいたハリーと顔を見合わせて、首を傾げていた。なんで喧嘩を売られているのか分かっていないらしい。また気が強い女の子が入ってきたもんだ。グリフィンドールには意志が強い子が集まるな、と同じクィディッチチームの女性陣の顔を思い出しながら感想を抱いた。気が強い、と言えばさっき談話室から出て行ったラミは大丈夫だろうか。あれからだいぶ時間が経っているが、まだ帰ってこない。まあ、僕が心配する義理はないけど。
結局すぐに祝賀会はお開きとなって、僕らも渋々寝室へと戻った。確かに、初日から遅刻でもしたらガミガミと説教してくる教授ばかりだな。特に僕らは目を付けられているし。ベッドの横に置きっ放しだったトランクから教科書を出すと、隣のベッドから「あ、やばい。」という自分とよく似た声が聞こえてきた。すかさず向かいのベッドの上でリーが顔を上げたのが見えた。
「どうしたー?」
「変身術の教科書忘れた。」
変身術の授業は明日からもうあったはず。それも午後一番。授業開始初日からマクゴナガルの説教をくらうのは、精神的にきついものがある。
「ママにふくろう便を送ろう。今夜出せば明日の昼には帰ってくるだろ。」
「頭いいな、ジョージ!よし、行ってくる!」
「あ、待てよフレッド。もうこんな時間だ、フィルチがうろついてるかもしれない。」
リーに呼び止められ、フレッドは確かに、と足を止めた。
「こんな時はアレだろ。われ、ここに誓う。われ、よからぬことをたくらむ者なり。」
俺たちが持ってたらなくすかもしれない、と二人に言われ長期休み期間預かっていた忍びの地図が、ここで役に立つ。一年生のときにフィルチの事務所から頂戴した、悪戯には欠かせない僕らの宝物。トランクから引っ張り出した何も書かれていない羊皮紙に杖を当てる。唱えると、中央からインクが湧き出て、蜘蛛の巣のように瞬く間に広がっていった。
「フィルチは…、北塔だ。ミセス・ノリスも一緒にいる。」
「マクゴナガルとスネイプは?」
「マクゴナガルもスネイプも研究室にこもってる。今のうちだな。」
ベッドの上で広げた羊皮紙に、フレッドとリーも一緒になって覗き込んできた。どこの廊下も名前が浮かび上がらない中、北塔の廊下に並ぶ二つの厄介な名前。あとはマクゴナガルとスネイプだが、それも羊皮紙を何枚か捲ればすぐに発見できた。今ならグリフィンドール塔からふくろう小屋のある西塔まで、誰にも会わずに行けそうだ。フレッドを送り出そうとしたとき、ふくろう小屋に繋がる階段に、一つ浮かんだ名前が視界に入った。ラミ、こんなところにいたのか。階段で何をしているのやら、そこから名前が動く気配はない。
「げ、なんでふくろう小屋にスクヴィナスがいるんだよ。」
フレッドも名前を見付けたようで、心底嫌そうな顔をしていた。
「嫌いなのか?」
「嫌いって言うか苦手。きついじゃん。どんなに綺麗でもさ。あと悪戯に厳しいし。」
「確かに、ちょっときついよな。さっきもそうだけど。」
フレッドの感想にリーが同意を示す。さっき、というのは、一年生が談話室に戻ってくる前に僕ら在校生だけで花火で遊んでいた際に、寮から出て行ったときのことだろう。確かに言葉も態度も目付きも、ちょっときついところはあるかもしれないけれど、それはいきなり黙り込んだ僕らにも非がある気がする。とは二人には言わないけど。前はそんなんじゃなかったのにな。
「でも本当にモテるよな、あいつ。」
「グリフィンドールだけで一、二、三、…六人には告白されてるんじゃないか?」
「すげえ!僕も片手で数えきれないほど女の子に告白されてみたいよ。」
「何言ってんだよ。アンジェリーナにチクるぞ?」
昔のラミのことを思い返している間に、二人の話題はモテたい話に変わっていた。フレッドは二年生の頃からずっとアンジェリーナといい感じだ。と、言うよりも、アンジェリーナがフレッドに対して好意を抱いている。それにフレッドも気付いていながら、気付かない振りをして今の状況を楽しんでいるような気がする。けれど本人もきっとアンジェリーナには少なからず好意を持っているのだろう、初めて正規ルートで行くホグズミードはアンジェリーナと行くんだ、と去年から宣言していたな。そんなことより、ふくろう便はいいのか、フレッド。本来の目的を忘れたフレッドに、溜息をもらす。
「早く行ってこいよ、フレッド。」
「よし、ジャンケンで負けたやつが行こう。」
ジャンケンは、マグルが生み出した高級な遊びだと、父さんから教えてもらった。でもそれは、瞬時に勝敗を決めるもの。つまりフレッドは僕らに任せようとしているのだ。突然の提案に、なんでだ、僕たちは関係ないとリーと一緒に非難の声を上げた。
「僕らは行かないよ?」
「明日一人でマクゴナガルに怒られるんだな。」
二人で息を合わせて横暴な提案に抵抗を見せる。するとフレッドは僕らに言い聞かせるように、人差し指を上げて天井を指さした。
「いいか、僕らは悪戯仕掛け人。言うなれば運命共同体。楽しいことは3倍、辛いことは3分の1だ。今までだってそうだったろ?」
「いや、違う。」
「全くもって違う。」
フレッドに嵌められてフィルチに捕まったこともあるし、3人の罰則をフレッドだけちゃっかり逃れたこともある。リーもそれを思い出したのか、違う違うと腕を組んで強く首を横に振っていた。するとフレッドは僕らを言い負かす次の手段を考える。こうなったときのフレッドは少し面倒だ。
「分かった。じゃあ明日はジョージの教科書を使うことにするよ。」
「じゃあ僕はリーのを使う。」
「は?おい!」
3人に対し教科書は2冊。奪い合ったところでどう足掻いても誰かが足りなくなるのだ。普通に考えればフレッドが行くのが当然なんだろうけど。リーは双子ならやりかねないなと小さく呟いてから、「分かった、ジャンケンしよう。」とフレッドの提案を承諾していた。リーの寝返りによって多数派から少数派に一転してしまい、二人の視線をモロに受けて不利に陥る。ああ、もう面倒だ。分かったよ、と渋々承諾すると、フレッドは「やりぃっ!」と嬉しそうにガッツポーズを決めていた。僕ジャンケン弱いんだよな。結果は予想通り、二人の広げた手に対して僕の拳が一つ。キャッキャと猿みたいに喜ぶ二人に若干イラっとする。
「おい、ジョージ、マフラー持ってってやれよ。」
フレッドは大層面白そうに腹を抱えて笑いながら、ベッド脇で開けっ放しになっていた僕のトランクケースからマフラーを取り出してこっちに投げてよこした。続けて「風邪引いちゃ大変だもんな」とリー。よりによって僕のマフラーかよ。今更二人を敵には回せず、こうなったら行くしかないか。項垂れながらベッドの上で面白がっている二人を置いて、若干憂鬱になりながら部屋を出た。