高校一年 07/26(土)


俺はこのかた女と付き合うたことなんやないからよう分からんけど…。『そばにいて』っちゅーことは、あれか。つ、付き合うとかそーゆーことになるんか?誰か教えてほしい。朝やって目ぇ合って挨拶して、微妙にはにかんだりして。なんやねん、このくすぐったいんは。付き合うとるんか?友達には『そばにいてください』なんて言わへんやろ…。俺やって言うたことないで。あー小春にはあるかな。分からん分からん。やけになって持ってたタオルで頭をガシガシ拭いとった時や。


「ユウジー!」


いつもは白石の名前しか呼ばれへんから、あまりの珍しさに視線を向けてしもた。んで瞬時に戻す。あー変なん見てもうた。気付かへん振りしとったら、「見なかった振りせんでよー!」って大声出しよって。俺、あいつあんま好きやないんやねんなぁ、自称ファンクラブの女。キャンキャンうっさいし。あいつはよう話し掛けてきよるし、顔を覚えてもうたけど。しゃーないからコートから出てやった。すると小走りでかけてきて、あろうことか手に抱き着いてきよった。


「ユウジ、お疲れ〜!」
「手ぇ離せやアホ。」
「あんなぁ、吉本のチケット手に入れてん!」


思わず、物に釣られた。手、振り払うんも忘れてしもて。


「ほんまに!?ええなぁ!」
「ほんまやで!二枚あんねん。一緒に行かへん?」


頭が冷えて、思考回路が正常に戻る。危なかった。今のノリやったら絶対頷いとった。二人でなんか行くか。行きたくもないわ。好きな女おんのに、他の女なんかとお笑い見に行く訳ないやろ。これはええ機会なんやろか。「弥栄と付き合っとるから」って言ってまうか。けど、もし俺の独りよがりやったら?ほんまにダサすぎやろ、俺。激ダサや、激ダサ。けど、このままやったらずっと曖昧なままな気ィする。やったら、ええ機会やないか?有言実行やろ…


「一氏くんっ!」


って思ったところで邪魔が入る。振り返ると、弥栄が両手でタオル回収のかごを抱えて立っとった。


「タオルを、…」


もう、言うしかないやろ。きっと、弥栄やってそう思ってくれとるやろ?ちゃんと言っとかな、自称(略)は絶対調子乗るやろ。


「あーすまん。」


バクバクと早鐘打つ心臓に気付かん振りして、俺は弥栄に歩み寄った。


「俺、彼女おるから行けへん。」


思うたよりダメージはでかかったらしい。目を見開いて、信じられへんとでも言うような表情で。一瞬、心が痛んだんは、弥栄の影響なんかな。前ほど冷酷でもない気ィすんねん。とりあえず、ちゃんと言うたで。これで弥栄も自覚…


「一氏くん、彼女いたんだ…」
「お前やろこのドアホ!」


一瞬ボケか思たけど。っちゅーか冗談にもならんボケ方でつい本気で叩いてもうた。けど、驚いたように「わ、わたし…?」とかほざいとる弥栄に、やるせなくなった。嘘やろ。ほんまに独りよがりかい。むかつく。けど、どっちかっちゅーと、悲しい。絶対口には出さんけど。


「違うんか!昨日一緒におりたい言うたやろ!死なすど!」
「えっ…」


弥栄の好きって、そういう意味やなかったん?そばにおってっちゅーのも、チームメートとしてっちゅーことか?自称(略)の前でそない話も出来ひんから、とりあえず二人になりたいわ。


「そういうことやから、すまんな。」


無理矢理弥栄の手首引っ張って、自称(略)から離れた。何も言ってけーへんし、べつにどうでもええんやろな。イライラしながら手ぇ引っ張って歩いとったら、不意に名前呼ばれた。もう、開いた口は止まらんかったんや。


「ちゃうんか?」
「え?」
「…一緒におりたい言うたやろ?俺も好きって言うたやろ?ちゃうん?付き合っとんのとちゃうんか?」


なんて虫がいいんやろな。今までさんざん拒絶してきて、これからはせーへんって誓って。けど俺が拒絶されるんは、恐い。弥栄はいつも、こない想いやったんかな。どうして俺はいつも、相手の気持ちを考えてやれんのやろ。欠点は自覚しとんのに、直せへんっちゅージレンマや。頼むから、拒絶せんで…。アホみたいにバクバクさせながら、弥栄を真っすぐに見つめた。


「…違わない、よ」


弥栄の手首を掴んどった手の力が緩んだ。するり、と抜ける手。言ってよかった。ほらな、有言実行やって言うたやろ?誰に言う訳でもなく、心ん中で呟いた。内心ドヤっとったけど、ほんまは壊れそうなくらいドキドキやってん。